Mission06_解放

 輸送車はいわば血であり、それが行く道は管と呼ばれる。

 共和国という大きな人の中を張り巡らされている無数の血管、それを兵士たちは破壊し、我がものとする。

 これに目を付けたハンニバルは毒入りの食料を入れた輸送車を走らせるようとした。

 その情報を掴んだ男は、歩く棺桶にその身をすぼめた。




 調達の難しい戦車や戦闘ヘリの代わりに、大量の人型重機を手に入れたことで正規軍は勢いを増した。

 災害救助で使われたり、軌道エレベーターや宇宙ステーションの建造に使用されていたりしている人型重機に戦闘用のソフトウェアをいくらか追加しただけ。あとは大きな銃を持たせただけ。

 それだけなのだが、これを手に入れた正規軍はイストウィンチェスター州を取り返し、一気にサース州をも手に入れてしまった。追い込まれていたというのに。

 シュバンツは――人型重機に武器を持たせただけの、いわゆる歩くテクニカルだ。そんな突貫工事でできた兵器だからか、コスト・整備性・操作性は他の兵器よりも断然よかった。

 戦車1両の値段でシュバンツの元機――起動エレベーター建設や宇宙ステーション建設に用いられるモデルが10機、通常の災害救助用のモデルは17機も購入できた。持たせる兵器の方もかなり手に入れやすいものばかり。部品の数も少なく、少し機械の知識があれば整備が簡単にできた。人型重機は、ほぼ直感的に操縦できるため、兵士の錬成の時間はいらず。戦闘モードへの切り替えと、起動の仕方、あとはHUDの見方さえわかればそれでよかった。

 敵はゴキブリみたく増えるシュバンツを何とかするため、工場へ何度も空襲をおこなった。

 だがしかし、トルネード・リンクスなどの精鋭航空部隊により無力化された。それでも敵は諦めずに部隊を派遣するのだが、うまく行った試しはない。

 戦闘は日々、激化して行く。

 麻薬戦争が繰り広げられていた頃よりも。




 味方がシュバンツによって盛り返す間、ジョナサンはというと――傷を癒していた。

 気が休まないジョナサンは、ベッドから脱走しようとしたがメディックの監視により、そうはいかなかった。

 それでも懲りず、ジョナサンは何度も脱走を繰り返し、しまいにはベッドにくくりつけられることに。そのおかげか、ジョナサンのケロイドの治療と顔面の抉れた部分の再建が進み、元通りとまではいかないが右目に義眼を入れられるようになった。

 そして、入れた。機械の目玉を。

 そんなこんなで2ヶ月――。

 取り返したサース州ニコロプンテ基地のブリーフィングルームにて、ジョナサンとメディックは大統領を直視していた。


「諸君、ブリーフィングを開始する前に言っておきたいことがある。敵が、どんな者たちかだ」


 台に立ち、将兵たちの前に立ち、迷彩服を身に包む大統領は演説するかのごとく、とある作戦内容について語り出す。


「先日、化学工場を襲った作戦行動でこんなものが発見された。人間の体組織を塩化させて動けなくさせるウィルスだ。それを混ぜた食料を輸送し、我らを一気に根絶やしにしようとしていた」


 周囲がどよめく中で、ジョナサンとメディックはまっすぐ前を見据えていた。


「まだ、調査をしている途中ではあるが――はっきりと分かったことがこれである」


 大統領は言った。


「敵は我らに容赦ない」


 大統領はさらに言った。


「だからこそ、我々は敵に立ち向かわなければならない!」


 大統領の言葉を聞いた将兵たちの心にある使命感がより一層強くなった。

 これが連帯感を生み、明日の勝利へと結びつく。


「彼らを粛清しなければ、この国はよりいっそう混迷を極めることになる。大国に操られ、民間軍事会社や武器商人のビジネスの場として利用される。悲劇が生まれ、貧困はさらに加速する。それだけは何としても避けなくてはならない」


