第28話 変わり者

「資料……ですか?」


 俺はギルド内にいた数人の人達に声をかけて、どこで資料や本がが読むことができるのか尋ねてみた。


「ええ、歴史書とかでも構わないんですけど、魔法の特性なんかが分かる本とかがある場所なんかあれば、教えてほしいんです」

「そんなとこあったかな」

「あるよ。ほら、あそこの爺さんが経営してる…………」

「あーあー。あそこな。でもあそこの爺さん、少し変わってるからなぁ……」

「ちょっとボケが入ってきてるしね」


 本屋みたいなところかね。

 あまりいい評判は聞かないみたいだけど。


「普通に貸し出してくれるようなところはないんですか?」

「本はそこそこ値段が張るからね。無償で貸すなんて所は中々無いと思うよ」

「そうですか……。分かりました、そこに行ってみようと思います。ありがとうございました」


 俺とシーラはギルドを出て教えてもらった場所に向かってみると、少しこじんまりした感じの古い店を見つけた。


「教えてもらった場所はここだけど……なんか汚い古店商って感じのだな」

「………………」


 本というか怪しい商品とか売ってそうだけど大丈夫か?

 とりあえず入ってみないことには分からないよな。


「こんちゃー」


 扉を開けながらあいさつをしたが、中から反応はなかった。

 中は、俺の知ってる本屋のように本棚にズラリと本が陳列されているわけではなく、いくつかの机の上に数冊づつ本が立て掛けてある形だった。


「誰かいませんかー?」

「いるぞ」


 真横から突然爺さんの声が聞こえてきて、俺は反射的に反対方向に飛び避けてしまった。

 見ると、たくましい白髭を生やした爺さんが入り口扉の真横に立っていた。

 シーラは完全にフリーズしてしまっている。


「あんた……いつの間にそこに」

「最初からじゃ」

「へ?」

「お客さんが来たら脅かしてやろうと思ってな、2時間近くここで立っておった。いいリアクションじゃったぞ」


 何だこのお茶目ジジイ!

 脅かすためだけに2時間立ちっぱなしとか変わり者すぎるだろ!


「それで、何の用かな?」

「本を売ってるってことで見に来たんだけど」

「おうおう。あるぞあるぞ。どれが良いかな? 『強気な女のオトし方』かな? それとも『正しいドアの取り付け方』かな?」

「ロクなもんねーじゃねーか!」


 なんだこのガッカリブックばかりは。

 ただのゴミじゃんか。

 もっとマシな本は………………お?


「爺さん、これは……?」


 俺が見つけたのは『魔族の種類について』と書かれた一冊の本だった。


「ああそれか。中身はあんまり面白いものじゃないが、魔王の軍勢や、知られている限りの魔王の名前とかが記載されたものじゃな」

「いいじゃんコレ。こういうのが欲しかったんだよ」

「そんなものより『カッコイイポーズ全集』なんてどうじゃ!?」

「いらんわ!」


 これを見れば敵がどんなものか何となく把握できるんじゃないか?

 一番いいのは魔術書みたいなものだったんだけど、これでも充分だぜ。


「爺さん、これいくら?」

「そうじゃなぁ……少し古いものじゃし、5万 D《ドラ》でどうじゃ?」

「たっけぇよ、マケて」

「じゃあ4万Dで」

「あともう一声」

「じゃあ1000Dで」

「急にガン下がりしすぎだろ! 言っといてなんだけど一声というか一山ぐらい越えたぞ!」

「あんまりお客さんなんて来ないからな、そろそろ店仕舞いしようかと思ってたところじゃ。一冊でも多く売れるならそれに越したことはない」


 変わってる爺さんだけど、良い人っぽそうで良かった。


「じゃあ俺、今金ないから予約って形で」

「なんじゃ持っとらんのかい!」

「いいでしょ? どうせお客さん来ないって話だし。明日までには準備するようにするからさ。ほら、シーラもお願いして」


 先程までずっとフリーズしていたシーラもおずおずとこちらに近づいてきた。


「ふむ…………なんだか怖がられてるのぅ。何が原因じゃ……」

「そらそうだよ」

「…………よろしくお願いします」

「お爺ちゃんがいい子いい子してあげるからのー!!!」

「ミナトー!!」

「そういうところだよ爺さん!」


 老体に鞭打つのは趣味ではないが、容赦なく頰をはたいてやった。

 こういう爺さんは割りかし無茶しても死なないタイプだ。


「じゃあそういうことだから。俺は八代やしろ みなとって名前だから覚えておいて」

「覚えておこう…………ワシに一撃を入れることができた人間としてな!!」

「魔王かアンタは!」


 ダメだ、すげー疲れるわこの爺さん。

 今度からあんまり長居しないようにしよう。


 俺は古ぼけた本屋を後にした。

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