Mission08_結束

 人は食む、夢を見るために。

 人は食む、過酷な現実から逃れるために。

 とある者たちはやむなく作っていた、売っていた、その禁断の果実を。

 それがいけないことだとは分かっていた。

 しかし、生きるためには悪の道を歩むしかなかった。

 大統領はそんな者たちを救うべく、男に命令を下す。

 そして、その者たちの為に男は戦う。



 深夜、それははじまった。


『戦闘モード、起動します』


 シュバンツに乗り、地下のガレージから地上に上がると満点の夜空が広がっていた。

 しかし、それに気を取られる余裕はない。スクランブルがかかっている。

 視界は全て闇で潰され、わからない。ジョナサンはひとまずレーダーを確認する。

 シュバンツのレーダーなら3機ヘリが来ていることを捕らえることができた。

 レーダーに人間を示す赤い点が固まって表示されていた。それから、暗視装置を起動してヘリの姿を視認した。

 輸送ヘリは全部で3機だ。隠れ家を囲むようにやって来た。

 あのガレージだが、実のところは地下のシェルター。ドン・メルキオルはさらに地下へと逃げ込む。

 彼を守る部下たち――かつての敵と、ジョナサンは共闘することになった。

 共に輸送ヘリを迎撃する。ドン・メルキオルの手下たちの武器はかなり充実していたのだが、空からの機銃掃射に苦戦していた。空に浮かぶ鬼火は、3砲身20㎜機関砲からもたらされたもの。それへ、カルテルの兵士たちは銃口を向けて応戦する。


「でっけぇラッパを持っているあんたが頼りだ」


 ドン・メルキオルの護衛部隊のリーダーがこう無線を入れた。リーダーはジョナサンを目隠し、ここに連れてきた本人。


「あぁ、そうだな。こいつで何とかやってみるさ」

「おい、西から来ているのが狙いやすい。やってくれ」

「あいよ!」


 ジョナサンは西からやって来ているステレスヘリに12.7㎜機関砲を射かける。

 放たれた12.7㎜弾はヘリのコクピットに座っているパイロットを射抜いた。操縦者を失ったヘリはコントロールを失い、きりもみになって落ちていった。

 シュバンツは存外簡単に1機撃ち落としてしまった。

 これにより、ドン・メルキオルの兵隊の士気は上がる。


「やるな!」と、護衛部隊の兵隊がジョナサンに無線を入れた。

「そいつはどもーも、たまたまヘリのティルトローターに弾が当たっただけだ」

「そうかい。それじゃ、次は俺達の番だな!」別の兵士が声を上げる。


 ドン・メルキオルの手下たちも負けてはいられなかった。

 なけなしの歩兵携帯用地対空ミサイルを発射し、もう1機のヘリも対処する。

 ティルトローターにミサイルを食らい、落下し凄まじい音を立てた。地面に堕ちて、プロペラが折れてどこかへ飛んで行った。


「賊の癖に、あんたらもやるじゃないか」と、ジョナサンが言った。

「こちとら元々軍人でね、割がいいんでドンの元にいるだけさ。あんたも来るかい? 今なら、あんたを隊長にしてやれる」


 名前の知らない元軍人が、気前よくこう言った。

 護衛部隊の多くは連邦のPMCからこちらに来た連中や、元サンタバル共和国のエリート軍人など。闇の中だから顔はわからないが、おそらく中にはジョナサンが知っている顔がいるだろう。金に困り、カルテルに入る兵士は多い。