 大統領は深く頷くと、


「だからこそ、抗わなくてはならない」


 こう言った。

 それから再び、大統領はもう一度、自分の意志を訴える。


「諸君、私はこれに抗いたい」


 それはとても強い言葉だった。

 大統領に視線が釘付けになっている将兵たちの姿勢が自然と正された。ジョナサンもメディックも同じように背筋を伸ばした。


「だが、私だけの力では心もとない。ここに居る将兵の者たちよ、力を貸してほしい。――では、ブリーフィングに移る」


 長い前置きをした後、ここでようやく本題に入る。


「内容はこうだ。ウェスト州にある中規模都市ストーンヘッドを制圧する。概要は都市の制空権を航空戦力、トルネード・リンクスやタイフーンドッグスらが奪った後、地上戦力で都市部を鎮圧する」


 この基地の司令官は照明を落とすとプロジェクターを起動し、50名の将兵たちにウェスト州ストーンヘッド周辺の地図を展開する。


「なけなしの戦闘機や戦闘ヘリ、あるいは戦車を使ってね」


 大統領の言葉にあわせ、駒が動く。反乱軍を示す赤い駒と正規軍を示す青い駒。それらが蠢き、進むべき道を示す。


「航空戦力が制空権を取るためには、SAMや対空砲を片付ける必要がある。情報では、ストーンヘッドの対空防御はかなり固い。そこでサイクロプス隊の君たちには先行してある程度、対空砲やSAMを片付けてもらいたい」


 大統領と目と目が合うジョナサン。

 彼が所属する共和国陸軍人型重機特殊戦術戦闘部隊『サイクロプス』の人員は増えた。

 イストタウンで大量生産されているシュバンツ達のおかげで。ちなみに、人型重機ドワーフを兵器利用の為に使用することについては水橋重工に副大統領が交渉し、秘密裏に了承を得ている。

 水橋重工にはこう説明している。戦闘ではなく土木工事に使っていると。

 しかし、水橋重工の社員は戦闘に利用していることを知っており、危険を押して社員がイストタウンの工場に入って仕事をしている。彼らも制作している人型重機の機能向上の為に、危険は承知でやっていた。


「対空防御は三か所に集中的に固まっている。ストーンヘッド中央公園、イエローバニングス公園、市庁舎の前の大きな道ヘンドリックス通り……4機1小隊を三つに分けて、君たちには対空防御の排除に当たってもらいたい。3つの隊はジョナサン・フリーガー少尉が隊長のアトム、ジョージ・センチネル准尉率いるコバルト、ジョンソン・ヘンダーソン少尉率いるウランだ」


 ここにアトム隊・コバルト隊・ウラン隊が結成された。

 名前を呼ばれた3人の男たちはお互いの顔を探し合う。


「隊員は、各隊長の判断に任せる。優秀な者たちを選んでくれ」


 どいつもこいつも似たような面構え、そう頼もしい顔をしていた。その顔を見つけると隊長たちは表情を緩ませるのであった。


「君たちが空の脅威を70パーセント片付けた後、航空戦力を投入する。あとは――」


 話の途中でジョナサンとメディックは顔を見合わせる。

 それから、小声で話をし始めた。


「俺たちの役割は先行し、SAMや対空砲の排除か」

「そのようね」

「何が何でもがんばらないとな」

「えぇ」


 短いやり取りを済ませると、二人は真剣な顔を大統領に向けるのであった。


「作戦は5日後の0200に行う――」


 大統領はブリーフィングを続ける。

 顔の右半分の包帯が取れ、機械の眼を入れたジョナサンはさながらサイボーグのようであった。再建した傷跡はでこぼこしており、左目よりも右目の位置がやや下にあった。作られた腫れぼったいその目は機械でできており、目じりが下がって片目だけ眠たそうであった。

 そんな男が、また死地へと向かう。

 サウス・ヘイブンにいるであろう家族の元へと帰るために。




 5日後、深夜。ストーンヘッド。

 この歴史ある街は、イギリスの植民地だったころから存在する。街並みも都市の特色も昔のマンチェスターの街によく似ていた。街は3つの川の合流点にあり、大きな工業都市という所も。

 ここで制圧作戦が行われる。

 ジョナサンが率いるアトム隊はSAMや対空砲が展開されているヘンドリクス通りから、行動を始める。大国に操られている反乱軍からこの街を解放するために、兵士たちは鋼鉄の体で歩む予定だ。

