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 味にうるさいのは贅沢な人間だけだぜ。

 頭の片隅から飄々とした声が聞こえました。たまにもう一人の枝光が割り込んできます。お喋りだからです。

 人間は栄養豊富だ。柔らかいほうが食べやすいし、タコは賢いな。


「僕は人間を食べたいとは思わないかな」

「わたしも。タコの考えはわからないの」

「じゃあカタツムリを食する人間の気持ちは?」

わからない、、、、、。だって人は基本的に当たり前を疑わない。カタツムリを食べる習慣がついていればわざわざ理由なんて考えたりしないの」

「なるほど。そうだよね。食べ慣れていたり生き物を食べ物に繋げられたりすれば受け入れられる」

「カタツムリを食べるのは抵抗があるけど、原形がわからないよう調理されてなにも知らされないままだったら食べられるの」

「それなら抵抗なくカタツムリを食べられそうだね」


 たとえば、日本から遠く離れた国や、森林に囲まれた小さな村では、枝光たちには理解できない食材が当たり前に食べられているかもしれません。


 環境や文化で食材だったりそうでなかったりするのです。

 しかし枝光はゾッとしてしまいます。たとえ他の国でカタツムリを食べる常識があったとしても。


「チャレンジャーやグルメな人なら食べそうかな……」

「え? グルメならかえって口に入れたがらないんじゃない?」

「逆じゃないかな、なかまちゃん。だってグルメを日本語にすると食通でしょ」

「う、うん……」


 なにが「だって」なのかわからないなかまちゃんはとりあえず頷きます。


「食通は、食材の味や料理の知識に詳しいって意味だよ」

「うん。だからこそなの。舌が肥えているから美味しいと不味いが区別できる人。それがグルメ」

「食べ物の知識があるからむしろ受け入れそう。食べ物なんだから口に入れても問題ないと思うんじゃないかな」

「ええー! 知識があったらチャレンジするの?」


 なかまちゃんは口元を押さえて叫びました。いくら「それは食べ物です」と言われても食べ慣れていないものだと心がストップをかけてしまうのでしょう。


「た、食べるの?」


 おそるおそる尋ねるなかまちゃんに枝光は重々しく首を縦に振ります。


「食べると思うよ。グルメ家としてのプライドがあるんじゃないかな? 僕にはよくわからない世界だけど」

「それプライドなの? 根気とか勇気とかに言い換えられそうだけど」

「経験しないと得られない知識もあるんだよ。それに食べた経験を文章にして本として出せば儲かるよ」

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