第65話

 そんなワケでまずは下から見て行こうと、魔界アッチ化してから一気に柔軟になった身体の許すまま直立開脚一八〇度で踵を天高く振り上げて、ギロチンみたく一気に振り下ろし、ズドッッッ☆


 バカみたいに硬い鱗に包まれた踵は、僕の目論見通りに床を突き破って衝撃波を発生させ、下の階、その下の階、もっと下の階、更にその下の階へと続く地下直通路を作った。

 ついでに、瓦礫になった床材を雨や隕石みたく階下の床に振り注がせちゃったので、中々派手なカンジになっちゃったゼ。見た目的にも音的にも。


 こんな爆破現場みたいな騒音撒き散らせば施設内中の人が皆集まって来かねないので、サッサと用事に取り掛かろうか……もしかしたら逆に、建物の倒壊を恐れて避難してくれるかもだけど。


 さっきと同じく、脳筋工法で開設した直通路に飛び込んで最下層を目指す。

 幸い――幸い? さっきの踵落としで最下層まで届いてたみたいなので、もう一回ブッ放して今度こそ施設倒壊――なんて事にはならなそうなので安心だね。


 ――っと、到着。


 何故か真っ暗で獣臭ってカンジの酷い臭いが立ち込める最下層に降り立つと、そこは上で見たカプセルとかの代わりに降り注いだ何階層分もの床材によって瓦礫の小山が鎮座する……地下闘技場? 的な場所でした。


「……ココって、アレか? 『ファンタジックなオカルト兵器の実験運用場』的な?」


 独り言ちて、その声でエコロって見ると……うん、なんと言うか、在りし日のギリシャで歓声を沸かせたコロシアム的な円形の巨大な空間が広がっていて、コンクリートで固められた地面に足を取られない程度の砂地が敷き詰められてるのが聞こえた。


 って言うかそもそも、あれだけの階層ブチ破って積りに積もった筈の瓦礫の山が天井に届いてないし、これならキリンだって思いっ切り首が伸ばせちゃうだろうね。


 で、そのお高い天井を見上げてみると、何十、何百と言ったレンズが、恐らくは強化ガラス越しに幾つも目に入った。アレがこの闘技場の観客席ってワケだ。


 ってか、僕が通ってきた穴がポツンと寂し気に見えるほど広い。

 これなら、僕でもちゃんと加減すれば魔法アリで暴れても問題無さそうかな……


 え? 『なんで、ボス部屋踏み込んだみたく意気込んでんの?』だって?


 そりゃあ、勿論、大方の期待通りの展開が聞こえてきたし嗅げてきてたし魔力に感在りだったからだよ。


 ほら来た。



『『『――ギシャブルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』』』



 ゴウンゴウンガシャキーンッ、なんて重々しい駆動音と耳障りな金属音が鳴り響くと同時に、それを掻き消すような勢いで何十って数の咆哮が。


 恐らくは、僕がこの最下層に辿り着いたのを天井のカメラで見たおデブが、実験台かなんかの理由でココに元から控えさせていた共を放ったってトコだろうね。


 おお、おお~、スゴイスゴイ!

 人型で大小様々な鬼種に、ウネウネカサカサな虫種キシュに、ニョロニョロピチピチな鱗種リンシュ! 色んな種類の がこんなにゾロゾロだなんて! いやコレじゃあ、ボス部屋って言うよりモンスターハウスだけど。


 ついでに、この闘技場の奥の方――恐らくは壁越しにさっき乗ったエレベーターと似たような駆動音が聞こえるし、魔力ソナーにも真下へ落ちるようにゆっくりとココへ向かってきてる気配が幾つもあるから、さっき干渉した鬼みたく他の階で保管してた共を追加で運んできてくれてるみたい。


 う~ん、コレは、チョットばかりあのメタボについての認識を改める必要があるかも。


 だってそうでしょ?

 アイツ、僕が『ゴミ掃除するね』って言ったら、掃除しやすいようにワザワザを纏めて運んできてくれてるんだから!

 うんうん、キモいし臭いし醜いオッサンだったけど、その親切心にだけは素直に感謝ナリ。


 となれば、早速デブ君の協力に応えてあげなくっちゃね。


 足指を曲げる。

 これだけで、爪先に伸びる鉤爪が砂地どころかその下のコンクリートにまで易々と食い込んで、僕のフザケた膂力でもある程度はすっぽ抜けずに済むグリップが手に入る。

 そこから身体を投げ出すように前へと倒れ込みつつ、その体重移動に合わせて足を蹴り出してやれば――



『『『――アアアアアギャブルアガッッッ!??!!!』』』



 ってな具合に、マヌケ面晒してる先頭の鬼が反射行動すらできない内に距離を詰め切れるし、その勢いのまま魔力で強化した跳び膝蹴りが上手い具合に刺さるってワケです。

 さあ、ドンドン行こう! 次はグーを思いっ切り振り被って――って、アレ?



『『『ギシャブルベゴバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!??!!!』』』


『ゴブ、ガグギャア!?』


『ギシャガシャ、ブギャゴバ!?』


『ギャア、ギャアアア!!』



 うん、なに言ってるか分からん。取り敢えず日本語でおk。

 じゃなくて、なんか追撃が必要無いくらいにドイツもコイツもボロボロになってる。


 いや、何が起こったかなんて明白だけどね。

 のクセに貧弱な鬼が、僕の飛び膝一発で肉片になったと思ったら、その後続の共もその肉片に全身を貫かれて阿鼻叫喚――って、なんでだ!?


 まあ、原理は何となく想像つくよ?

 アレでしょ、『飛んでった肉片のスピードが銃弾レベルだったから、精々数グラムしかない拳銃弾よりはずっと重いお肉達はその運動量で共をブチ抜いた』ってカンジでしょ?


 そりゃあ確かに、結構な速度で突っ込んだし膝にもソコソコ魔力乗せてたけどさー、コレはチョット脆過ぎじゃない?

 先頭の鬼も、後続のギャアギャアズも。

 今まで、多分人類史上最多の共と戦ってきたと思うけど、少なくとも魔界アッチではこんな現象見た事ないんだけど。

 アレかな、人間界コッチでの魔力関係の弱体化が原因なのかな?


 一応、連中の生命線な魔臓器には当たってないみたいだから、最初に蹴っ飛ばした鬼以外はまだ息があるみたいだけど……うん、サッサとトドメ刺そう。

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