12.巨大砲台

 小惑星帯を通り抜けてきたため、接近には時間がかかった。

 しかし、その甲斐あってか敵に補足されることもなくプラントの間近まで接近できた。

 ここから先は小惑星帯を出て、一気に超高出力レーザーの発射装置まで向かう作戦らしい。



 俺は震えが止まらない。

 南極基地でガーランド少佐に無理を言って隊に入れてもらった。

 アリューを救うために何度もループしていた過程で、多少武器の扱いも練習したしやれると思っていた。

 でもそうじゃなかった。パロユーロまでの道中ではほとんど役に立てなかった。そのうえ、ガーランド少佐は・・・・・・。


 基地でアリューに引き留められたとき、正直心が揺れた。

 俺は行っても役に立てないんじゃないか、足手まといになるんじゃないか。


 でも、ガーランド少佐の最後の姿が目に焼き付いて離れなかった。

 気が付けば、俺はアリューを振り切って艦に搭乗していた。



 俺の肩にそっと手が置かれる。

「難しく考えないでいいわ。バーリゴル中尉も私も居るんだから。」

 俺の震えが見えてしまったのか、モント少尉が肩に手を置きながら話しかけてきた。

「だ、だいじょぶです!」

 だめだ、噛んだ。これじゃ全然大丈夫そうに聞こえない。

「これまでもドーゼ君はちゃんとやれてる。これまで通りでいいの。」

 モント少尉は俺のバイザーを軽く叩きつつ、離れていく。少し、手の震えが治まった気がした。



「よし、いくぞ!」

 バーリゴル中尉が号令をかけ、3隻の小型艇が小惑星帯から飛び出す。

 護衛の部隊は各小型艇の上に5名ずつが乗り、周囲を警戒している。



 主力部隊の戦闘は、既にプラントの目前まで迫っていた。

 そのおかげか、敵の目もそちらの戦闘に向けられているようだ。まだ気づかれていない。



 プラントに近づく。事前に大きさは聞いていたが、実際に見るとその大きさに驚く。確かにちょっとした惑星サイズだ。

 まるで宇宙船で惑星に着陸するような気分だ・・・・・・。


 プラント表面からある程度の高度を保ったまま、プラント上を移動する。

 高速で流れていくプラント表面は、岩石と機械の混ざり合ったモザイクのような状態だ。そんな地表が延々と続いている。



 地平線の向こうに巨大な砲台ある。近づくにつれ砲台もまた威容を感じさせる。

 地表から垂直に突き出す砲身は、その長さ自体はそれほどでもない。しかし口径が異常だ。直径数kmほどもあるだろうか。

 横から見るとちょっとした丘のようにしか見えない。


「低空で接近し、直前で上昇して砲門から内部に侵入する!」



 3隻の小型艇は障害に会うこともなく、巨大砲台の丘に近づいていく。

 丘の周囲には・・・・・、無数の対空砲台が!!


「全機射撃! 対空砲台をつぶせ!!」

 バーリゴル中尉から指示が飛ぶ! 護衛のエグゾスーツ15機と、小型艇3隻が一斉に砲撃を開始する。対空砲台からも砲撃が始まる。


「艦上のやつら! 振り落されるなよ!!」

 小型艇パイロットが警告してくる。俺はスーツの両足裏にあるロックボルトで艦上に足を固定する。

 小型艇それぞれが蛇行しつつ丘に接近していく。



 小型艇の1隻が被弾、エンジン部から出火し墜落していく。


「上昇するぞ!! 落ちるなよ!!」

 小型艇は丘の傾斜に併せ上昇していく。エンジン部から火を噴いていた1隻は、そのまま丘の対空砲台に突撃し砲台もろとも爆発炎上した。

 俺はその状況を視界の隅に捉えつつも、次々に迫る砲台に向け砲撃を加える。



 巨大砲台下部にある発進口から敵エグゾスーツ隊が出てくる。


「こいつらは俺たちが止める、先に行け!!」

 墜落した小型艇に乗っていた護衛隊5名が、エグゾスーツ隊の足止めをしている。

 2隻の小型艇はさらに速度を増し、巨大砲台の上に出た。


 巨大砲台は砲身が外輪山のように周囲を囲い、内部は盆地の様になっていた。

 盆地の底には無数の皿が並び、その皿はそれぞれ柱によって支えられている。


「あの柱全てが、レーザー発振器だ。あれらを破壊しなければいけない。」

 俺が一時手を止め景色に見入っているたため、モント少尉が教えてくれた。


 小型艇は盆地内部へと降下していく。



 接近アラート! 上!?

 横の小型艇にブレードが突き刺さる。赤い大型エグゾスーツ!?