 ジョナサン率いるアトム隊の面々は、大型トレーラーの中に押し込まれ、その時を待っている。


「こちら、アトム。……そろそろ時間だ。これより作戦を開始する。敵の対空網の破壊に入る」


 ジョナサンがこう報告を上げた後、


「こちら~、コバルト。こちらもアトムと同様に敵の対空砲の排除に移る」


 コバルト隊の隊長からイエローバニングス公園にて、作戦行動に移る。

 続いて、ウラン隊がストーンヘッド中央公園に降り立つ予定だ。


「ウランだ。右に同じ、対空防御をこれから潰す」


 全部隊、全4機。

 各大型トレーラーからリリースされる。


「サイクロプス隊、全機全部隊展開! 作戦行動開始」


 メディックの威勢のいい声のち、


「諸君、派手にやろう。終わったら、一杯おごらせてもらう」

 ジョナサンは言った。

 雄たけびを上げて喜ぶサイクロプス隊の面々。歓声を上げながら、対空砲の排除に取り掛かるのであった。


「みんなやるぞ!」


 ジョナサンの背中を守る3人の兵士が嬉々として答えた。

 スタンという白人の兵士、ベニーというトレッドヘアの黒人兵士、ジョニーという日系サンタバル人の兵士。3人の産まれや育ち、はたまた人種は違えど、頼もしいジョナサンの味方であった。


「ジョニーとスタンは右、ベニーは俺について来い」


 二手に別れ、アトム隊のシュバンツどもはブースターをふかす。


「敵だぁああああ!」


 敵が怒鳴り散らし、自動小銃やらグレネードやらを撃ちまくる。

 しかし、ブースターを備えているシュバンツたちには当たらない。軽やかに4機はホバリングし、敵を順調に対処していく。


「ジョナサン、そっちにSAMは?」

「メディック。SAMが3、対空砲が5だ。どっちともパイルバンカーでひっくり返してやる」

「腕、壊さないでね?」

「わかってる」


 メディックとの短いやり取りを済ませると、ジョナサンは12.7㎜機関砲を構え、敵に突貫する。

 ジョナサンたちは12.7㎜機関砲でSAMを守る兵士たちを一掃する。それから、一機目のレーダー信号処理・電源車に近き、パイルバンカーでとっつく。車両が派手に爆ぜ、横に転がった。


