第26話 国から町へ

「ミナト…………」

「なんだ?」


 馬車に揺られること約30分。

 睡魔がここぞとばかりに俺のまぶたをシャッターアウトしようとしていたころ、シーラが声をかけてきた。


「………………」

「? なに、どうした」


 シーラの方を見ると顔色が悪い。

 なんか青ざめてる。


「おいおい、大丈夫かよ」

「気分悪い…………」


 これはまさか………………世に言う乗り物酔いか!


 俺は車の中で本を読んでいても全く酔わない人間なので、乗り物酔いする人の気持ちは全く分からないが、シーラの顔を見る限りかなり苦しそうだ。

『やったー』の声に覇気がなかったのはこういうことかぁ……。


「ヤバい? 吐く?」

「………………うん」

「バレルさん、ストップリーズミー!」

「は? いや…………は?」

「ちょっと一旦止まってもらってもよろしいでしょうか」


 バレルさんが馬車を止めてくれる。

 俺はゆっくりとシーラを外へと下ろした。

 小さくハァハァと苦しそうに呼吸をしながら歩くシーラを連れて、近くの木陰に座らせてやった。


「どうした? 体調が悪いのか?」

「ちょっと乗り物酔いしたみたいなんだ」

「小さい子にはよくありがちだな。特に馬車は揺れが激しいから珍しくはない。お前さんは大丈夫なのか?」

「そりゃあもう。ミキサーにかけられても酔わない自信があるぜ」

「何を言ってるのか分からん」


 ミキサーが通じないとは困ったもんだぜ。

 そこは「酔わない以前に粉々だ」ぐらいのツッコミはしていただかないと。


 結構な距離走ってきたと思うが、未だに左右は森が続いている。

 ダンジョンから出てきた時は、こんなにも広いとは思わなかった。


「そしたらここらで一旦休むか。メナードホースも休憩させたいしな」

「そしたらちょっとこの辺り散策してきてもいいかな」

「この子はここで休ませといて大丈夫か? 一応俺が見てるが……」

「そんなに遠くまでは行かないさ。何かあったら大声で呼んでくれればすぐに戻ってくるよ」


 俺はシーラをバレルさんに任せて、少し森の中へと入る。

 この辺りに魔物はいないといっていたが、魔物とそれ以外の動物の違いが正直まだよく分からん。

 単純に、俺達を襲ってくるのが魔物って認識でいいのかな。

 もしくは食べられるのが動物で、食っても不味そうなのが魔物とか。

 結晶獣のダンジョンにいた昆虫型の魔物なんて絶対食いたくねーし、ニーナさんを襲っていたワニレオンも不味そうだ。


 意外とこの推測当たってたりして。


 それはそれとして、日課のトレーニングしないとな。

 ガルム曰く、1ヶ月の間に行ったトレーニングを欠かさなければ、成長は止まらないって話だから、なんだかんだと1日も怠っていない。


 俺は『雷鳥』を抜き、ガルムに教わった独特の剣術の型を反復練習する。


 もはや頭ではなく身体が理解して動くようになっている。

 自分の命を守るためだから必死に覚えた。

 じゃないとガルムのやつに何本骨を折られたことか、今でもたまに思い出して骨が痛む。

 人間の記憶ってすごいね。ゴイスー。


 そのうち覚えたい戦術としては、剣術に銃を絡めてオリジナルな戦い方を編み出したいけど、そもそも銃を使う機会がなさすぎて、宝の持ち腐れ感がヤバい。


 元々は伝説の武器って話なのに、俺が使わなすぎて別の意味で伝説になってしまってる気がする。

 そもそも魔物とか魔人と戦う機会がそんなにないから、武器を使う必要もそんなにないんだよな現状。

 いや、悪いことじゃないんだよ?

 別に好きで戦いたいわけじゃねーし。

 平和に楽しく異世界満喫できるならそれでいいんだよ。


 でもさ、せっかく異世界来てさ、苦労してさ、反則レベルの力つけたのにさ、後から来たぽっと出の二番煎じがチヤホヤされてるのってなんか腹立つじゃん?


 向こうは公式でこっちは非公式みたいな。

 なんだよ、同人誌扱いかよ俺は、的なね。

 愚痴れば止まらないわけですよ。


 ということで、この黒い感情は全て周辺の木々にぶつけさせてもらいやす。


 俺は『雷鳥』で人間の胴体ほどある木の幹を、横に一刀両断する。

 まだまだ俺の成長は限界に達していない。

 天井が見えるところまでは、階段ではなくエレベーター並みの成長率のはずだ。

 例え勇者だろうが俺は超えてみせるぜ。


 充分に身体を動かせた俺は、スッキリとした顔で馬車に戻った。


「いやー楽しかった」

「さっきから森で凄い音が鳴っていたが、お前さんの仕業か?」

「さぁね。それよりシーラ、少しは良くなった?」

「うん。もう大丈夫」

「とか言って、また乗ったら気分悪くなるんじゃないの?」

「う……頑張る」

「安心しな。あと10分もすればスサノ町に着くはずだ」

「だってさ。あと少しの辛抱だってよ」

「迷惑かけない。辛抱する」


 俺はクシャクシャとシーラの頭を撫でた。

 なんか少し違和感。

 いや、ホントに微妙な違和感なんだけど……。

 う〜ん、よく分からん!

 特段気にする事項でもないのでスルー。


 次の町で一番すべきはやっぱり、資金集めだよな。

 次点で情報収集。

 シャンドラ王国ではヘマッたから、今度は慎重に行動するよう心掛けよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る