3.シャルト追撃
もう少しスマートに済ませるつもりだったが、なかなか思った通りにはいかないものだな。
私は乗艦であるハイドラの格納庫に着地し、エグゾスーツを脱ぐ。
「シャルト少佐!」
操艦を任せていた副官のリザリアが小走りで近づき、敬礼する。私も返礼する。
美しい金髪をまとめ上げ、きりっとした軍服のリザリアはやはり絵になるな。
「御無事で何よりです。少々肝が冷えましたが。」
「ふっ、相変わらずの物言いだな。」
私の回答にリザリアはわずかに笑みをこぼす。見目は淑やかだが、その実なかなか大胆な部下だ。
ブリッジへと歩を進める。やや後方にリザリアが追従してくる。
「あの船はトレースしているな。」
「はい、現在は転進し、南へ進路を取っているようです。」
「ふむ、南極へ向かうか・・・・。妥当だな。」
南極基地はロ軍(ロスタコンカス軍)が未だに抵抗を続けている。逃げ込む先としては最適だ。
「先ほどの敵は、やはり"天墜落とし"で間違いないようです。追跡をするのですか?」
リザリアにはやや懸念があるらしく、追跡に懐疑的なようだ。
「そうだな、やつを追うが、何か問題があるか?」
「現時点で銀河連邦機関員と直接的に事を構えるのは、リスクが大きいのでは?」
今の状況はロスタコンカス国内の"内乱"だ。確かにここで銀河連邦機関員に手出しすることで、銀河連邦の介入を早める可能性がある。
「やつは大統領官邸での戦闘でも確認されていたな?」
「はい、我が軍の103パワースーツ部隊と交戦しています。」
「やつは何故、わざわざ乗艦を着陸させた? ロ軍スーツ部隊がなぜ同乗している?」
「それは・・・・・。」
そう、やつ単独であれば、わざわざ包囲されるリスクを負ってまで着陸させる必要はないはずだ。
「乗艦を着陸させ、その上でロ軍のスーツ部隊が護衛するような"積荷"を運んでいるのだよ。」
その"積荷"は、それほどの価値がある積荷だ。危険を冒してでも入手する価値がある。
私はリザリアに向き直り、続ける。
「今は星系全体に通信妨害を施している。やつも銀河連邦へ連絡はできまい。攻撃するなら今なのだよ。」
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「有名な奴なんですか?」
「ああ、ネイド・シャルトという男だ。ガルロマーズとの共同軍事演習で何度か顔を合わせたことがある。」
ソレイユはロスタコンカスのパシフィコ海を、南に向けて飛行している。南極基地に向かうためだ。
そんな中、僕はブリッジで艦長席に座っている。
だって、ダイニングルームは大統領の執務室みたいになっているし、客室は護衛隊の控え室になってしまったし、僕の私室はアリュー親子とドーゼに譲った。つまり、僕の船なのに居場所がない。
居場所がないので、艦長ぶって艦長席にふんぞり返っていた。そこへガーランド中尉がやってきて、先ほどの赤スーツについて教えてくれた。
ガーランド中尉は操舵席の向きを変え、僕の方向を向いて座っている。
赤スーツの情報にそれほど興味はなかったけど、これも親睦の一環かな。
ちなみに、ガーランド中尉と一緒にモント軍曹もブリッジに来たのだが、入り口付近で直立不動だ。
少々僕への視線が厳しく感じるのは気のせいだろうか。なぜかやたらと警戒されている。
そんなモント軍曹の状況を意にも介さず、ガーランド中尉は話を続ける。
「演習では、アイツ1人に小隊が全滅させられたこともある。」
赤スーツ、ひどい化け物だな。そんなやつとは金輪際関わり合いになりたくない。
「それに、戦術眼も持ち合わせていた。先ほどの戦闘では執拗に艦の足を止めようとしてきた。もしかすると、大統領が乗艦していることに感づかれていたかもしれないな。」
やめて、そこで不穏な発言しないで!! 明らかに何か起きそうな気がしてくる!!
『上空一時半の方向、大気圏突入してくる機影があります。』
うわぁ、なんか来た! 噂をしたからだ!!
