4-12 みんなのトリセツ②

 次の日の朝。


「みんなー! 手伝ってー!」


 朝ご飯を食べた後、わたしは早速、昨日思いついたことに取りかかった。

 でも、重い物を持ったり、苦手なこともあるから、鳥のみんなにも手伝ってもらう。


「ななー、持ってきたぞ」

「ありがとう。カーくん」


 まず、カーくんに頼んで、納屋なやからある物を裏庭へ持ってきてもらった。

 片腕の長さほどある大きめの水槽。昔、お父さんが金魚を飼っていて、使っていた物だ。でも今は納屋の奥にしまわれていたから、すっかりほこりかぶっている。


「良かった。割れてはなさそうだね」


 水槽をチェックして、わたしは一安心した。あとはこれを……。


「……なぁ、なな?」

「それじゃあみんな、まずはこれをきれいに洗おう! カワセミくんはこのスポンジで。カーくんはホースから水出してきて?」

「はーい!」

「水か!? よっしゃ! 出すぜ!」

「あっ!? カーくん、水遊びしないでよ!?」


 声を掛けられた気がしたけど、カーくんはわたしの言葉で嬉々ききと蛇口へ走って行った。

 わたしはタワシを、カワセミくんはスポンジを持って、ゴシゴシと水槽をこする。カーくんはホースから水を出して、汚れを流し落とす。

 あっという間に、水槽がきれいになった。


「で、なな? これ、なんに使うんだ?」


 あとは水槽を軒下に置いて、水を張る。

 ホースの先から水をジャバジャバと水槽へ流しながら、カーくんが首を傾げた。


「これは、トキやカワセミくんの冷蔵庫。魚がたくさん捕れたら、この水槽に入れておくの。そうすれば、食べ物が少なかった時、食べることができるでしょ?」


 生けと言ったほうがいいのかな。冷蔵庫ほど長持ちはしないけど、この中で飼えば、しばらくは食べ物をストックできる。食糧難の時は、役立つかもしれない。


「お魚、いっぱいいれておけるの?」


 カワセミくんがわたしの足にしがみつき、目をキラキラさせていた。可愛かわいい。


「うん。ここなら、生きたままお魚が入れられるよ?」

「へぇー。じゃあ、オレも食いたい時にここから……」

「こら、カーくん。横取りはダメ。これはトキとカワセミくんの水槽なんだから」

「そうだよ! ぜんぶボクのお魚だからね!」

「はいはい、わかってるよ」


 カーくんが肩をすくめ、ホースの水を止めに行く。

 水を水槽いっぱいに張り終わり、トキとカワセミくんの生け簀がひとまずできた。

 さっきカワセミくんが「ぜんぶボクの」って言ったように聞こえたけど、きっと気のせいだよね。


「お魚、はやくいれたいー! カーくん、お魚とりにいこー?」

「ったく、しょうがねぇなぁ。オレもたまには生魚食いてぇし、ここに入れたの見てみたいからな!」

「うん! お魚、いっぱいつかまえるー!」


 カーくんとカワセミくんは上機嫌になって、早速魚を捕りに行くらしい。二羽で駆け出した後ろ姿に向かって、わたしは声を掛ける。


「待って! カルキ抜かないといけないから、水槽には明日まで魚入れちゃダメだよー!?」


 それに、エアーポンプも必要だから、ホームセンターで買ってこないと。

 カーくんが足を止め、こちらに振り返る。


「えー? まっ、一日くらい別の場所に入れときゃいいだろ? とりあえず、魚捕りに行ってくるなー!」

「カーくんカーくん、はやくいこうよー?」

「焦んなって、カワセミ。オレのとっておきの場所、連れてってやるよ? ……やつには内緒だぞ?」

「わーい!」


 カーくんとカワセミくんは待ちきれないみたいで、ウキウキしながら田んぼのほうへ走って行ってしまう。

 カーくん、こんな時は調子良いんだから。いつもこうやってカワセミくんと一緒に食べ物探してくれれば、トキの負担も減るだろうに……。


「なな、できたが、これでいいのか?」


 カーくんたちを見送った後、トキがわたしのそばにやってきた。

 両手に抱えているのは、発泡スチロールの箱。中をのぞき込むと、土や落ち葉が入っている。わたしたちが水槽を洗っている間、裏庭の隅でスコップ片手に入れていたものだ。


「はい。こんなのでいいと思います。あとはミミズを入れて、ふたを被せて、暗いところに置いておくみたいです。たまに霧吹きで湿らせたり、エサの落ち葉とか腐葉土を入れればいいみたいですよ?」


 わたしはスマホで調べた情報をもとに、トキに教えてあげる。

 これはトキのミミズ飼育箱。魚と同じく、たくさん捕れたミミズはこの中に入れて、ストックができるようにしてみた。トキの食べ物にもなるし、生け簀の魚たちのエサにもなる。


「上手くいけば、繁殖して、勝手に増えてくれるみたいですよ」

「そうなのか。捕らなくても増えるのは、便利だな」


 トキはそう言って、箱を水槽の隣に置いた。食べ物が増えるかもしれないのに、トキは普段通り冷静な態度。やっぱり、ドジョウじゃないとテンションが上がらないのかな。


「なな、これは仕切りができないか?」


 すると、トキが横に置かれた水槽に目を向けながら訊いた。


「仕切りですか?」

「あぁ。俺の分とカワセミの分。分けておかないと、カワセミがすべて食べるからな。せめてドジョウだけは、確保したい」


 真剣な眼差しで水槽を見つめ、手をあごにそえて考えるトキ。やっぱりドジョウのことになると、気合いの入り方が違う。


「うぅん……、仕切りはちょっと考えてみますね。でもそっか、このままだと隠れる場所もないし、魚たちもかわいそうだね……」

「隠れる場所?」

「はい。水草とか石とか。入れたほうがいいかな?」


 水槽は水を張っただけで、中は丸見え。観賞用じゃないからきれいにデコレーションする必要はないと思うけど、身を隠せる場所はあったほうがいいよね。共食い防止になるだろうし、石の隙間すきまにドジョウが隠れていればカワセミくんも見逃すかもしれない。


「石なら、昨日の余りがある」

「本当ですか? ……って、昨日の余り?」


 トキが立ち上がり、柿の木のそばへ行く。木の根元にビニール袋が置いてあって、中には石が入っていた。

 トキがそれを持ち上げる。けれどもわたしの目線は、トキの横、地面に咲いている植物に奪われた。


「えっ!? これ……」


 そこには、きれいな花々が咲く花壇ができていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る