第40話

 でも実際、こんなに張り切って飛ばなくたって、目的地まではそんなに掛からないだろうなあ、なんて思ってたりする。


 だってさ、一つ目のキューブが縄文時代で二つ目のが戦国時代なら、その間は少なく見積もっても一五〇〇年分以上のキューブが積み重なっていた計算になるでしょ?

 で、今から行こうとしている現代は戦国時代から見て約五〇〇年後に当たるワケだから、単純にキューブの数距離は三分の一以下になるよね。


 勿論、縄文時代は範囲が広いから正確な事は言えないけど……でも、縄文時代の終わりは確か紀元前だったハズだから、伸びる事はあっても縮む事は無いとも思う。

 となるとやっぱり、今からの道程は最初に昇った時より短いハズ……ってワケですよ。


 にしても、ホント創ったヤツの頭ん中みてみたいってくらいにイカレカラフルだよな~、このバベルタワー。

 今だって、グルングルン変色しまくってるし……って、んん?

 何かがおかしい……視界の端に何か得体の知れない違和感がある。

 目の錯覚かな?


 思わずバサッと広げた翼で瞬時に制動を掛けながら上体を起こし、キューブタワーの壁面に立っているかのような格好で眼下のキューブ達へと視線を巡らせる。


 ……なんだろう?

 何故だか分からないけれど、感覚的には殆ど地平線に相当するような規模で広がるキューブの大地が、上れば上るほど微妙に狭まっているように見える。


 まるで、背景の白が両端から極彩色共を侵食してるかのような光景だけど、だからってそれを確認しに行っちゃったら、折角見付けた『魔物が絡んでいない』足元のキューブ列を見失っちゃうだろうし、幸いと言うべきか、この列はちゃんと上までカラフルが続いているし。


 一応、足元のキューブに出入りして灰色にしちゃえば、それを目印にこの列を見付けられるだろうから、確認に行けないワケじゃあないけど……でも、『一度入ったら二度と入り直せない』って性質上、あんまりヒョイヒョイ入りたくないしなあ……

 う~む、どうしよ……?


「――ん~……ま、いっか。別に、この塔の事を知り尽さなくても、タイムパラドックスやら存在干渉やらなんて幾らでもできるだろうし。だったら、さっさと上行って家族みんなに会いに行った方がずっと有意義だし」


 うんうんと一人で頷きながら組んでいた腕を解き、足裏から軽くボッと魔力放出して二七〇度ほど回転。

 そうやって、再び旋毛を――いや、今は鱗と角しか生えてないか……とにかく、頭部を進行方向に向け直した僕は、少しでも視野を広げる為に『壁面に対して高度を上げる』と言う言葉にするとワケワカメな事もしつつ、塔と平行になる位置をキープして飛行を再開した。


 それで見えてきたのは、端からボロボロと崩れるように消えていく色々にイロイロなキューブ達と、その消えたキューブの奥、この巨塔の芯に当たるらしい真っ黒な柱だった。

 まだまだ遠目ながら、その真っ黒さや凹凸の無い滑らかそうな表面を見ていると、今纏ってる変身体を彷彿とさせられて、何処となく親近感が……って、んなこたぁどうでもいいんだよ。


 ん~、キューブ一つ禿げるだけで芯が見えるって事は、この塔はバカみたいな数の箱を積んだようなシロモノなんじゃなくて、球体を芯にしてるル○ビックキューブみたいに『何らかの立体を付け足した部品で別の図形に見せている』ってカンジなのかね。


 って言うか、その付け足しの消える勢いが尋常じゃない。

 脳ミソつらつらさせながらキョロキョロと左右に視線を送ってると、片方を見ている間に反対側がゴッソリ消えてるものだから、なんだか煽られているような気さえする。


 まあ、そのカタストロフィーな見え方は飛行速度が速過ぎる所為だけど。

 でもこれで、最初に見た時点でなんとなく浮かんでた疑問が解消できた気がする。


 そう、今は止まってるけれど、僕がこの異空間へ踏み込んだ時ってこのキューブ達は動き回っていたんだよ。

 それも


 今更繰り返すまでもなく、ココにあるのは巨大なサイコロではなく、神話に出てきても通用するようなサイズの塔――つまり、その形状は縦横の長さが等しい立方体ではなく、横より縦の方が遥かに長い円柱なんだよ。


 そうなると、キューブ達が縦方向に動くのはオカシイよね?


 だって、キューブが時間に対応しているなら時間経過で増えるハズなんだから、キューブの一つ一つが縦に動いたりしたら、天辺や底辺のキューブが押し出されて外されちゃうでしょ?

 勿論、そうならないように他の縦列が逆方向へ動いてスペースを空ければ、押し出されたキューブはそこへ横移動して収まれるんだろうから、それほど疑問に思ってたワケじゃなかったんだ――二つ目のキューブに入るまでは。


 二度目のキューブ探索で僕は縦列が時間軸に関わってると仮定したし、それは今でも全く疑っていないけれど、でもその所為で、新しく『何故、キューブが元々対応していた時間軸から外れるような動きをしていたのか?』って疑問が浮上した。


 横方向の回転ならいざ知らず、過去したのキューブが未来うえへ動いたり、未来うえのキューブが過去したへズレたりしたら、中の時間がメチャクチャに掻き雑ぜられちゃうワケだからね。


 まあ、そもそも『キューブが動く』って事にどんな意味や効果があるかなんて知らないし、に解明しなくても良い類の疑問だと思ったから、そんなに気にしてなかったけど。


 でも、今回の発見でなんとなく『こうなんじゃないか?』ってのが見えてきた。


 要は『キューブの中にそれぞれの時代に対応する人間界が納められている』んじゃなくて、『中身の円柱こそが人間界』って事なんだ。


 ……なんか、上手く『要』せた感じがしない。

 我ながらバカだバカだとは常日頃から思ってたけど、ここまでアレだと逆に凹むなあ……

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