第7話 三人で夕食
「それは何だ?」
商店街まで夕飯の買い物について来ているセロンが問う。
「底値帳だよ。一番安い値段がわかるようになってるの。薪や油なんかは腐らないから、安い時に買いこむの」
我が家には、寝室が五部屋もある上に、馬小屋と物置小屋がある。買いだめしておいても大丈夫。
「帳簿も付けることが出来るか?」
「うん、母が商家の娘だったから」
「それでは、帳簿付けも手伝ってくれ」
「これ以上、働かせるつもり?」
「使えるやつは猫でも使え。我が家の家訓だ」
私の雇い主は、人使いが荒い。
「こんな奴に、大きい肉は必要ないだろう。その皿はこっちに寄越せ」
セロンがわがままを言い出す。孤児院の子どもたちよりせこい。
「セロン、これはサイラスのために作ったのよ。セロンはこの小さい方で十分よ」
「俺はいい。セロンに大きい方をやればいい」
「私は、サイラスのために作ったの! 食べられないとでも言うつもり?」
サイラスを睨む。
「いや、食う」
セロンを睨む。
「小さい方で我慢する」
「さっさと食べてよね」
なんで、三人での夕食になっているのよ。サイラスと二人きりの食卓が懐かしい。
サイラスが風呂掃除している間に、セロンと皿洗いをする。
「セロンは、貴族の息子なのに庶民派よね。サイラスなんて、店ごと買えとか、信じられないことを言うのよ」
「あいつは侯爵子息だからな。家に抗議に行った時も、使用人がわんさかいて、豪勢な暮らしをしていたぞ。私は、貧乏子爵の次男だ。騎士隊に務めていた時は、一人暮らしをしていたし、庶民みたいなものだ」
「セロンのおうち、貧乏なの?」
貴族なんて、みんな贅沢に暮らしていると思った。
「家と言うより、領地がだな。痩せた土地だからそんなに税金をかけられない。ここの復興費用を借金しているが、早く返さないと、元からの子爵領民に申し訳ない」
「セロンのお父さん、いい領主様なんだね」
私が育った村の領主様は、飢饉でも税を安くはしてくれなかった。飢えで弱っているところに病が流行ったのに、放っておかれた。そして、父も母も死んでしまった。
「まあな。父は私の自慢だ。兄も妹も……。妹は勉強して領民の役に立ちたいと、王都の学園に学びに行った。貧乏な暮らしをしていたので、他の令嬢とは話が合わず苦労していたみたいだ。孤立していた時、王太子の婚約者の公爵令嬢に仲良くしてもらったと、本当に喜んでいたんだ。それなのに、あいつが……。許せん!」
洗っていた包丁をまな板に突き刺すセロン。真っ二つに割れるまな板。
「まな板、弁償してもらいますから」
事情はわかったけれど、弁償はしてもらいます。
「どうした? すごい音がしたが」
包丁を握りしめているセロンを見て、顔色を変えるサイラス。
「何があったか知らんが、セシィを傷つけないでくれ。俺が悪いのだから」
「そうだ、貴様が悪い。貴様があんなことをしなければ、妹は死ななかった。妹を返せ」
包丁をサイラスに向けるセロン。
「おまえの気が済むようにしろ。セシィには手を出すな」
「駄目。サイラスを殺したら、私も死ぬから」
私は、サイラスの前に行き腕を横に伸ばす。
「なぜ、こんな男を庇う?」
「私を助けてくれた人だから」
「私は諦めないからな。絶対にセシィの気持ちを変えさせて、貴様を殺す。覚えておけ!」
捨て台詞と共に、セロンが家を出て行った。
まな板代を踏み倒された。後で絶対に取り立ててやる!
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