第106話 価値のある突撃
「全員準備はいいかい? 俺達が最前線を張るということは、敵の攻撃は間違いなく俺達に集中することになる」
俺は広大な荒野を前にして、仲間の4人に声をかけた。
俺達S級討伐隊『グリモワール』もとい、勇者一行は部隊の最前線を任された。
なんでも兵の士気を上げるのと敵の撹乱をお願いしたいとのことだ。
「撹乱つってもなぁ…………見てみろよあの数。下級魔人とはいえあれの中に突っ込んだら撹乱もクソもないだろ。俺達を殺す気か」
「文句言わないの……って言いたいところだけど、確かにナイルの言う通りだよね」
「なるべく離れないようにせんとな」
「俺とナイルとシャイナの3人で、フェリスとアースを囲うように戦おう。フェリスは防御専門の魔法を頼む」
「了解」
「下級魔人の大群の中に…………中級や上級魔人がいると考えたほうがいいわよね〜」
「中級が出た時は俺が相手をする。上級は全員でだ」
実際問題、中級魔人を同時に何体まで相手にできるかは俺も分からない。
シャイナはともかく、ナイル一人では中級魔人を相手にするには荷が重いだろう。
俺が4人を守らなければならない。
勇者として守る対象に4人も含まれているんだ。
「絶対にバラバラになるな。離脱するタイミングは俺が指示する」
「グリムの背中は任せろ」
「何処へだろうとついて行くよ」
「怪我の治療はまかせい」
「頑張りましょ〜ね」
ビィィィィィィィィィィィ!!!!!
開戦の合図と共に、俺達の上を大量の魔法攻撃が越えていき、下級魔人の群れへと飛んでいく。
火、岩、雷。
多種多様な魔法だ。
だが、それらは着弾する前に空中で分解した。
敵が魔法を
魔法に関しては、魔族の方が得意分野であるため、この位置からの攻撃では敵陣に届くことはないだろう。
「俺達も行くぞぉぉぉぉぉぉ!!!」
俺は腹の底から声を出し、周りを奮い立たせるのと同時に自身も奮い立たせ、剣を抜いて敵陣へと向かっていった。
俺の後ろに4人がくっ付き、その後ろには何百という兵士が後を追うようにして走り出す。
敵との距離はおおよそ400mほど。
距離があるように見えるが、実際は敵も走り出すために衝突するのはすぐだ。
下級魔人の大群が動き出す。
その光景はまるでこの世の地獄かと間違うほどにおぞましく、人々を恐怖に陥れるには充分だった。
だけど先頭にいるのは人類の希望を一身に背負っているこの俺だ。
俺がここに長くいればそれだけ、兵士の士気は高まる。
俺はそれを自覚している。
「誰一人として逃さん……!」
左目に魔力を集中させ、『勇者の証』によるスキル『
もしかすれば地中に敵を潜ませている可能性も考えていたが、その心配はいらなかった。
衝突まで100m。
刀匠ガリレオに打ってもらった名刀『氷龍』を抜き、無詠唱による氷魔法を剣に薄く纏わせ、徐々に徐々に斬撃範囲を広げていく。
氷魔法とは言っても実質的な物質は氷とは違う。
氷の切れ味は『
剣がそういう性質を持っている。
衝突まで50m。
「六の剣技……『
俺は走りながら剣を構え、ここぞというタイミングで横一閃に剣を振るった。
振るう瞬間に氷魔法を極限まで伸ばし、さらに斬撃距離を伸ばす。
何の抵抗もなく下級魔人の上半身と下半身が真っ二つになった。
続いて2体、3体と先頭にいた下級魔人達を切り伏せる。
「グリム、俺の後ろへ! 五の剣技『
ナイルが放つ一撃に下級魔人達が吹き飛ぶ。
それでも止めどなく敵の流れは止まらない。
「「「グオオオオオオオオオオオオ!!!」」」
「一撃でもまともに食らえば致命傷だ!」
「致命傷ごとき、ワシが治してやるわ!」
「頼もしいわね〜」
切れども切れども見えるのは下級魔人の群れだ。
上空ではいくつもの魔法攻撃が飛び交っているのが分かる。
背後では兵士達も下級魔人と戦闘を繰り広げている。
雄叫び、悲鳴、破壊音。
いくつもの不快音が聞こえてくる。
それでも俺達は敵の攻撃をいなし、アースとフェリスに指一本触れさせることなく戦場を引っ掻き回す。
未だ中級以上は現れず、魔者すらも姿を現さない。
出来ればこのまま現れない方がいい。
勇者であるとは言え、俺も人間だ。
このまま戦い続ければ疲れが出る。
そこへ中級魔人が現れれば、いくら俺と言えど身が持たない。
まだか。
まだ途切れないのか。
すでに30体以上は下級魔人を倒している。
通常のクエストであれば勲章ものの活躍だ。
通常の剣技だけでは限界がある……!
ビィィィィィィィィィィィ!!!!
再び笛の音が聞こえてきた。
一時撤退指示。
あらかじめ指揮隊長のジェラードと打ち合わせていたことだ。
二度目の合図があった場合は、その戦線から離脱し、本陣へと退却しろと。
「フェリス!! 今だ! 出し惜しみ無しで行け!」
「待ってました!
フェリスが左右一直線に巨大な氷の壁を作り出した。
もちろんその場にいた下級魔人もろとも氷漬けにする勢いだ。
その距離は直線距離300mほどにも及び、魔術級魔法にも匹敵するフェリスのオリジナル魔法だ。
この一撃を撃たせるために、ここまで魔力を温存させていた。
そして俺自身もだ。
「全員
何百という雷の矢が、氷の壁に分断され、撤退する方向にいる下級魔人に襲いかかる。
ここから撤退まではスピード勝負になる。
氷の壁も魔者の攻撃で長くは持たない。
氷漬けにした魔人も、あの程度では死なない。
指揮隊長のジェラードを信じ、この衝突が無駄ではないことの証明をして貰わなければ。
「全員撤退しろ!」
戦争は始まったばかりだ。
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