第104話 打ち合わせ

 部隊は各国の兵を連合し、討伐隊も含めて全部で6つに分かれる。


 最前線を張るのは軍の近接戦闘部隊。

 主に剣術に重きを置いた部隊だ。


 2列目に魔法も使うことができる兵士、いわゆる魔法剣士と呼ばれる部隊。

 状況に応じて遠距離、近距離と戦い方を分けられるため、その場の適正な状況判断が必要となる。


 3列目に魔法使いによる部隊。

 遠距離による攻撃と、敵からの魔法攻撃が確実に予想されるため、主に打ち消しレジストするための部隊とも言える。


 4列目には突発的な事態が起きた際、各所に対応できるように兵を待機させておく部隊となる。


 5列目には治癒魔法専用部隊。

 負傷した兵士の安息の場所とし、4列目からは少し離れた位置となる。


 そして討伐隊は軍とは分かれ、完全に孤立した『討伐大隊』として敵陣に切り込む形となる。


 軍と完全に分かれる形となったのはいくつか理由があるという。


 そもそも討伐隊は少人数によるチームであり、個々によるシビアな連携が強みとなるのがほとんどだ。

 そのため数による戦いの場合は連携もクソもなく、討伐隊としての意味合いが無くなってしまうため、主要戦場からは離れた所から奇襲部隊として配置された。


 それに対し各国の軍は集団で戦うことを予測した訓練を行っており、連携というよりも全体の戦況により部隊を動かすことに長けている。


 故に軍と討伐隊は完全に別物として配備される。



 ところが勇者に関してはその限りではない。

 勇者一行は討伐隊でもあるが、それ以前としてアクエリア王国の兵士としても見なされる。


 この戦いではアクエリア王国からの使者として参戦予定となっているため、開戦当初は最前線において敵を撹乱させると共に自陣の兵の士気を上げることを目的とされている。


 混戦となれば勇者一行は魔王討伐特化のために主要戦場から離れ、討伐大隊に加わることとなる。


 最初から魔王討伐に向かうことが出来ないのが、人類の救世主の辛いところだ。



「集めた情報だとこんな感じか……」

「討伐大隊を指揮するのはA級討伐隊の『バックドラフト』だとよ。15人編成のうち3人がA級討伐者らしいぜ」

「猛者揃いじゃん。ま、俺達も少数精鋭だけどな」

「私も?」

「実質S級よS級。中級魔人を倒せるんだからシーラも入るに決まってるじゃん」

「やった」


 軍と離れているというのはスゲー助かるよなぁ。

 それってつまりは、コッソリ戦いの場所から逃げ出しても見つかりにくいってことだ。


 戦う時もなるべく派手にしないようにしないと。

 特にシーラの魔法は目立ちすぎる。


 もはや悪目立ちだ。


 中学生ぐらいで、漫画のキャラクターに憧れて口癖なんかを真似るのがカッコいいと思ってる人だ。


 間違えたこれ俺の黒歴史だった。


「おーいヤシロー!」


 俺のカッコいい名前を呼ぶのはどこのどいつだい!?


 アタシだよ!


「良かった出発前に会えた!」


 違った『ベルの音色』のベイルだった。


「どしたいベイル?」

「どしたいも何もヤシロ達はクエストどうするの?」

「そういえば返事は保留したままだったっけ」


 やっべ、ホウレンソウはしっかりやらないと社会に出たらられるやつだ。

 先輩には媚びへつらうように! 後輩には先輩風吹かせまくって!

 あっという間に社会不適合者の出来上がりさ!


 なんてくだらない妄想はさておき。


「参戦することに決めたよ」

「ホント!? 心強いよ!」

「たった3人で何かが変わるとも思えねーけどな」

「いやいや、A級討伐隊が一つ増えたと考えれば充分な戦力だよ!」

「確かに!」

「言い切りやがったなヤシロ……」


 何事も言い切りが大事なのさ!


