閑話
第61話 英雄と呼ばれた少年3
私はマリン王国へとやって来た。
文献によると、この国では2名の名前が記されている。
その内の一人は重要参考人とも言えるだろう。
『ゼロ・レパルト。』
文献の1番最後にも記されていた名前の人物だ。
確実にヤシロミナトという人物に関わりが深いと予想される。
しかしながら、情報をいくら集めようとも『ゼロ・レパルト』という人物を特定できるようなものはなかった。
ヤシロミナトは彼とこの国で会ったのだろうが、彼自身はこの国に深い関わりはなかったということだろうか。
結局私は『ゼロ・レパルト』なる人物を探すのはあきらめ、もう一人の方に調査をシフトする。
記載されていたもう一人の名前は、ドリトル。
こちらは調べるとすぐに判明した。
元A級討伐者、
一時期、巧みな魔法コントロールと戦闘術で魔族を討伐することに定評があった人物のようだ。
しかしながらあまりにも魔族を恨むあまり、討伐するためには手段を問わず、関係ない人達まで殺してしまう狂気性が見受けられ、討伐ギルドから指名手配されていた人物とされている。
何の偶然か、そんな人物がマリン王国に現在潜伏しているという情報を手に入れた。
私は裏の人間に接触し、彼と会うことが出来ないかしぶとく交渉すると、最終的に許可をもらえた。
そして接触当日、裏の人間から「命の保証は出来ない」と言われる。
もとより覚悟の上だ。
マリン王国の地下通路らしき所を案内され、突き当たりの扉を開くと、薄暗い部屋のソファーに一人の男が腰掛けていた。
目がとても細いのが特徴的な男。
ドリトルである。
「あなたですか……私に話を聞きたいというのは……。私が指名手配されている人間だと知って近づいてきたんですよね? 私のことを…………ギルドにでも話しますか? …………なんてね。あなたが私に何を聞きに来たのかは事前に聞いています。でなければ会う許可はしませんよ」
「ヤシロ……。ここで出会ったヤシロという人間は一人しかいませんね。私が殺そうとした人間ですよ。なぜか? 私が殺そうとする理由なんて一つでしょう? ああ、いえ。彼が魔者というわけではなく、彼が魔者と行動を共にしていたからです。赤い髪の魔者。レッカ族。私ほどの知識がないと、あの女の子が魔者だとは気付かないでしょうね」
「結果的には殺せてはいませんよ。もし彼が一人であれば殺せていたかもしれませんが…………。その時、私はもう一人の魔者を殺そうとしていましたから。名前はゼロ・レパルト。銀色の髪にツノを生やしたウィン族。ですが、珍しく私が功を焦りすぎましたね。奴の実力を見誤ったのと、応援に駆け付けた討伐者がヤシロ一人だけだったんですから」
「魔者を奴隷でもなく共に行動するような奴と一緒に戦うなんてしたくありませんでしたからね、ヤシロを殺した後に魔者を殺そうとしましたが、返り討ちに遭いました。まさかゼロ・レパルトがあそこまで強いとは……。その後は知りませんが、噂程度に裏の情報で聞いた話だと、魔者を連れた男が魔王を討伐したとかなんとか……。噂程度ですから真偽は分かりませんが、もしかすればその男がヤシロなのかもしれませんね」
「私が知っているのはこの程度です。要はヤシロという人間は魔者と共生するような男。もし見かけることがあれば私に情報を流して下さい。それが今回あなたに協力した代わりの報酬です。理由は…………分かりますよね? あなたも魔族とは仲良くしない方がいいですよ? 私が知ったら何をするか分かりませんからね………………」
こうして私は無事に解放された。
思っていたよりも物腰は柔らかかったが、その奥に隠された狂気性はひしひしと感じとることができた。
命があっただけでも良かったが、情報も手に入れることができた。
ゼロ・レパルトに関する情報。
ヤシロミナトという人間は、魔者と一緒にいたかもしれないという事実。
やはり赤い髪の女の子とも行動を共にしていたみたいだが、それならば何故その女の子の名前や出会った場所が書かれていないのか。
もしかして、その女の子は最後に記載されている名前のどれかに該当するのだろうか。
様々な憶測を立てながら、私はその国を後にした。
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