「こんなところまで敵が入り込んでいるとはな。」

 小型艇は蹴り飛ばされ、外壁に当り爆散する。

「補給のついでだ、叩かせてもらう。」

 買い物ついでのような気軽さで、小型艇が1隻落とされてしまった。


「シャルト!!」「っ!!」

 バーリゴル中尉とモント少尉が小型艇から飛び立ち、シャルトに攻撃を仕掛ける。

 二人は砲撃しつつシャルトに接近する。シャルトは後退しながらもこれを回避する。


「行け、ドーゼ!!」

「ここは私たちで!!」


「いや、いかせんよ。」

 シャルトは残り1隻の小型艇に向けて150mm砲を構える。

「やらせない!!」

 モント少尉が150mm砲に攻撃を加える。

「チッ、ちょこまかと」

 シャルトは大型エグゾスーツ、対して、バーリゴル中尉とモント少尉はノーマルサイズのエグゾスーツだ。

 大きさが違いすぎる。


 だが、二人の想いを無駄にはできない。


「急げ!! 破壊班、作業開始だ!」

 俺は破壊班にはっぱをかける。

 小型艇に搭乗していたメンバーが降下していく。全員、破壊作業用エグゾスーツを着用している。爆弾設置を専門としたスーツだ。


 破壊班はレーザー発振器の森に分け入っていく。

 接近アラートが響く。周囲のどこからか敵エグゾスーツが現れ接近してくる。

「破壊班をやらせるな! 俺たちで止めるぞ!!」

 残りの護衛隊に指示を出しつつ、真っ先に敵に向かって突撃した。



 敵はレーザー発振器を傷つけないように気にしているようだ。こちらとしてはやりやすい。

 次々と敵機が現れるが、発振器を盾として利用しつつ撃破していく。

 視界の隅にあるマップを確認する。爆弾設置状況は5割。せめて7割から8割は爆弾を設置したいところだ。



 上を見る・・・・・・、え? バーリゴル中尉とモント少尉が居ない?

「こっちだ。」

 背後から声、とっさに両手でガード! 巨大な平手打ちを喰らい吹き飛ばされる。

 レーザー発振器に背中から衝突した。

 体の中で嫌な音が響き、口の端に血がにじむ。


「チッ、発振器群の中では、おいそれと武器が使えんな。」

 林立するレーザー発振器の中に、赤い大型エグゾスーツが屹立していた。

 バーリゴル中尉とモント少尉は・・・・・? まさか・・・・・。



 シャルトのスーツは、先ほど見た時よりもかなり破損している。二人によりダメージを受けたようだ。

 ドッキングブースの前面装甲も外れ、中のシャルトが見えている・・・・・・・、あれは・・・・・・・、ロボット?


 シャルトは全身が機械のようになり、エグゾスーツと一体化していた。


「仕方がない、1人ずつ潰していくか。」

 シャルトは手の動きを確認しつつ、周囲を見渡す。



「バーリゴル中尉と、モント少尉は、ど、どうした・・・・!」

 俺は何とか動く体に鞭打って、シャルトに近づく。 

「ん? まだ生きていたか。もう少し強めでも良かったか。」


「二人はどうしたぁぁぁ!!」

 俺はシャルト本体に向け砲撃と銃撃を浴びせつつ接近する。

 シャルトは左手でそれらを防ぐ。同時に右手を振りかぶり、俺に向け振り下ろしてくる。

 とっさに発振器の影に逃げ込む。巨大な平手がすぐ横を通過していく。


 発振器を盾に使うんだ。

 俺は発振器の合間を飛び抜けつつ、隙間からシャルトに向けて射撃する。


「チッ!」

 シャルトは舌打ちしつつ、射撃を左腕で防ぐ。

 やつの左腕は徐々に崩壊している。が、ノーマルサイズスーツの武装では腕を簡単には破壊できないようだ。



 先回りするように、前方にやつの右腕が出現する。

 瞬時に下へ回避、頭上を恐ろしい勢いで右腕が通過する。上に気をとられ床面に衝突、ガリガリとスーツが削れる。


 影!? 両手両足で飛びのく! シャルトの足が落ちてくる!! 巨大な足は床にめり込んでいる。

 俺は奴の股下に向けて砲撃しつつ後退する。


 急いで発振器の影へ逃げ込む。

 マップを確認、爆弾設置状況が8割を超えた!

「引き上げだ! すぐに爆破しろ!!」


 俺は発振器に背を付け、隠れた状態で破壊班へ指示を出す。

「いや、させない。」

 背中の発振器が破壊され、その向こう側からシャルトが姿を現す! 右腕が振り下ろされる!!


「うぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 迫る巨大な右腕! 俺はがむしゃらにシャルト目がけ突進した! 発振器の欠片が舞う! シャルトの視界に一瞬の影を作った。

 巨大な右腕が俺の左肩を掠める。俺は勢いで錐もみ状態になりながら、シャルト本体に突進した。


 俺のブレードがシャルト本体を貫く。

「が・・・・・、な・・・・・・、」








 目を開けると天井が見えた。ここは宇宙船?

「目が覚めましたか。」

 体を起こす。

「うぐぁ、」

 体中が痛い、左肩も動かない。


 ここは・・・・・、小型艇の中? 俺は既にスーツが外され、ボディスーツだけになっている。

 どうやら声をかけてくれたのは、破壊班の隊員のようだ。


「きょ、巨大砲台は?」

「無事、爆破しました。」

 隊員は船内のモニタを見せてくれる。

 丘のようになっていた巨大砲台から爆炎が上がっている。

 俺は任務が無事完了した安堵を感じつつも、重大なことを思い出した。


「バーリゴル中尉と、モント少尉は・・・・・・。」

 隊員は気まずそうな表情を見せた。


「そう、か・・・・・・。」

 俺は巨大砲台を焼く炎を見つめた。

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