「願ったりだが、よしとくよ。あんたらが作ったハッパを吸いながら、のんびり余生を過ごさせてくれ。まっとうな仕事をしたい」

「そいつはいいや。でもな、職にあぶれたらあんたを雇ってやんよ」

「そん時はよろしく頼むぜ」


 ジョナサンがそう言った時だった。

 残りの1機のヘリが、機銃を撃ちながらじわじわと地面へ近づいて行く。連邦の兵士たちを下ろすために。それが遠くから、よくわかった。


「あと、1機のこっちまったな」


 ジョナサンがぼやいた時、


「おい、兵隊のあんちゃん」


 ドン・メルキオルの手下の1人がジョナサンにを台車で持ってきた。台車の上にはサッカーボールが四つ。籠の中に入っている。


「鉄砲だけじゃ、心もとないだろう。これ使え!」

「そいつはサッカーボールか?」ジョナサンはわざとこう聞いた。「ここはサッカースタジアムじゃねーぞ!」

「ば~か、ただのサッカーボールをもってくるわけねーだろ!」

「じゃ、そいつはなんだよ?」

「俺が作ったお手製の爆弾さ! 中はセムテックスとかでギチギチだ。中に接触信管突っ込んで、当たったらドカンだ!」


 即製の爆弾。それも高性能爆薬であるセムテックスが詰められているという。こんなものが、この場所にあるとは思わなかった。


「……なんであんたらがそんなもんを持ってんだよ」ジョナサンは困惑しながらも、「気を利かせてくれてありがとうな」


 ジョナサンが駆るシュバンツは、台車に乗っているサッカーボールを1つ握ると、飛んでいるヘリに投げつけた。

 見事なスローイングであった。大きな弧を描き、飛んでいるヘリのそばへ投げたサッカーボールが――。

 当たらない。

 そう、見たジョナサンはそれに狙いを定めて撃つ。

 みごと命中し、凄まじい爆発によってバランスを崩したヘリは地面に堕ちた。


「すげーなあんた!」

「まるでアクション映画めてーだな!」

「最高だ! ヒャッハー!」


 これにより、ヘリは全て墜落した。

 連邦の方ではてんやわんやになっているだろう。そう考えたら、ジョナサンはニヤニヤが止まらなかった。

 しかし、喜んでいる暇はない。

 墜落したヘリから、ぞろぞろと連邦軍特殊部隊の面々が出て来ていた。連邦の屈強な兵士たちは、みな生き延びるために抗おうとしていた。


「もう1個、頂くぞ」


 またしても、ジョナサンはサッカーボールを思い切り投げつける。今度は連邦軍の兵士に。

 その1人にボールが当たり、心臓に悪い轟音が。それから、土煙が上がって連邦の兵士たちは木端微塵に消え失せた。


「あっはっはっはっは、きったねェ花火」


 笑うジョナサン、目が座っていた。


「痛快だな!」

「こんな調子で頼むよ、軍人さん」


 上がる歓声。


「軍隊のあんちゃん、落っこちた3機目から出てくるアリンコどもはこっちでやる。あんたは残党を狩ってくれ」

「おう!」


 言われた通り、生き残っている海兵隊員を12.7㎜機銃でミンチにする。

 熱に浮かされていたが、淡々としたこの作業をこなしているうちに、ジョナサンは少しばかり我に帰るのであった。


「……まったく、何でこいつらの味方をしてんだろうな」


 ごちるジョナサン。

 彼は、2機目のヘリの破壊に移る。

 ヘリが落ちた所に向かおうとしていた時、連邦軍の兵士たちとコンタクト。


「うおっ!?」


 連邦軍の兵士は4人。

 まず1人目をすくい、握りつぶす。次に手の甲で薙ぎ払い、2人目を壁にぶつけてつぶす。3人目は頭を掴み、ぐしゃっと。そして、逃げようとした最後の1人を蹴り飛ばし、まっさかさまに頭から落ちて、動かなくなった。