「ミナト…………トイレ」

「先生はトイレじゃありません」

「???」

「行ってきていいよ。毎回俺に確認取らなくてもいいのに」

「でもホウレンソウ……? はしっかりしろってミナトが……」

「oh! そういえばそうだったねマイハニー。ここで待ってるから」

「うん」


 頷いてシーラは赤い髪をなびかせながら歩いていった。


 傍目から見たらスゲー凛としてるのに、あれトイレに向かってるだけだからね。

 何人か振り返って二度見してるけど、あれトイレに向かってるだけだからね。


「ヤシロはシーラさんと凄い仲が良いよね」

「俺がこの世界にいる唯一の支えですから」


 キラリとカッコつける。

 が、イケメンではないので締まりがない!

 俺は目の前が真っ暗になった………………!


 やかましいわ。


「ちなみにゼロさんは好きな人とかいるの?」

「突然どうした」

「いやぁ俺の知り合いでゼロさんの事が気になってる人がいて……」


 ミリのことだ。

 絶対『ベルの音色』のミリのことだ。

 彼女、ゼロにお熱だったし。


「いいぜ、よく聞け。俺が好きになった女性とは………………!」


 そこから始まる愉快痛快ラブストーリー。(※全てゼロの妄想によるフィクションです)


「そこですかさず俺は彼女にこう言ったわけだ。「たとえ世界の人間がーーーーーー」


 物語も佳境に入り、ベイルがドン引きし始めていたころ、爆発音が鳴り響いた。

 爆発音といってもそんなに大きな音ではないが。


 音のした方を見ると、うっすらと煙が上がっていた。


「何だ敵襲か!?」


 グロスクロウの一件もあり、奇襲には敏感になっている。

 ちなみに煙が上がっている方向は、シーラがトイレに向かった方向でもあるので心配だ。


 俺達3人は急いで爆発があった方へ向かうと、結構人だかりができていた。


 人だかりの中心には炎に焼かれたような煤汚れた男が2人倒れている。

 見た感じ息もあるようだし、敵が攻めてきたというわけでもない。


 その点は安心だ。


 だが問題はそこに立っている1人の女の子。


 燃えるような真っ赤な髪をした彼女は、間違いなく我らが姫だ。

 フンスと鼻息を荒くしている。


「えっと…………シーラさんやーい」

「……あっ! ミナト〜!」


 シーラが勢いよく俺に抱きついてきた。


 ドウドウ。

 ここは人目があるから部屋に帰ったら思う存分続けてくれたまえ頼んだぞ!


 じゃなくて。


「おい見たか……あの女の子」

「一撃でA級討伐隊の2人を燃やしやがった……」

「無詠唱だったし……何者なのかしら?」


 めっちゃ悪目立ちしとる……。

 言ったそばからドえらいことになった。


「アイツがあの女の子の連れか?」

「いまいちパッとしねーな。女の子と釣り合ってねーよ」

「フードを被ってる人の方がカッコよさそうよね」


 うるせぇぇぇぇぇ!!!

 何だこの風評被害!

 観衆の目キツすぎるわ!


「まぁナンパがしつこかった2人も悪いわよね」

「自業自得だな」

「いいもん見れた」


 なんかいい感じに人はハケ始めた。

 そうだそうだ散れ。

 ハケ散らかしてしまえ。


「何やってんのシーラ……」

「あの2人がうるさかった」


 まぁ何があったのかは何となく分かったけれども。

 それでもやり過ぎだぜ。


「そういう時はすぐに暴力に頼っちゃダメだろ。まずは話し合いでだな…………」


 過去の自分を振り返る。


 一度も話し合いで済んだ試しがない。

 なんてこった。


「うん、時には暴力も必要だな」

「でしょ」

「おい! ちゃんとさとせよ!」

「ピピピピ! おい、何の騒ぎだ!」

「み、みんな! 憲兵が来たよ!」

「よし、巻き込まれる前にトンズラだ!」

「当事者だけどな……」


 スタコラサッサと逃げ去った。

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