「電源車をやった、ぶっ壊した!」

「隊長! こっちもやりましたぜ」と、ジョニー。


 すかさず、ベニーが3機目のレーダー信号処理・電源車にとっついて破壊。

 スタンとジョニーはというと、対空砲を片付け始めた。ジョナサンとベニーも追い着き、あっという間に一つ目の対空網を壊滅させる。


「こちら、アトム! 終わったぞ」

「了解、えらいはやかったわねぇ~」メディックは感心すると、「他のところはまだ終わってないわ。防御網がぶ厚いみたいで」


 ちょうどその時だった。街角から装甲車が3両、顔をのぞかせた。こちらを視認するなり砲を回し、その穴から火が引き出した。


「隊長、装甲車だ!」と、スタン。

「悪いね、メディック。来客だ」

「お客さん? それなら丁重に出迎えてあげて!」

「了解!」


 ジョナサンたちは装甲車が来た方へすっ飛んで行く。

 しかし、装甲車は発砲するとすぐに後ろへ下がって行った。


「おい、みんな! 気をつけろよ。敵は装甲車だけじゃない」


 3人は「了解」と声を上げ、ジョナサンの後ろに続く。

 それから、装甲車が逃げた先に戦車が2両。


「やはりいたか!」


 ジョナサンとベニー機に向けて撃ってきた。

 二人は間一髪で砲撃をかわす。そばをかすめる砲弾に、体の芯を揺さぶられ、股の間についているものが縮み上がった。


「うぉ!? スタン?」

「大丈夫です、隊長!」と、スタン。


 それから、ジョナサンとスタンは次弾装填させる間を与えず、すぐにパイルバンカーで戦車を撃ち貫く。


「戦車2両やったぞ!」


 ジョナサンが吠えると、


「了解、装甲車は俺達に――」


 ベニーが雄叫びをあげた。


「任せる、とっちめてやれ!」


 ジョナサンは味方に指示を出す。

 暴れるシュバンツ共。粗暴な一つ目の巨人たちは、あっという間に4両の装甲車をパイルバンカーで撃ち貫く。


「頼もしい連中ね、ジョナサン」

「あぁ、頼りになる連中だ」ジョナサンは引き笑いすると、「それはそうと、航空部隊は?」

「そろそろよ。カロライナーからやって来るってさ」

「トルネード・リンクスか?」

「そうよ、もっと頼もしい連中でしょ?」

「だな!」


 装甲車4両を片付けた後、ストーンベッド上空にSu-27の機影を4つ見る。尾翼には竜巻を巻き起こす山猫のエンブレム。


「こちら、トルネード・リンクス。その隊長のリンクス1だ。あ~サイクロプスのアトム隊の隊長さんよ、まだ空からのお客さんは来ていないか?」


 トルネード・リンクスの隊長から、ジョナサンへ無線が入った。


「こちらは、アトム隊の隊長だ。トルネード・リンクスへ。敵はまだ来てはいない。ストーンヘッド中央公園とイエローバニングス公園で戦っている連中が手こずっている。手を貸してやってくれ」

「リンクス1、了解した。ちょっとなめてやるとしよう」

「あんたらは身重だ。やられないようにな」


 カラカラと男の笑い声がした後、


「わかってるって、一応~俺らは空対地ミサイルを積んできている。そいつを使ってりょっくらやるだけさ。それでもだいぶ違うだろう?」

「確かに……あとは任せた。よろしくたのむ」

「了解! リンクス1より、小隊各機へ。散開して敵さんに空対地ミサイルをくれてやれ」


 トルネード・リンクスが敵へ空対地ミサイルを撃ち込む。

 地上から空へと延びる閃光を軽やかにくぐり抜け、ずんぐりとしたミサイルを兵装パイロンからリリース。

 放たれた矢は火を吹き、対空砲へと吸い込まれていく。

 夜闇に描かれる一線、その軌跡は一瞬だけ空に現れて消えた。

 それから地上に凄まじい衝撃をもたらすのであった。

 これを何とかすべく敵は弾幕を張るも、弾に当たることなくミサイルは直進し、爆ぜて対空砲を無効化した。

 これにより対空砲は大方片付いた。


「すごい連中だな?」

「確かに」


 ジョナサンとメディックが感心していると、スタンのシュバンツが負傷した。

 戦車の弾を食らい、右足がもげた。


「いってぇ~隊長」と、スタン。

「おい、大丈夫か?」

「すみません、やっちまいました。俺は大丈夫――」


 スタンが無事だと答えた時、レーダーに反応が。

 敵の航空機がやって来た。

 空からやって来た敵は、アスファルトに横たえているスタンが入ったシュバンツに機銃を見舞う。機銃のシャワーを浴びて、中にスタンが入っているシュバンツはハチの巣にされ、爆ぜた。


「スタァァアン!」


 中に入っていた男の体は弾丸により、物言わぬ肉塊と化した。

 それを見た3人の男たちはスタンの名前を叫ぶ。しかし、死んでしまったスタンは帰ってこない。この無力感と仲間を奪われた憎悪を抱き、目の前にいる敵の命を刈り取る。

 ストーンヘッドの対空砲火は静かになった。

 しかし、空はこれから賑やかになる。戦車や戦闘ヘリには対抗できるシュバンツであったが、戦闘機には太刀打ちできなかった。音速で空を駆ける猛禽には、歯が立たない。一応、歩兵携帯用地対空ミサイルを備えたものもあるが配備状況はよろしくない。


「こっちは大方片付いたが――空はこれからってところだな!? クソッ、クソッ!」


 飢えた狼のように歯をむき出しにするジョナサン。狭いコクピットの壁に何度もこぶしを打ちつけると、大声で汚い声を上げまくった。ベニーとジョニーもジョナサンと同じように、狭いコクピット内に唾をまき散らした。