「あせった……」


 ジョナサンは左の腕で顔の汗をぬぐうと2機目のヘリが落ちた場所まで走る。

 そして、また落ちたヘリに群がっている敵の排除を行う。

 近づいた海兵隊員を握りつぶしたり、殴って蹴ってぶっ飛ばしたり。対人戦闘において、シュバンツは無敵であった。


「おい、こっち来てくれ!」

「どうした?」

「悪いね、苦戦してる。なんとかならんか?」

「仕事中ならいいんだが……」

「ちょうど手が空いた。そっちへ向かう」


 ドン・メルキオルの部下に呼ばれ、壊した3機目のヘリの元にジョナサンは向かう。

 ドン・メルキオルの部下たちは、連邦軍特殊部隊の連中に苦戦していた。岩に身をひそめ戦う彼らは、摩耗していた。手下たちの死体がところどころに見られた。

 ひとまずジョナサンは盾となるべく、前に出る。

 人如き、造作もない。


「のおっ!」


 慢心していた。

 後ろからロケットランチャーで狙われていたらしい。背中を討たれてしまう。

 それでも、銃口を攻撃があった方に何とか向ける。


「バッカ! テメー何やってんのよ。あれ、味方だよ」


 どうやら、慣れていないものがシュバンツの膝に間違えて撃ったらしい。

 軍人の中にやはりただのチンピラが混じっているようだ。選りすぐりの護衛部隊とはいえ、彼らはやはり寄せ集めの集団だった。

 ダメージは少なかったから良いものの、膝が壊れて動けなくなったら致命的だった。


「これだから、賊は嫌いだ!」


 思い切り、コクピットの壁に拳を打ちつけると、ジョナサンは腹いせに連邦軍の兵士たちを12.7㎜機関砲でミンチにした。




「これでしまいか?」


 護衛部隊のリーダーに催促され、ジョナサンはレーダーを確認する。

 先ほど散らばっていた赤い点は跡形もなく、消え失せている。ジョナサンの視界には燃えたぎるステレスヘリの残骸が3つ。あとは燃えたぎる炎に照らされる連邦のエリートたちの死屍累々が散らばっていた。

 これで終わったと思いきや――。


「いや、まずいことになった」


 コクピット内がけたたましい警報の音で満たされる。高速で飛んでくる機体を感知してしまったらしい。


「対空レーダーはあるか?」

「あるから、ヘリを感知で来た」リーダーが答える。「でも、ポンコツなのかわからんが、ヘリは1機だけしか感知できなかった。ていうか、いつもと違った。反応が出たり消えたりわけわからん。しかも反応は点みたいな豆粒がついてる程度だ。わけわからん」

「そうか」


 それもそのはず、ヘリはステレス仕様だったから。

 ジョナサンは医者のように問診を続ける。


「何かあったのか?」

「猛スピードでこっちに来る奴がいる。そいつがまわりをビュンビュン飛んでいる」

「あん?」と、リーダー。「見当たらねーぞ」

「で、レーダーには何が映っている?」

「ちょっと待てよ……」リーダーは対空レーダーを確認すると、「いや、何も映っていないって。あんたの勘違いじゃないのか?」

「そんなはずはない」

「そんなはずあるんだよ!」


 それでだいたい、ジョナサンは何が飛んでいるのかを悟った。

 そいつは非常に厄介な相手だった。


「聞け、戦闘機がここにやってくる。ステレス戦闘機だ」ジョナサンは息を吐くと、「お前ら、速やかに地下に潜れ」

「あぁ?」

「さっさとしろ!」


 まごついていたら、ミサイルが飛んできた。シュバンツめがけて。シュバンツは何とか後ろにブースターをふかし、事なきを得る。

 しかし、逃げ遅れたドンの手下たちが焼きつくされる。

 1発、ミサイルを見舞って地下シェルターの上空を余裕たっぷりに飛ぶ、洗礼された形状の戦闘機。


「あれはF-35か」


 勝ったと思っていたが、1転してピンチに陥る。


「どの軍隊も、敵には容赦ねぇなぁ」


 かつての敵とは言え、何も感じていない訳ではなかった。むしろ、ちょっと友好的なものを抱いていた。

 ジョナサンは少し腹が立っていた。

 ジョナサンは唸ると、レーダーを確認する。

 F-35はステレス機であったが、シュバンツのレーダーに捉えることができている。それもそのはず、レーダーは生体反応を感知するものだ。細かく言えば、人間の鼓動を感知して、表示させるもの。

 これが無人機であればひとたまりもなかった。


「あんたの言う通りだったな……」


 リーダーの弱々しい声。どうやら彼は生き残っていたらしい。それも五体満足で。


「だから言ったのに……」


 護衛部隊の兵士たちは、ここでようやくジョナサンの言葉に従う。散らした蜘蛛の子の如く、地下シェルターへの移動を始めた。


「あんたは?」と、リーダー。

「こいつを追っ払う」

「勝てんのかよ?」

「時間稼ぎくらいはできるだろう」


 ジョナサンは上空の敵を見据える。

 敵は現在、隠れ家の周囲をぐるぐる飛んでいる。

 山にあるせいか、深夜だからか、戦闘機の位置を視認することができない。ステレスと言えど、その単発ジェットエンジンは轟音を立てている。これを頼りに、戦闘機の攻撃を対処せねばならない。


