左目

甲斐聖子

第1話 左目

錆びついた自転車

切り裂かれた人形

黒く染まった電柱


赤く燃え上がったあの日

一瞬で全てを焼き尽くした

眠っていた体を引きちぎって起こしてくれたばーちゃん

左目を燃やしながら鬼のような顔で俺を助けてくれた

赤の中から出られないと思った

オレンジの中に消えると思った

黄色の光に溶かされそうだった


ばーちゃんの声と家が燃える音と消防車

爆音の中、なにも聞こえない

体をよじり俺を家の外に出そうと

左目を燃やしながら鬼のような顔でずっと笑っていた

赤の中から出られないと思った

オレンジの中に消えると思った

黄色の光に溶かされそうだった


黄色の光に溶かされたのはばーちゃんで

オレンジの中に消えたのもばーちゃんで

赤の中から出られなかったばーちゃんは

俺が外に出るまで鬼のように左目を燃やして

そうして全身を燃やして

いつか言っていた「ここは私の家だから」と、じーちゃんのとこに逝くみたいに


錆びついた自転車

切り裂かれた人形

どうでもいい物達


勝手に転がって勝手に寝そべって勝手に噂してればいい

左目を燃やした天使がいつか

同じ場所に住みにやってくる

働かなくちゃ

働かなくちゃ

たたき起こされないように

体を引きちぎって起こされないように

働かなくちゃ

ばーちゃんの好きだったジャスミンを植えるから

耳に植え付けられた騒音と静寂を忘れないから

勝手に転がって勝手に寝そべって勝手に噂してればいい


 

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左目 甲斐聖子 @skg59

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