第145話 暗器猫

 俺が2人の紹介をされている間、アイラは《暗器猫デバイスキャット》のネコと喧嘩をし、そしてアッサリと負けてしまったみたいだ。

 《魔女》のランネル・ミーアが回復魔法を使って看病をしている。


「ミナト、彼女はそんなに強くないの? 彼女はシルヴァード族だからてっきり強いものだと思っていたけど……」

「アイラは水魔法しか使えないんだよ。魔力コントロールは上手いんだけどなぁ……」

「何だミナトと一緒か」

「おいこら」


 俺が雷魔法しか使えないのは事実だが、反則レベルまで扱えるようになったんだから充分だろ。


「魔王ローズフィリップの国を抜けるのは、しばらく後になるけど大丈夫?」

「構わねーよ、そっちの都合に合わせる。俺はアイラの所に行ってくるから」


 俺が気絶していた時、アイラは俺の側でずっと一緒にいてくれていたらしい。

 起きた時に誰かが待っててくれているというのは、意外にも嬉しいことだ。

 その後に水をかけられたことは大目に見よう。


「はーマジ余裕だったし」


 ネコがダルそうに肩を回しながら屋敷に入ってきた。

 アイラが彼女に負けたからといって、彼女に憎悪の念は抱かない。

 アイラが自分から仕掛けたことだ。


 が、アイラが仕掛けた理由は俺の名誉のためでもある。

 そうなると俺も目の前をただ素通りさせるわけにはいかない。


「どーも、ネコ・ベット」

「……何か用? あーしは別にアンタに用とかないんだけど」


 明らかに不機嫌そうにこちらを見てくる。

 面食いの彼女に俺は気に入られてはいないらしい。


「そんなこと言わないでくれよ。これから仲良くしてもらうわけだし……」


 突然短刀を投げつけられた。


 素早く雷鳥を引き抜いて弾く。


「あっぶね……! 頭狙ってたろ今……!」

「アンタがどーなろーが知らねーし」


 何という口の悪さ……!

 というか今どこから短剣を取り出した?

 手には持っていなかったみたいだけど……。


「暴れるなら外でやってくれよ」


 ガルムが呆れるように言った。


 俺は暴れるつもりなんて毛頭ないけどね。


「ガルムがそう言うなら、アンタを殺るのはやめてあげる」

「とてつもなく上から来たもんだ」


 そのままネコは奥へと歩いていってしまった。

 俺は投げつけられた短剣を拾う。


「なぁ、彼女はどっからこれを取り出したんだ?」

「あまり僕が人の能力をバラすのはフェアじゃない気がするんだけど…………彼女のそれは魔法だよ」

「魔法?」

「空間転移魔法。マスタークラスの非生産魔法で使うことができるもので、原理で言えばシャッタード都市の物体転移魔導砲と同じだよ」


 物体転移魔導砲と言えば、俺をこの大陸へ飛ばした兵器のことだ。

 無差別に世界のどこかへと転移させてしまう。


「でもそれってとんでもない魔力を使うんだろ?」

「例の兵器みたいに大量の人間を不規則な位置に飛ばすとするならね。彼女の場合は、あらかじめマーキングした物を、同じくマーキングした自分の手に移動させるだけだから、左程魔力は使用しないよ」


 なるほど。

 転移といっても決まった場所間のみでということか。

 彼女が《暗器猫》って呼ばれてるのも、その魔法ありきってことね。


「ちなみに魔王ガゼルの使徒、ジャガーノグも同じ魔法を使ってる。対象者の身体に魔法を刻むことで、対象者が自身で魔力を込めれば、あらかじめ定められた場所へテレポートできるって代物」

「へ〜……。誰かが似たようなものを使っていた気がするな……」


 誰だったか……。

 ソウグラス大陸の村で戦った、デウロスって魔者だったか?

 紫電や電光石火を使ってた奴。


 アイツは魔王ガゼルの配下だったし、トドメを刺す直前で消えたからたぶんテレポート魔法を使ったんだろうな。


「ま、彼女はちょっと気難しいからさ、気にしないでよ」

「う〜ん……」

「とりあえず、魔王ローズフィリップの領土へ行くのは10日後。これを目安にしてるから、それまで待っててもらっていい?」

「俺は構わないけど、逆に俺達はここにいてもいいのかよ」

「全然構わないよ。どうせならツォルクやグリーに技を教えてもらったら? あの2人に剣術を教えてもらえるなんて、中々そんな機会ないよ」


 ツォルクは《剣聖》、グリードリー・レインフォースは《空ノ神》だっけ。

 剣聖の神剣流は分かるけど、空ノ神も神剣流を使うのか?

 それとも全く別の剣術かな。


 神剣流ならちょっと教わってみたい気もするし、アリだな。


 よーし、せっかくだし少しでもレベルアップ目指して頑張るぞ!

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