06 出会いと再会

「おーい、兄貴あにきー!」

胡蝶こちょう緒恋おれん

「ななー!」

「カーくん、カワセミくん」


 町民センターの近くへ行くと、ちょうど四羽がやってきた。入り口の前で、みんなと合流する。

 ちなみに、胡蝶くんや緒恋くんも、サングラスや帽子で顔を隠している。


「みんな、どうだった?」


 わたしの問いに、カーくんが首を横に振った。


「手分けして運動場探したけど、見つからなかったぜ? ヒトも多いし、暗くて大変だったんだからな」

「そーそー、カラスちゃん、鳥目だしね?」

「あれ? 鳥だけどカラスさんって、目ありましたか?」

「てめぇら、わざわざ探してやってんのに……。いい加減にしねぇと、喰っちまうぞ!」

「カーくん、ケンカしちゃダメだよ~?」


 あおる緒恋くんと胡蝶くんに、怒り出すカーくん。そしてなぜか緒恋くんに抱かれているカワセミくんが、カーくんをなだめた。

 カワセミくんを盾にされ、カーくんは二羽に手を出せないらしい。


「てめぇら! カワセミを買収してんじゃねぇ!」


 地団駄を踏みながら、カーくんが怒鳴る。ちゃんと小鳥ことりくんは探していたみたいだけど、なにがあったんだろう……。

 大翔たいとくんが、小声で「すみません」とわたしに謝った。いや、大翔くんは悪くないよ……。


「ところで、幹歩みきほたちは?」


 大翔くんが辺りを見回す。

 すると、頭上から。


「おれならここだ」


 声が降ってきた先――見上げると、わたしの目と鼻の先に、幹歩君の目と鼻が……!?


「きゃっ!?」


 びっくりして、身を引いた。

 ロープを使って壁を垂直降りしてきた幹歩くんが、ひらりと着地する。

 さすがゴジュウカラ。というか、壁から降りるの好きなのかな……。


「屋上から探したが、見つけられなかった。控え室にも戻って確認したが、帰ってきていない」


 ロープを回収しながら、幹歩くんがわたしたちに伝える。

 大翔くんの表情が暗くなり、目線を腕時計へ落とした。


「あと十五分……。どうしよう……」


 胡蝶くんは片手をあごにそえる。緒恋くんは片手で頭をいた。幹歩くんは眉根まゆねを寄せて、他のメンバーを見やる。

 重い空気が辺りに漂う。カワセミくんが心配そうに、みんなの顔をうかがった。カーくんはわたしと目が合い、両手のひらを上に向け、肩をすくめる。

 と、そういえば……? わたしは辺りを見回した。


「ねぇ? トキは?」

「「「あっ……」」」


 わたしの一言で、みんながハッとトキの存在を思い出す。

 一緒にいたはずの幹歩くんへ、視線が集まる。


「おれは上から探すから、下で探すように頼んだが……。仲間ではないから、行動は把握していない」


 ということは、ここらへんにいるはずだよね。でも、いないってことは……。


「どどど、どうしよう!? トキまで行方不明になっちゃった!?」

「アイツ、トロいからな。ヒトに捕まったんじゃねぇのか?」

「ヘビにたべられちゃったかも!?」

「や、やめてよ、カーくん、カワセミくん!? そんな不謹慎なこと言わないで!」

「な、ななさん。落ち着いてください……」


 動揺隠せないわたしに向かって、大翔くんがなだめてくれる。

 でも、小鳥くんも見つからなくて、時間もなくて、さらにトキまでいなくなって……。事はどんどん深刻になっていくばかり。

 いったい全体、どうすればいいの!? と、途方に暮れかけた、その時。


「なな!」


 トキの声。

 わたしは声が聞こえたほうへ振り返る。


「トキ!」


 さっきわたしがトキを探して通った道。建物の裏手へ続く細い道から、トキが出てきた。

 さらにその隣には、首に黒いスカーフを巻いた男の子が。


「小鳥!」


 大翔くんが叫び、走り出す。わたしたちも、その後に続いた。


「トキ、よかったー。小鳥くんを見つけてたんですね」

「あぁ。裏にある丘の上にいた」


 そっか。裏側は会場じゃないし、人もほとんどいなかったから、見落としていた。なにはともあれ、みんな見つかって一安心。

 と、隣から、大きく鋭い声が響いた。


「おい、小鳥! なにやってたんだよ! 探したんだからな!」

「これでライブに影響が出たら、どう責任を取るつもり?」

「勝手な行動をすれば、迷惑が掛かる。仲間でなくても、わかるだろう……」


 メンバーから、矢継ぎ早に言葉を浴びせられる。一番小さな小鳥くんは、黙ってうつむいた。

 かわいそうになって、わたしはなにか言いたかった。けれどもその前に、トキが口を挟む。


「待て。こいつは、ただあそこにいたわけじゃない」


 そう言って、小鳥くんに目をやった。

 するとその後ろから、男の子が顔を出した。小鳥くんよりも小さい、三歳くらいの子。小鳥くんの服をぎゅっと握って、目を赤くして涙目になっている。


「トイレに行った時に、窓の外でこの子が泣いている姿が見えたんだ。だから、ぼく、この子のそばにいたかったんだ……」


 その子の頭をでながら、ぽつりぽつりと小鳥くんが言う。その目にも、涙が溜まっている。けれども、堪えるように、メンバーのみんなに向かって顔を上げた。


「勝手なことして、ごめんなさい……。でも、放っておけなかったんだ。大翔お兄ちゃんと出会った場所で、来てくれたヒトを、みんなを、幸せにしたいから……だから、ぼく……」


