2.プラント

 惑星インソシア、その姿を肉眼でも捉えられる場所までやってきた。


 ソレイユのブリッジ、僕は相変わらず操舵席でメインモニタに映る映像を見る。



 インソシアは大気が無い、荒れた惑星だ。サイズも月程度しかないため惑星と呼ぶにはかなり小さい。

 一応衛星もあるらしい。インソシアの影に一見するとただの隕石にも見間違うほど小ぶりな衛星が見えた。


 この惑星に何かがあるのか・・・・・。



「ここのことは、まだプロトには気付かれてないみたいだな。」

 目的物が何かわからないからなぁ、どうやって探したものか。


「・・・・っ! いや、そうでも、ないかも。」

「え?」

 艦長席のラファは焦った表情だ。


『惑星インソシアには"衛星"は、ありません。』


 僕は改めてインソシアに目を向ける。

 それは衛星ではなかった。衛星軌道どころか周回軌道よりも近い位置にある。

「インソシアに食いついている!?」


 衛星の様に見えたソレは、一部に大きな穴があり、そこから惑星インソシアを吸収するように取り込もうとしている!

『対象の稼働状態を確認。データベース照合、該当あり。名称、"独行の技師"と推測。』


「え、ってことは、まさかあれプラント要塞か!?」

 ロスタコンカス星系での一か月紛争の原因となったアレだ。


『このままでは惑星インソシアが消滅します。早急な排除を提案します。』


「出るしかないか!! ラファ!!」

「どんとこい。」



 ドレッドノート、ハーキュリーズで出撃する。

 プラントを前方に捉える。


『対象の攻撃行為を確認、攻撃対象は惑星インソシアと確認、対象を危険度災害級の敵性勢力と断定、サポートAIによる代理承認、制圧許可。』

 管理者が不在の状態では制圧しかできない。制圧でプラントを止められるのか・・・・・? 



 僕らの出撃に呼応するように、プラントから多数の戦闘ロボットが発進する。

 あれはセントラルの防衛にも配備されている最新式ロボットだ。



 ハーキュリーズがフォースロードセイバーを構える。だがプラズマは発振しておらず制圧モードのスタンソード(電撃剣)だ。

 僕はフライングシールドを展開する。


 ロボット部隊はレーザー砲を展開、こちらに向けてくる。

 即座に僕とラファは左右へ機動する。直前まで僕らが居た場所を多数のレーザーが通過したらしい。背後のデブリが閃光を発し蒸発する。


『対象群からの攻撃行為を確認、対象を敵性勢力と断定、サポートAIによる代理承認、制圧許可。』


 ハーキュリーズが激しいジグザグ機動を描きつつ、敵陣の中へ飛び込む。

 スタンソードをなぎ払い、周囲のロボットを行動不能にしていく。


 僕もドレッドノートの両手にある電極を帯電させ、スタンナックルを叩きつける。

 うむむ、ドレッドノートでスタンナックルを使うことになるとは・・・・・・。 



 戦闘ロボットはお構いなしにレーザーを照射し、プラズマブレードで斬り付けてくる。


 レーザーはフライングシールドで防ぎ、プラズマブレードは防壁で受け止め、スタンナックルを当てていく。


 叩いても叩いても、次から次へとロボットが襲ってくる。き、きりが無いぞ・・・・。



「アイ! EMPミサイルだ!」

『EMPミサイル発射します。』


 ソレイユからミサイルが2基発射される。

 ミサイルは僕らの間近を通過しプラント近くまで推進、爆発した。


 しかし爆炎は広がらない。

 代りに、ミサイルの爆発地点周辺のロボット群は麻痺したように停止した。


 EMPミサイルは電磁波爆弾を爆破し、周囲に電磁波をまき散らすことで電子機器を狂わせるミサイルだ。

 よし、30以上は停止させたぞ。


 直後、プラントからは更に大量の戦闘ロボットが出撃してくる・・・・・、今減らした分より多くないか、あれ。


「ちょっと・・・・、数が、多い・・・。」

 ラファも周囲のロボットを叩き飛ばしながらつぶやく。

 二人とも周囲のロボットを次々と稼働停止させているが、それを越える勢いで供給されてくる。



 戦闘開始序盤に停止させたロボットが戦線に復帰し始める。自己修復で回復したか。


 戦闘は完全にこう着状態に、いや、少しずつ押されてきている・・・・・。


「アイ、もう一度EMPだ!」

『かしこまりました。』


 再びソレイユからミサイルが2基発射される。

 しかし、2基とも戦闘ロボットのレーザーで撃墜される。


「警戒されているか!」


 プラントから戦闘艇が数機出撃する。ロボット群の大外を回り込んでくる。

「ソレイユを狙っている!?」


『フライングシールドと防壁で対応します。』

 ソレイユは大型フライングシールドを展開する。戦闘艇からミサイルが発射される。

 ソレイユの防壁に命中し爆発を起こす。


 一旦引くしかないか・・・・・。


『警告、右腕に損傷!』

 逡巡の隙を突かれ、ドレッドノートの右腕にダメージを負った。

 戦闘ロボットがプラズマブレードを突きしている。


 左手でロボットを払い除ける。背後に取りつかれる、足にも!?


