第152話 協力者

 道中、それほど危険な出来事はなかった。


 一度、サメに似た巨大な生き物が襲ってきたが、《魔女》の圧倒的な氷魔法により串刺しとなった。

 ピンポイントで水中の一部分だけを氷に変化させ、あらゆる方向から突き刺したのだ。

 鮮やかというほかない。


 防護壁プロテクションを使用しながらの複数魔法。

 ゼロも得意としていた戦法だ。

 アイツは3つ同時に使用していたが、魔女は同時に2つまでしか使えないという。


 意外とスゴイ技術だったんだな。



 何度かの休憩を挟み、目標地点へと到着した。

 ここまでで半日かかっている。


それでも半日。

もっと遠い所で、何日も何週間もかけて向かうものだと思っていたけど、思いの外近かった。


 その間、ずっと魔法を使い続けていたアイラと《魔女》は今日のMVPだ。


 目標地点は少し木が生い茂っているところであり、雰囲気的にはソウグラス大陸と似ている。

 話によるとここに協力者がいるという話だが……。


「…………そこに隠れている奴、出て来い。でなければこちらから行くぞ」


 《拳闘獅子》が近くの木を睨みつけた。

 どうやら木陰に人が隠れているようだ。


 木陰から両手を上げながら、1人の女性が現れた。


 綺麗なブロンドヘアに人間よりも長い耳、クッキリとした目鼻に人間でいう所の美人、背中には弓矢。

 俺でも知ってる。

 これはエルフだ。


「お待ちしておりました。私はガルム様から命を授かっております、案内役のエルモア・エルロンドと申します」

「ガルムの名前を知っているということは、内通者ということで間違いないな。俺達が今回派遣された【怪童】のメンバーで、リーダーを務めるグリードリー・レインフォースだ」


 エルモアと《空ノ神》が握手をする。

 ガルムが言っていた協力者というのは魔者だったのか。

 まぁ、普通に考えればそりゃそうだよな。

 こんな所に人間がいる方がおかしいか。

 そういえば協力者は魔族だったとも言っていた気がする。


「それでは早速ご案内します」


 エルモアが反転して、森の中を歩き始めた。

 俺達はそれに追随するように歩く。

 長旅で休ませるなんて考えはなさそうだ。


「…………アレだったらおぶって行くけど?」

「えっ? だ、大丈夫だもん。これぐらい……付いていけるよ」


 と、言ってはいるものの、肩で息を切らしているほどアイラは疲弊している。

 アイラの魔力は魔者だけあって、かなり多い。

 《魔女》なんかよりもずっとだ。

 そもそも《魔女》の魔力総量が少ないというのもあるが。


 それでも大量の水をずっと操作するというのは、精神的にかなり疲れるみたいだ。

 途中途中で休憩を挟んでいても、そう易々と回復するようなものでもない。


 …………仕方ないよな。


「よっこいせ」

「ひゃあ! ちょ、ちょっとヤシロ!」


 俺は前を歩いていたアイラを下からすくい上げ、いわゆるお姫様抱っこをした。

 歩いている人を急にはおぶれないから、こういう態勢になってしまった。


 体格も小さいし、全然重くないから負担にはならない。


「だ、大丈夫だってば……!」

「いいって。ここまでアイラの魔法に抱っこにおんぶだったんだから、地上ぐらいでは俺に抱えられててよ。それとも……迷惑だった?」

「…………そういうことじゃないけどさ……。ま、まぁ、ヤシロがどうしてもっていうならいいけど……!」


 耳をピコピコと動かしながらアイラが言う。


 何だよこの可愛い生き物は。

 お持ち帰りしたい。


「どうしてもお願いします」

「じゃあ、許可したげる」


 そう言ってハニカミながら俺の胸元の服をギュッと掴む。


 ぐうカワだ。

 頼られるっていうのは、やっぱり良いもんだよ、うん。

 いや、下心無しで。



 ※    ※    ※



「ここから見えるお城、あそこが魔王ローズフィリップの居城になります」


 1時間ほど歩いたところで、エルモアが丘の上から1つのお城を指差した。


 そこは巨大な滝に囲まれるようにして佇んでおり、その大量の水蒸気の影響からか、城を包み込むようにして虹がかかっている。

 お城も一言で言えば豪華絢爛。

 多様な色を使って、華やかさを一面にアピールしているようなお城だ。


「ダイレクトで魔王の元に来れるとは思っていなかったな」

「予想よりも、ずっと近かったわね」

「今日はどうされますか? これより近付かれますと、敵の警戒網に引っかかってしまいますが」


 既に日は落ち始めている。

 これから先は闇夜の行動となるだろう。


「一先ずここで野営地を作るか。《避雷神》、《骨喰い》、お前達は周囲を確認してきてくれないか」

「分かりました」

「敵に会いませんように……敵に会いませんように……敵に会いませんように……」


 《骨喰い》が震えながら神に祈っていたが、俺は見なかったことにした。


 《空ノ神》達はキャンプの準備をするようだ。

 俺も女の子と一緒にキャッキャしながら準備をしたかったが、当然そんな事を言い出せる雰囲気でもなく、俺は丘から少し下って周囲の検索に向かった。


 木が生い茂っている分、暗いとイマイチ道が分からなくなるな。

 迷わないように、帰る方向は確認しておかないとだ。


 それにしても、たった1日で魔王の本拠地に来れるとは思わなかった。

 ゲヴィッター属国からここまでの距離は元々無かったってことだ。


 そうすると……ここからサンクリッド大陸行きの港までは遠いんじゃないか?

 ガルムの奴は逃げてもいいって言ってたけど、案内無しでここから港までは行けなくないか?

 そう考えると、結局のところ選択肢は1つということに…………。


「もし…………」


 突然の声に、俺は『獅子脅し』に手を掛けた。


 まさか敵に見つかったのか?

 だとしたら完全に下手こいた。

 奇襲という利便性を失ってしまう。

 確実にここで敵を始末しなければ。


「もし…………殿方……」


 木の陰から出てきた人物を見て、俺は息を呑んで固まってしまった。

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