 その時、なにも言わなかった大翔くんが、小鳥くんの前へ出た。

 手を伸ばす。

 小鳥くんがきゅっと目をつむる。

 その頭に、ポンッと手が置かれた。


「偉いよ、小鳥。だから、胸を張って、言っていいんだ」

「大翔……お兄ちゃん……」


 恐る恐る目を開けて、小鳥くんは大翔くんを見る。

 大翔くんは微笑んで、小鳥くんの頭を一撫でした。それから手を離して、額を軽く小突く。


「でも、僕らだって小鳥のことが心配だったんだ。だから、次からはひとりで行動しないで、ちゃんとだれかに相談するんだよ?」

「……うんっ。ごめんね、お兄ちゃんたち!」


 大きくうなずき、みんなに謝る小鳥くん。

 大翔くんは他のメンバーの顔を窺う。みんな、微笑んで顔を見合わせたり、静かに目を閉じたりしている。大翔くんはゆっくりと息を吐いて、肩の力を抜いた。

 わたしもその光景を見て、ほっと胸を撫で下ろす。


「なな」


 すると、トキが小声でわたしを呼んだ。視線を移した先は、小鳥くんの後ろにいる男の子。

 そうだね。本当に安心するためには、本当の迷子の子を、ちゃんと送り届けてあげないと。


「どうすればいい?」

「うん、そうだね。ひとまず――」


 わたしはみんなに説明して、ある場所へ行くことにした。



   *   *   *



「パパ! ママ!」


 わたしたちがやってきたのは、お祭り会場の本部。

 小鳥くんを探している時は使えなかったけど、ここなら迷子の放送をして男の子の親を探せると思った。

 けれど、相談をする前に、解決できたみたい。


「ハヤト!」


 本部のテントへ入った瞬間、小鳥くんと手を繋いでいた男の子が叫んだ。それを聞いて、スタッフと話していた人たちも声を上げる。

 どうやら、お父さんとお母さんらしい。男の子が駆け出し、二人のもとへ抱きついた。

 これでようやく一件落着。わたしは大翔くんと顔を見合わせ、お互いに微笑む。

 するとその時、テントの中へまた一人の子どもが入ってきた。


「ハヤト!? もう、探したんだからね! もうすぐカラボのライブなのにっ!」

「お、おねえちゃん……ごめんなさい……」


 小学生高学年くらいの女の子が、男の子のもとへ駆け寄ってきた。あの子のお姉さんかな。両手にはペンライトを持っている。どうやら、カラボのファンらしい。


「……見つけた」


 不意に横から、大翔くんの声が聞こえた。

 振り向く前に、大翔くんはそっとわたしの耳もとへ近づき、ささやく。


「ななさん、今日は本当にありがとうございました。このお礼は、ライブで。僕らの歌を、届けてあげます」


 そう言って、後ろへ振り返り、走り出す。


「お兄ちゃん! 早く早くー!」

「時間マジでヤバいぞ! 急いで着替えないと!」

「これは、マネージャーに怒られてしまうね?」

「ライブで挽回ばんかいすれば、問題ない……」

「さぁ、みんな、ファンを待たせちゃいけないよ!」


 先に行っていたメンバーと合流して、颯爽さっそうと駆けて行く大翔くんたち五羽。

 声を掛ける間もなく、すぐに人混みの中へ紛れてしまった。


「嵐のように、やってきて去っていったな……」

「まったく、鳥の時とおんなじで、ツーピツーピうるせぇやつらだったぜ」

「でも、たのしかったよ?」

「そうだね。アイドルの鳥たち……素敵な出会いだったね」


 わたしとトキ、カーくん、カワセミくんは互いに目を合わせて、クスクス笑い合った。

 さて、わたしたちはライブが始まるまで、楽しみに待ってようか、な……。

 あれ? なんだか後ろから、熱い視線が……。


「あ、あの! うちのハヤトを見つけていただいて、本当に! 本当に! ありがとうございます!!」

「いっ!? い、いや、俺は……。近い……」

「ぜひともお礼がしたいんだけど、なにがいいかな?」

「お礼!? マジか! じゃあ……」

「きんぎょ! きんぎょがたべ、」

「あぁーっ!? ななな、なんでもないです! というか、わたしたちが見つけたわけじゃなくて……その、えぇっと……」


 男の子のご両親のご厚意に、慌てふためいてしまう。

 トキは、男の子のお母さんに両手でブンブン握手されて、冠羽かんうを立ててるし、カーくんとカワセミくんは、男の子のお父さんが提案した「お礼」をあざとく狙っている。


「ねぇハヤト、迷子になった時、どうしてたの?」

「やさしいおにいちゃんが、そばにいてくれたんだよ。きれいなおうたを、うたってくれたの」

「お兄ちゃんって、あの人たち?」

「ううん。あのひとたち、しらない」


 結局この後、断り切れずに焼きそばをもらったり、金魚屋のおじさんを泣かせてしまったりしたけど、それはまた、別のお話……。



【次はいよいよ、ライブスタート!】

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