「くっ、次々と!!」

 戦闘ロボット群の圧力が急激に増してくる。叩き返すのが間に合わない!!

 ドレッドノートの全身が黄色の警告アラートで染まっていく。身動きが・・・・・・!


「スーツ解除!!」 

 逃れるようにドレッドノートから飛び出し、重火力型スーツでスタンナックルを起動・・・・・・・。






「あれ?」


 戦闘ロボットは全て停止していた。


 プラントによるインソシアへの侵食も停止している。



『勇介様・・・・・・、通信です。』

 アイさんが妙に不機嫌だ。ああ、これはもしかして。


「おまえら、何やってるんだ?」

「リック!」

 通信機の向こうから、リックの声が聞こえてきた。



「いくらお前らでも、あれだけの大群相手に正面突破とか無謀すぎだろ。」

 プラントにあるドッグの一か所からリックが小型艇で現れ、僕らの方へ近寄って来る。


「リックが止めたのか?」

 小型艇のコックピットにリックの姿が見えた。


「ちょいと忍び込んでな・・・・・。お前らが正面切って戦ってたおかげで、あっさり侵入できたぜ。」

 そういってリックは手に収まる乳白色の物体を見せてくる。独行の技師だ。



「リックはどうしてここへ?」

「あ・・・・・・・。」

 リックは口を開きかけ、そのまましばし停止した。


「まあ、なんでもいいだろ。」

 なんか歯切れが悪いな。何か裏がありそうな気がする・・・・・・。


「それより、ここに用事があって来たんだろ? さっさと様を済ませちまおうぜ。」

 露骨に話題を避けられた気がする。が、確かにその通りだ。






 リックの小型艇を収容し、ソレイユでインソシアへ降下する。


 そのまま低高度を飛行し、地表を見て回るが・・・・・、特に何も見当たらない。ひたすらと荒涼とした大地が続いている。


 今はソレイユのブリッジに3人。僕、ラファ、リックだ。

 艦長席はラファだ。さすがにリックも、ラファと艦長席を奪い合う気はないらしい。


「そういえば、リック。ロスタコンカスでは助かった。一応礼を言っておく。」

 通信席に座っているリックに、礼を言っておく。


 リックは片方だけ眉を上げている。

「お礼の言葉より、ほれ、あるだろ? こう物的な?」

 リックはニヤニヤと、僕に見せびらかすように指で輪っかを作る。

 うん、下手に出ても調子に乗るだけだな、リックは。


「大統領官邸で嵌められたことは、まだ忘れてないけど?」

 リックは白々しいすっとぼけた表情をしている。

 うーん、殴りたい。


「お、あれは。」

 ラファが何か見つけた。


『宇宙船用ドッグ入り口のようです。』


 一部分だけ大地が盛り上がり、そこに横長の穴が開いている。

 確かに宇宙船用ドッグっぽいな。


「ソレイユごと入れそうだな。慎重に中に入ろう。」

『かしこまりました。』


 穴の中へとソレイユは入り込んでいく。



 内部には明かりが無く暗かった。ソレイユのメインモニタを暗視モードにして進む。

 外から見た入り口はかなり広かったが、内部はすぐに狭くなっておりソレイユが通過するのがギリギリだ。

 細い通路を慎重に進む。



「行き止まりか。」

 正面には壁があり通路が終わっている。だが、壁には接舷用の渡り廊下が伸びており、その先には人が通れる程度の穴が開いている。

 ここからは徒歩か。


「外に出るよ。リックも来るように。」

 残していったら、ろくなことにならないだろう。

 リックはやれやれといった表情だ。



 渡り廊下にソレイユを接舷し、重火力型スーツで外へ出る。

 壁にあった人間サイズの穴から中へ、僕、リック、ラファの順で道を進む。


 道は以外にもすぐに終わっていた。

 そこには小さな部屋があり、中央には箱が置いてある。


 僕は箱に近づき、とりあえず触れないように確認する。

「箱が1つあるだけだが、これが管理者が示した物なのか?」


 箱は台座の上に置かれている。台座を観察する。お、細い配線がある。


 配線を辿ると台座の裏側から更に後ろの壁へ・・・・・、って、なんだろうこの既視感。



 背後でガコっという音がする。


 あせって振り返ると、リックが箱を開けている。


「・・・・・・。」

「・・・・・ま、とりあえず罠はなかったぜ。」

 僕はフルフェイスの上から額に手をあて、ため息を吐く。


「しかし、これは・・・・・。」

 リックが箱の中に手を入れる、その途端周囲の風景が一気に変わる。



 真っ白な部屋だ。直前まで薄暗い石造りの部屋に居たはずだ。


「ここまでたどり着いてくれましたね。」


 声の方向を見ると、そこには見慣れた管理者の姿があった。

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