「まいったな、まいった、まいった……」


 ジョナサンは歯噛みした。

 その上空では戦闘機のパイロットとハンニバルがこんなやり取りをしていた。


「こちら、ブライハ1。敵はまだ、生きている。もう1度アプローチを仕掛ける」

「デカダンより、ブライハ1へ。アプローチを許可する。それから、その人型重機の破壊を敢行せよ」

「ブライハ1、了解。ただちに破壊措置を行う」


 そうしていた時に、またしてもF-35がやってくる。

 バルカンをシュバンツに撃ちまくってきた。


「クッソ! この野郎」


 ブースターをふかし、弾丸の雨を何とかかわす。それからすぐに12.7㎜機関砲を撃ち続ける。しかし、かすりもしなかった。

 それからまた、戦闘機は焦らすかのごとく、周囲を旋回したのちシュバンツの背後へ。

 ウェポンベイが開き、ミサイルが1本――放たれた。

 シュバンツの中がミサイルアラートで満たされる。


「やばい、やばい、やばい!」


 何とか、ジョナサンは避ける。

 ミサイルが爆発した音を聞くと、ジョナサンは生きていることに感謝した。

 その顔は酷いものだった。目を見開き、大口を開け、肩で息をする伊達男の顔は、それはもう凄まじい。


「おい、あんた! さっきから頭の上でどかどか言っているけど大丈夫か?」

「なんとか……」

「なんとかじゃないだろ、何とかしろよ!」


 ジョナサンは歯噛みする。


「うるせぇなぁ……」


 また戦闘機が飛んできた。

 今度はかわしきれず、機体を20㎜弾でシュバンツの装甲を少しばかりノックされてしまう。先ほどのフレンドリーファイアが尾を引いているらしい。


「おい、何だよ今の音は?」

「なんでもねぇ、引っ込んでろ!」


 ジョナサンは苛立っていた。

 しかし、ジョナサン以上に苛立っていた者がいた。その者たちの手によって、照明弾が4つほど上がる。


「なっ!?」


 夜闇というアドバンテージを不意にしやがるバカがいた。


「何してる!?」

「なにって、照明弾を上げて見やすくするんだよ」

「バカかテメーはそれじゃこっちが丸見えになるだろうが!?」


 腹が立ち、ジョナサンは吠えた。

 この奇行に上空の敵も困惑していた。


「アレは何をやっている?」

「何かあったか?」

「こちら、ブライハ1。デカダン、敵が四方に照明弾を上げた」

「かまうな、やれ」


 カルテルのメンバーと口論になりかけるジョナサン。何とか沸騰した頭を短い時間で何とかするとジョナサンは策を練るようとする。

 しかし、そんな間はどこにもなかった。

 ミサイルが飛んできてシュバンツに――閃光、とっさにブースターを噴いて、これをよけようとするのだが――。


「ふぬぉ!?」


 失敗した。

 爆ぜ、シュバンツの手足がぶっ飛び、胴体が転がっていった。

 その衝撃波凄まじかったが、直撃は辛くも免れた。

 操縦者は気絶してしまったが、前のような発作は起こらなかった。人工知能が中継に入っているため、ジョナサンが無理やり起されることはない。そのまま気絶し、鉄の棺桶の中でのびていた。

 無線は完全に破壊されており、ジョナサンを起す者はいない。


「こちら、ブライハ1。敵を倒した」

「了解した。ブライハ1、ミサイルはまだあるか?」

「小型のバンカーバスターなら」

「それを使え、連邦の敵を始末しろ」

「了解した」


 敵の戦闘機が最後の攻撃アプローチには行おうとした時だった。


「よぉ、ならず者さん。よくもおれのダチをブッ飛ばしやがったな」


 夜空に編隊。4機のSu-27 。尾翼に猫。トルネード・リンクスが現れた。


「テメー、ただで帰れるとは思うなよ」


 その後、ブライハ1はトルネード・リンクスに嬲り殺された。

 それから、間もなくウィング・ヴァイパーという戦闘ヘリ部隊がやって来る。

 気絶していたジョナサンはシュバンツの中から救い出された。

 地下シュルターにいたドン・メルキオルとその手下たちとともに、ニコロプンテ陸軍基地へ移動した。

 その頃合いには、夜が明け、暁がのぼる。




 ニコロプンテ陸軍基地、臨時で造られた大統領の執務室にて。

 とても質素な場所で、麻薬カルテルのゴットファーザーと大統領が対面する。

 それに立ち会うことになったジョナサンは頭がガンガンしていた。ミサイルを食らって起きてから、そこまで時間が経っていない。何度も、額に手をやってジョナサンは耐えていた。

