第21話


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「――やっぱ脱げた……なんか、アレなのか? 校則みたいに指定服でも決まってんのかね?」


 いや、それなら、そもそもココじゃ変身できないハズか……な~んて下らない事をぼやきつつ、キューブから異世界へ踏み出した僕は足場と重力の消失に身を任せた。

 ついでに全身を覆っていた変身体もまっさらになっちゃったケド……コレはまあ、また着直せば問題無いので無視な方向で。


 なんて思いはしつつも、早速消された変身体を着直し、出てきたばっかのキューブを確認すべく振り返ると、やっぱり僕の予想通りに赤紫が機能停止の灰色に変わってた。


「……立入禁止にしたいなら、黄色と黒のシマシマにでもしてくれれば分かり易いのに。気が利かないねえ」


 スルスルと滑らかな壁面に触れながら愚痴るけれど、それでワザワザ改めてくれるハズも無く、灰色のキューブは相変わらず元気無い色のままシーンと黙りこくってる。

 僕としてもムザムザ時間を浪費する気なんて無いので、さっさと移動しようとし――


「……あ、そう言えば、確かめてなかったっけ」


 視線を今出てきたキューブの真下、ズラリと積まれた停電色共へと向ける。

 そう、さっきは確かめ忘れてたけど、停電しちゃったのは出てきたトコのだけじゃなくて、その下のヤツらも一緒だったんだよね。

 って事は、恐らくソイツらにも入れなくなってるんじゃないかな~、ってね。

 そんなワケで、パサリと翼を軽く扇いでキューブ一つ分だけ下降。

 どれどれ……


「ん、やっぱり入れないか……って事は、もしかすると、ココのキューブは入ってた時間に応じて立入制限が掛かるって事なのかな……?」


 自分でもよく分かってないので補完しようと口に出してみたものの、やっぱよく分からない。


 え~っと……僕は最初、出入りに使ったキューブは同じ物だと思ってたんだ。

 でもそれなら、その使ったキューブだけ電源が切れるハズだよね?


 なのに、変色してたのは出てきた一個だけじゃなく、その下一列の何十何百も一緒だった。


 そして、言うまでもなく下で変色してたキューブにも入れなくなってたのであるからして、コレってつまり、『縦に積まれたキューブは人間界の時間に対応しているから、中に入って経過した時間の分だけ、その上のヤツも『一度入った』事になってんじゃね?』って思うのです。


 だから、実は僕が入ったキューブは出口になったキューブのずっと下にあって、出口のキューブは入ったキューブの未来に相当するヤツだったってワケだね……予想が合ってればだけど。


 まあ、要するに『あんま長居すると二度と入れなくなるキューブが増えるから、足りないオツムを捻るのはキューブを出てからにちまちょうね~』って事だ。注意しなきゃね、うん。


 そんでさ、ここまででキューブの縦軸が時間軸に関係するって仮定できるとして、次は左右横軸のキューブが何の為にあるかを調べるべきだよね?

 んま、どうせ中に入ってみるくらいしか調査のしようなんて無いワケで、考えるべきはドコのキューブに入るかだけだけど……


「右か左か……ん~、さっきの縄文時代と戦国時代を考えると、あんまし近くのキューブに入っても違いなんて分からなそうだし……なるべくなら、また遠くのヤツにした方が良いかな?」


 実際、最初の縄文時代キューブの次にすぐ上のキューブに入り直していたら、出た時から全く代わり映えの無い人里に戻っただけだろうから、『なるべく遠くのヤツ』ってのは間違いじゃないでしょ。

 そもそも、今までのキューブで時代の変化が分かったのは、ほぼほぼ偶然みたいなものだし。

 これなら、いっそ西暦が輸入されてそうな明治時代以降に対応してるキューブでも探して入って、そんで改めて横軸を調査した方が変化を見付け易いかもしれない。


 いや、でもな……キューブにデジタル時計が付いてるワケでもないから、狙った時代を探し当てるのはそれなりに面倒だし……あんまりヒョコヒョコ入って『タイムパラドックスが起きた! 辰巳よ! 未来を変えてはいけないのだ!』ってなったら目も当てられないし。


 ……やっぱ、さっき入った――と思われる――戦国時代キューブのトコまで降りて、そっから横軸を見てみた方が早いかもしれない。

 一応は一度訪れた時代ではあるんだから、何も見付けられないなんて事は無いかもだろうし、もし見付けられなければ、その時はまた改めて分かり易そうな時代に移って調査すれば良いし。


「……うん、決まり! んじゃ、早速戻るとしましょうかね」


 未だにうだうだしそうな思考を吹き飛ばすべく決意を口に出すと、ヒョイッと身体をコンパクトに丸めつつ、その場でサマーソルトターン。そんで目指す下方のキューブへ方向転換っと。


 ほら、さっき『最初に入ったキューブは下の方にある』って仮説ったっしょ?

 そんで、この戦国時代の列を指標にして調査するんだから、やっぱり入るタイミング高さは合わせた方が良いんじゃないかと思ってね。

 ってなワケで、キューブタワーを背中側に向けるような体勢で身体と翼を広げると、僕は頭上の停電色キューブの列をなぞるように魔力放出を開始した。


「――なんか、上も下も代わり映え無さ過ぎじゃね? ホントに進んでんのか?」


 いや~、速度自体はさ、障害物どころか空気抵抗も無いみたいにズンズン上がってるんだけど、見えてる景色がず~っと変わらないもんだから、まるでその場から一センチも進んでないみたいに思えてさ。


 例えるならアレだ、ガソリンスタンドとかで洗車してる時の逆かな。

 ホラ、アレって車の中に居ると、外の機械が動いてるのか車が動いてるのか分からなくなるでしょ?

 今僕が感じてるのはそんなカンジかな――っと、到着したね。


 魔力の放出方向を調整して減速、停止しつつ、再びのサマーソルトターンで上下前後を入れ替えた僕は、灰色に変色した一列の最底辺、さっき入ったキューブとそっくりな色合の赤紫達との境目に居た。

 あとは、ココから適当なトコまで平行移動するだけだ。


「は~てさてっと、んじゃ、まあ、ワンモアフラァ~イってね」


 少しばかりの期待感と好奇心で能天気に飛行再開。

 目指すは利き手側、右方向。

 うっかりキューブに触れないよう気を付けて出発デース。


「さ~てさて。鬼が出るか蛇が出るか、はたまたもっとワケワカメなのがお出迎えか……次回もお楽しみに~☆ ってね」


 鬼より厳つい角と、蛇より滑らかな鱗を見せびらかしながら、僕は『適して当たってる』方の感性に身を委ねる。

 そうして、振り返っても灰色が見えないどころか、左手側の赤紫達が何かの幻覚に思えてきた辺りで、魔界での旅路でも御世話になった魔力ソナーと五感の間に燦然と輝く第六の感覚CHOKKANがを検知。


 何度も命を救ってくれた相棒を疑うワケもなく、僕は一瞬のタイムラグも無しにチョッカン=サンが指し示してくれた夕暮と夜空の境界色キューブへとタッチ。

 その瞬間、もはやお馴染みとなった素晴らしき吸引力に巻き込まれれれれれ――

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