「判別できるか?」
『ケインズ級1、おそらくはガルロマーズのものと思われます。本艦の進路上30km先に降下します。』
こちらの進路を押さえる気か。
「面舵、降下の下側に入り込む。敵から距離を取りつつ迂回だ。」
接近なんてしてやるもんか。船足はこっちの方が速い。逃げの一手だ。
『上空から機影8! エグゾスーツです!!』
大気圏突入で降下中の艦からエグゾスーツで飛び降りたのか! 無茶するなぁ。
ロスタコンカスもガルロマーズも、どちらのエグゾスーツも飛行性能は高くない。海上で足場が無い状況では、まともに交戦することもできないはずだが。
『フライトユニットを装備しています。スペック通りであれば、現在のソレイユより速力は上です。』
それはつまり、何とかしない限り逃げ切れないってことか。
直上で機動を変えたエグゾスーツ8体が接近してくる。
「防壁!」
早速防壁にミサイルが着弾する。フライトユニットにミサイルまで搭載してきている。僕は戦争しに来たんじゃないのに・・・・。
『対象群からの攻撃行為を確認、対象を敵性勢力と断定、サポートAIによる代理承認、制圧許可。』
仕方ない、制圧しに行くか。
「俺たちも出よう。」
ガーランド中尉が立ち上がる。やる気まんまんだな。僕の内心とは大違いだ。
僕は体面上を取り繕いつつ、出撃をお願いする。
「お願いします。みなさんはソレイユ艦上で敵を近づけないように牽制をお願いします。僕は敵を無力化させます。」
護衛隊のスーツでは海上での飛行戦闘は無理だ。僕が落とすしかない。
モント軍曹は相変わらず厳しい視線で僕を一瞥した後、風の様にブリッジから飛び出していった。
ガーランド中尉とは頷きつつ、急いで格納庫へ向かった。
「エグゾスーツを落としたら、離脱のために加速をかけます。落とされないように注意してください。」
僕は護衛隊3人に注意を促しつつ、格納庫から飛び出す。
護衛隊は艦上に取りつき、早速牽制の砲撃を始める。僕はフライングシールド10枚を展開する。
フライトユニットを装備したエグゾスーツ隊がソレイユの周囲を飛び回っている。
フライトユニットはスーツに比べてかなり大きい。スーツの背中に取り付けられている様はハンググライダーのようだ。ただ、ハンググライダーに比べるとかなり翼が短いが。
『ミサイル接近!』
シールド1枚を犠牲にして防ぐ。ミサイルを受け続けるとシールドが足りなくなる。撃たせないようにしないといけないか。
フライトユニットの運用は、本来戦闘地域への戦力輸送が主だ。そのため直線加速力は高いが旋回性能は高くない。
その隙を突き、細かな機動を取ってかく乱しつつ撃墜する。
僕は上昇し、太陽を背負うようにして上から接近する。敵機は照準が取れないだろう状況でも機銃を掃射してくる。が、これでは当たらないぞ。
すれ違いざまにフライトユニットを蹴り飛ばす。敵スーツはフライトユニットが外れて落下していく。後で船に拾ってもらってくれ。
『ミサイル接近!』
再度シールドで防ぐ。残り8枚だ。フライングシールドで身を隠しつつ旋回、ジグザクの機動をとる。敵からみると、僕がどのフライングシールドの後ろに居るか良くわからなくなっているだろう。そのまま背後に回り込み、フライトユニットを力任せに引きちぎる。
『後方に敵機!』
シールドを背負うように滑り込ませる、銃撃がシールドの表面を強かに叩く。そこへガーランド中尉の牽制が届く。ナイス!
敵がガーランド中尉の砲撃に気を取られた瞬間に接近、装甲の隙間にスタンナックルを差し込み感電させる
8体の敵スーツも残り3体になっている。そろそろ潮時か。
『急速接近する機影1』
何かが突っ込んでくる!! 回避!! 通過していくのは・・・・フライトユニット!? とっさにシールドで防御、シールドに衝突音!
シールドで何か重たい物を受け止めた。シールドからプラズマダガー飛び出している。
エグゾスーツだ。さっきのフライトユニットに乗ってきて直前で飛び降りたのか!
左肩の装甲だけが赤い、まさか奴か? 前回とはスーツの型が違っている。
「追いついたぞ。」
プラズマダガーでシールドが両断される。両手のプラズマダガーで斬りつけてくる。接近戦は厳しい。シールドで視界を遮り、距離を取る。
『対象を同様の敵性勢力と断定、制圧許可適用。』
赤スーツめ、わざわざここまで追ってくるとは、しつこい奴だ・・・・。
銃撃、砲撃、レーザーを続けざまに射撃してくる。距離を取りつつ旋回して回避、しかししっかり追ってくる、飛行性能も高い。振り切れない! シールドがさらに1枚落とされる。
「SD!」
一気に速度を上げ、背後に回り込みドライブを狙う。背中に手をかけた途端、奴の機動速度が上がる。
「お前だけの機能だと思わないことだ。」
SDモードか! 逆に背後を取られた。シールドを背後に滑り込ませつつ振り返る、シールドがダガーで切断される。
ぐっ、もう1枚シールドを、さらに両断される。右ダガーの突きが来る!
左手で受け止める、左手の甲からダガーが生えた。右手のスタンナックルを起動、ボディブローを打つ、が空を切った。
僕の左手には、スーツの右手部分だけが残っていた。スーツを捨てて逃れたのか。奴は距離を取り射撃体勢を取る。だが!
「ぬがぁぁ!!」
「Gプリズン。」
奴の背後にシールドを5枚並べておいた。奴が後退することで自らプリズンに飛び込んでくれた。
プリズンに拘束してしまうと制圧系の攻撃が届かなくなってしまうため、本当にただの足止めになってしまうのが難点だ。
だが、今のうちに逃げよう。痛みは遮断されてるけど左手重症だ。
ソレイユ艦上に急いで戻る。
「今のうちに離脱します!」
赤スーツをそのままに、空域を離脱した。
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