 それに構うことなく二人は話をする。


「ドン・メルキオル。私は少しずつ、50年かけて麻薬カルテルがなくそうとしていくつもりだった。有史を見ても――急に根絶やしにしようとして、うまく行ったためしはない。だから、ゆっくりと融和して行く方針を取った。だが、連邦に邪魔をされてしまった」

「それに賛同し、私はあなたの政策を見守るつもりだった。私としてはビッグになるために、ギャングスタを上り詰めた訳ではない。やむなくだ。それから、あの組織で私が1番、運が良かっただけだ。実力でこの地位に立った訳ではない。たまたま、偶然なのだよ……」


 ドンとしては国が豊かになり、女を抱いて人に殺しをさせ、毎日何かに怯える生活から離れたいと考えていた。


「私はこの生活から、抜け出したいと考えている。この生活を次の世代にさせたくはないとも考えている」


 そのことを口にする、ドン・メルキオル。


「しかしな、連邦と麻薬カルテル『フラクタル』の息子のせいですべてがフイになるところだった」


 しかめ面のジョナサンと大統領は顔を見合わせる。


「フラクタルの息子? ティミーさん」

「ジョナサン君、私もそれは知らない」


 ドン・メルキオルは目を伏せる。


「アルブレヒトは麻薬カルテル、両親と妹を殺したゴットファーザーを憎んでいた。だが、そのアルブレヒトの両親は麻薬カルテルの経営者だった。小さなね……私たちはそのカルテルと抗争した。陰で連邦に唆されてね……そして、勝ってしまった」

「それから?」気付いたら、ジョナサンは口走っていた。

「抗争して……両親の最後に立ち会った時、哀願されてな。アルブレヒトだけは殺さないようにと。私はその約束を守った。だから、今回の件は悪いのは私かもしれないな」


 ジョナサンはいたたまれない気持ちになった。

 こんなことがあるなんて、と。


「連邦に唆されてとは?」

「フラクタルはメキシコのカルテルとつながりがあり、密輸ルートをになっていた。連邦はそれが気に食わなかったのだろう。私を使って何とかしようとした。当時、信頼していた部下を誑かして。そして、私はたばかられた。ティミー、申し訳ないのだが――このカルテルがここまで大きくなった背景には連邦の影がある」


 ジョナサンは痛む頭で考える。


「無数にあるカルテルを1つにまとめ上げ、まとまったところを根絶やしにする」

「そういうことだ」


 ジョナサンは何とも言えなかった。二人の話が高度すぎて。理解はしていたが。

 しかし、これだけは一緒であった。国をこんな状態にした連邦に対し、激しい嫌悪と怒りを感じていたことに対しては。


「しかし、向こうにも誤算があったようだ」


ドン・メルキオルはジョナサンの方を見るとはにかんだ。


「君だよ、フリーガー君」


 ジョナサンは首をかしげる。


「君の手で、連邦の蛮行を終わらせてくれ」


 大統領とドン・メルキオルを交互に見た後、ジョナサンは深く頷いた。

 今日を越えれば、残すところは首都のサウス・ヘイブンのみとなる。ジョナサンの自宅、そこにいるであろう家族たちまで目前だ。




 同時刻――エルドラド州のブナーン空軍基地にて、ヘリが飛び立つ。

 ハンニバルは連邦へ帰るヘリに乗っていた。ドン・メルキオルに対する最後の策を打った後、ハンニバルは帰国する。アルブレヒトはこれを不服に思ったが、ドン・メルキオルを討てるならと了承した。


「……このたびは申し訳ありません」


 ヘリの機内で、ハンニバルは中央情報局にどやされていた。

 しかし、意を介すことはなかった。


「……誠に遺憾です」


 内容は、責任を取って中央情報局のエージェントを辞めることについて。

 辞めることに意欲的であったがそれを電話向こうの相手に見せない。


「――ですから、責任と取って辞職を」


 責任を取って辞任する旨を伝えるとハンニバルは笑顔でこの国を去った。

 彼の手に握られている構想は、未来の戦争をリードして行くものであった。

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