第38話

 タイムパラドックス――過去改変による因果律の矛盾……所詮は架空の一理論のクセに、いろんなフィクションの中で数々の登場人物達を苦しめる厄介なシロモノだ。


 今までのキューブ探索は、僕にとって自分の生きている時代から遥か過去への旅だったワケだけど、どれだけ時間的な隔絶があっても過去は過去。

 当然、そこでの行動如何によっては未来が改変される事は十分あり得ると思う。

 で、その未来改変で一番の怖いのは、父さんや母さんや兄さんに悪影響が及ぶ事だ。


 そりゃあ、僕がこうして存在できてるんだから所謂『親殺しのパラドックス』的なのが発生してないのは確実だろうけど……万一の事があったらと思うと、目の前が真っ暗になりそうだ。


 そんなワケで、実の所これ以上のキューブ調査は避けたいんだよね。

 もう既に、縄文時代で一人、魔物が居た方のキューブで八人、計九人も助けちゃったワケだし。


え? 『人命救助の何が問題だ? 法的にも人道的にも肯定される行為だろ?』だって?


 いや、まあ、そうなんだけどね……前に見た映画で、丁度今の状況と同じように時間旅行とパラドックスを扱ってたヤツがあったんだけどさ、その映画によると『善悪正誤に関わらず、あらゆる行動は未来を改変し得る』らしいんだよね。


 さっきの人命救助で例えるとさ、僕が助けた人達は本来あの場でクマさんや魔物に喰い殺される運命だったとするでしょ?


 それで、僕に助けられちゃった事によって、その本来は死んでなきゃオカシイ人達が後の歴史を生きる過程で続くハズの無い子孫を産んで、その本来は存在しない人達が未来を改変させてしまったり……みたいな。


 そんなカンジで、時間旅行中は善行が必ずしもプラスに働くワケじゃないって事なんだけど……まあ、だからってあの人達を助けた事を後悔する気は無い――って、魔物? ああ、勿論殺した事そっちも後悔してないよ。


「――にしても、むぅ……まさか、の次に因果律なんて物が立ちはだかるなんて、これじゃ丸っきりインフレ系のバトル展開じゃん。全く、面白過ぎる……」


 なんて、皮肉交じりにぼやいてみせるとなんだか壮大に聞こえるし、ココまで散々難儀してる風だったけど、実はこの状況って千載一遇の大チャンスでもあるワケですよ。

 何故って、そりゃあ勿論、僕にはなんとしてでも書き換えてやりたいクソッタレな過去があるからね。


 ホラ、どこかで話したと思うけど、僕って旅行中の車が事故って魔界に転移したじゃん?

 しかも、その車を運転していた父さんと助手席に座ってた母さんは事故で――って、僕と一緒に魔界に来ちゃった兄さんも――ってさ。


 最初は、例の干渉魔法を使ってそんな事故が起きたって消し飛ばしてやろうと思ってたんだよ。


 照準の方はさ、事故現場とか、そこで――になった父さんや母さんを指標にして、内的エネルギーが枯渇する寸前まで魔力を注ぎ込めばなんとかなるだろうし、干渉で使うエネルギーにもアテがあったし……何より、魔王を殺してしまえるほどに鍛えられてきた魔法だから……こう、なんとかなるかな~って期待を……ね☆


 でも、この方法はホントに成功するかどうか未知数だし、例のタイムパラドックス的にも危ういから、二度目のキューブ探索を終えた辺りで『スペアプランが必要だな~、なるべくならBCD分くらい』なんて考えてたワケですよ。


 そんな所に、三度目のキューブが俗に言う並行世界で『過去改変が可能』だって分かっちゃったワケだから、まさに棚ボタ、七転び八起き、青天の霹靂!


 流石にC案D案までは期待できないけど、ここに来て脳筋ゴリ押しのプランAアホなんか目じゃないってぐらいスマートなプランBが見つかったってワケ♪


『あ? ねぇよそんなもん』『あ? ねぇよそんなもん』『あ? ねぇよそんなもん』?


 ……皆さん、何と戦ってんの? え? ローカ……、何ソレ?


 まぁとにかく、そりゃあ『一度入ったキューブには二度と入れない』ってルールに魔界へ拉致られる前の僕もカウントするんだったら、事故直後から僕が産まれるまでの間のキューブには入れないってのも考えられるから、事故に直接干渉するのは難しいのかもしれない。


 だけど、僕が産まれる前の時間に入れるなら、事故を防ぐ手立てが無いワケでもない。


 例えば、そうだな……あの山を平らに均して、そもそも『山の地形に沿った急なカーブ』なんて物が存在できないようにしてやるのが一番バカンタンで確実かな? また脳筋案だけど。


 他には……事故で突っ込んできたトラックの運転手を――いや、それだと、事故の日までに別の人間が雇われちゃって、トラックがあの道を通るのは変わらないかもしれないから、あのトラックを所有してる会社を潰すとかする方が確実か……これも、脳筋チックだけど。


 あとは……父さんや母さんへ全部正直に話すってのも悪くないかも。

 父さんも母さんも賢くて良心的な人だから、魔法を実際に目の前で見せてキチンと話せば、『この世には超常的な事柄が実在していて、未来の自分達に危機が迫ってる』って分かってくれる……かも、だし……


 ま、まあ、どれを選ぶかはともかくとして、タイムパラドックスを利用して父さんも母さんも兄さんも助けようって案は中々いい線行ってると思うんだよね。


 それに、『この無数のキューブの中から、どうやってお目当てのキューブを見付けんだ?』って問題も、さっきの仮定が正しければ解決したも同然だし。


 まず、確定ではないけど前提として、縦の時間軸的に今居る戦国時代キューブから見て上の方に僕らの時代のキューブがあるって考えられるっしょ?


 それから、今さっき『退不可』ってルールの話したっしょ?


 で、その証に一度したキューブは絶えたみたいな灰色になるでしょ?


 そんで、ココにさっきの『事故前の十三年も含むのでは?』って仮定を掛け合わせると――『取り敢えず上に行けば、ココに来てから入った覚えも無いのにくすんじゃってる謎キューブがあって、それがお目当ての立方体ちゃんなのでは~』ってなるワケです。


 ……いやね、仮定に次ぐ仮定に依る楽観論でしかないって事くらいは自覚してますですよ?


 でもまあ、そんな事言っても他に指標になってくれそうな物も無いんで、取り敢えずは上を目指す方向で行きますですよっと。

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