第27話 スサノ町

 バレルさんが話した通り馬車に揺られること約10分、前方に家々が見えてきた。

 シャンドラ王国とは違い、壁に囲まれていることも、大きな門があるることも、兵士が常駐しているわけでもなく、普通の町といった印象が見受けられた。


「あれがスサノ町?」

「ああ。見た限りでは、こっちまで魔物や下級魔人が攻め込んできている様子はなさそうだな」


 突発的に出てきた下級魔人という言葉。

 恐らくは、俺が戦った上級魔人の下位互換とも考えられるものだろう。

 ヴィルモールが創ったダンジョンにも配置されているという話らしいが、上級魔人とどれだけ違うのか気になる。

 それに、そいつらを俺は自分の手駒として使うことができるのだ。

 期待せずにはいられない。


「シーラ、着いたぜ。もう揺られることはないんだ」

「……はぁ……はぁ……ホント?」


 再度瀕死になってしまっているシーラをなんとか元気付ける。

 今度からはどうしてもって状況じゃないと乗り物系にはのれないな…………。


 馬車はタカタカと町の中に入っていった。

 流石にシャンドラ王国と比べると、人の賑わいも町の大きさも規模は小さくなってしまうが、それでも決して小さくはないように見える。

 バレルさんが適当な辺りで馬車を止めた。


「おう、着いたぞ」

「いやぁ、すいませんね。結局魔物とかも出なくて護衛としては何も仕事してない、タダ乗りみたいになっちゃって」

「いいさ。護衛なんてのはそういうもんだからな。あくまで保険として雇うものだ」


 めっちゃ良い人やないかい。


「じゃあ俺達はこれで」

「おう。嬢ちゃんの面倒しっかり見てやれよ」

「そりゃもちろん」


 俺はグロッキー寸前のシーラをおぶりながら、ここまで運んでくれたバレルさんに深く頭を下げながら、その場を後にした。


 さて、当面の目標としてはまず、資金の調達にいそしまなければなるまい。

 なんだかんだ馬車の中の商品を、バレルさんの許可を頂いて食べることができたが、今後もそんな乞食みたいなおろかしいことをシーラにもさせるわけにはいかない。


 え? 乞食王コジキング

 何の話だか分かりませんな。


 そういうことで、資金の調達方法として普通の仕事をしてお金を稼ぐなんて、リアルの世界となんら変わらないことをするつもりなんてない。

 こういう所でのお金の稼ぎ方なんて一つでしょ。


 クエストクリア報酬。


 シャンドラ王国で見た討伐ギルドと呼ばれる存在が、恐らくはクエスト受注をこなす役割をしているだろう。

 少し恥をかきながらも受付嬢に聞いた話だとそうなる。


 シャンドラ王国は総本部とあったが、ここにも支部のようなものはあるだろう。

 でなければギルドに加入している奴はみんなそっちに流れていってしまうはずだ。

 魔物とかを討伐する人間がいなくなっていまう。

 だからまずは討伐ギルドなるものを探して、俺も加入することにしよう。


 俺はシーラをおぶったまま、町の中の景色を楽しみながら、討伐ギルドなどと書かれた看板がないか探し歩くことにした。

 そしてちょいとここで疑問。


「なぁシーラ……………………少し重くなった?」

「なってない!」


 シーラは少し怒ったように言い、ポコポコと俺の頭を叩き始めた。

 ふくれっ面になっているのが目に浮かぶ。


「いてっ。でもなんか前より少し重く……いてっ。痛いって」

「なってないもん! なってない!」

「いいじゃん、成長したって証拠だぜ? ほこれ!」

「ミナトのバカ! もういい下ろして!」

「下ろしていいの? 唯一酔わない、俺という名の乗り物を降りていいの?」

「下ろして!」


 シーラは飛び降りるように俺の背中からどいた。

 奴隷として捕まっていたときよりも、ご飯を食べて健康的になったっていうことなのに、そんなに反発しなくても良くない?


 はっ!

 もしかしてこれが誰しもが通るという噂の…………反抗期!


 俺にもあったなー反抗期。

 お袋に飯ができたって呼ばれても、『うっせー! 誰が食うかそんなクソ不味い飯!』って。

 その後親父に袋叩きにあったのはいい思い出です。

 お袋だけにね。

 なんつって。


「…………少しはデリカシーを持ってよ」

「おお、デリカシーなんて言葉知ってんの? 物知りじゃんシーラ」

「バカー!」


 超元気。

 こんだけ大声出せるようになったなら、乗り物酔いも心の傷もだいぶ治ったみたいだな。


「じゃあシーラも討伐ギルドみたいに書いてある看板探して」


 シーラはプイッとそっぽを向いた。

 小さな反抗期だ。

 可愛い。


 しばらく歩くとそれらしき看板を見つけた。


『討伐ギルド』


 予想通りここにもギルドはあった。

 少しこじんまりしたような所ではあるが、それでもギルド登録などはすることができるはずだ。


 扉を開け、中に入ると受付嬢が1人だけいた。

 冒険者らしき格好をした人間はシャンドラ王国と比べると全然少ない。

 たかだか数人がテーブルについて話をしているだけで、他には受付嬢1人しかいなかった。


 それにやっぱり本部の人と比べると受付嬢が…………そこまでね?


「すいません」

「どーぞ」

「ギルドに討伐者として登録したいんですけど」

「ではこちらの用紙に必要事項をお書き下さい」


 差し出された用紙には、登録する人物の名前とチーム名を決める欄などがあった。

 住所やら何やら書くのかと思っていたのだが、思いの外登録は簡単らしい。


「これだけでいいんですか? 住所とかは書く必要は……」

「討伐者の方は基本旅している方々ばかりですので、住所不定の方が多いのです。なので必要ありません」


 そうするととりあえず俺とシーラの名前を書き込んで、後はチーム名をどうするかだな。


「シーラ、俺達で討伐チームが組めるみたいなんだけど、名前とかは何か希望ある?」

「…………特にない」

「あそう……」


 ………………そーだな。

 俺はこの世界で勇者になることも、異世界人というアドバンテージを得ることもできなかった。

 完全に影に隠れている存在だ。

 だから俺を暗喩した影と、シーラの特徴でもある真っ赤な髪色をくっつけて『紅影あかかげ』としよう。


「じゃあこれでお願いします」

「…………そちらのお子さんも討伐者に?」

「ダメですか?」

「いえ、それでは討伐者IDを作成致しますので、こちらに手を置いて下さい」


 突然、俺の目の前のちゅうてのひらサイズの魔法陣が浮かんだ。


「こちらに魔力を流し込んで下さい。その魔力によって個人を識別することができますので」

「魔力で個人を特定することができるんですか?」

「はい。魔力は人それぞれ異なり、万人不同ばんにんふどう終生不変しゅうせいふへんとなります。ご存知ありませんでしたか?」


 まるで指紋と同じだな。


 俺は魔法陣に手を置いて、銃に魔力を流し込む要領で魔法陣に魔力を送り込んだ。

 魔法陣が淡く光ったかと思うと、そのまま霧散して消えてしまった。


「登録完了です。では、次の方」


 シーラも同じように魔法陣に手を置いて魔力を流し込んだ。

 魔法陣が霧散して消えた。


「はい。完了です。それではID作成に少々時間がかかるので、1時間後にまたこちらにいらして下さい。それまでには出来ていると思いますので」

「分かりました」


 俺はシーラとギルドを後にし、IDが出来るまでの間にこの世界の基本的な情報を調べることにした。

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