「……君たちの任務はこうだ」


 怒れる男たちの元に、さらなる困難が。

 連邦の狗であるハンニバルの声によってもたらされる。


「敵の排除だ。共和国陸軍人型重機特殊戦術戦闘部隊サイクロプスのアトム隊の排除だ。戦闘状況は仕上がっている」


 アトム隊に差し向けられる刺客はアメリカンフットボールの選手のような外観を持つ人型のロボット。連邦から極秘に運ばれた、ハンニバル・インダストリーで製作された人型機動兵器のプロトタイプ。


「君たちには期待しているよ。さっさと彼らを片付けて来てくれ」


 一つ目のシュバンツとは違い、ヒロイックでスリムな4機の人型機動兵器。闇を切り裂き、ジョナサンの部隊に襲い掛かってくる。

 赤く染められた人型ロボット。ハンニバル・インダストリーで製作された鋼鉄のフットボーラーたちが後生大事そうにボールの代わりに20㎜機関砲を抱いて、足についているローラーにより、地面を滑る。

 そして、向かう。

 アトム隊を屠りに。


「ん? あっ……隊ちょ――」


 これに気付いたベニー。しかし、遅かった。機関砲に撃ち抜かれ、大破した。ジョナサンが振り返った時、ベニーが乗っていたシュバンツは身を震わせ、沈黙した。その背部は真っ赤に染まっていた。


「ベニーィィィィ! クソ! なにがどうなって――」


 続いて、敵はジョニー機にタックルをかました。更迭のフットボーラーの突進に耐えられず、ジョニーが乗っていたシュバンツの正面がへこみ。中に入っていたジョニーは圧死した。


「えっ、ちょ、何!?」

「仲間が死んだ!」

「ちょ、誰が?」

「ベニーとジョニーだ!」


 ビルの陰から奇襲されて、仲間の二人が死んだ。

 ジョナサンが悲しんでいる暇はない。


「クソッ、二人の仇を討ってやる」


 ジョナサンは4機の人型機動兵器を相手取る。敵は自分たちよりも早く、コンビネーションが巧み。よく訓練されていた。冷静な判断が必要だったが、ジョナサンは怒りに任せて4機に突っ込む。

 だが、それでもジョナサンは強かった。

 弾をばら撒いて気を引き、何とか隙をついて一機をパイルバンカー仕留めてみせた。フットボーラーの横っ腹に、満面の笑みで杭を突き刺してやった。


「……一機やったぞ」


 突き刺した杭が引っ込んだ後、ジョナサンは横を見ることなく12.7㎜機関銃で襲ってきたフットボーラーの頭を粉々にする。メインカメラとバランサーを壊され、フットボーラーは転がってしまった。

 ブースターをふかし、すぐさまそいつに杭を打ち込むジョナサン。

 爆音が轟いた後、またしてもフットボーラーの腹に杭を撃ち込む。そのはずみか、パイルバンカーの衝撃に耐えられず、左腕がもげてしまった。


「まずった! また腕が死にやがった」


 すぐにその場を離脱。

 右腕だけで残る2機をどう料理するか、凄まじい形相で考えあぐねているジョナサン。そんなジョナサンにメディックは話しかけられなかった。怖ろし過ぎて、何も言えなかった。敵を殺し、引き笑いする男に声をかけることは難しい。


「こちら、リンクス1だ。アトム隊の隊長、手こずっているようだなぁ?」


 そんな男へ、無線を入れる猛者がいた。


「あぁ! 仲間をやられたよ、クソッ!」


 またしてもジョナサンはコクピットの壁をぶっ叩いた。その音は無線向こうのリンクス1をゲラゲラ笑わせた。


「ちょうどいい場所にいる。キンタマの収まりがいい所にな」


 ジョナサンは無理やり笑顔を作る。それはとても歪な笑顔であった。


「あんたには借りがある」

「あんたに何かを貸した覚えはないぞ」

「い~や、あんたは俺らになけなしのフランカーを恵んでくれた。そのお礼にミサイルをプレゼントするぜ」


 ジョナサンは少し考えた。


「俺はいいから、目の前にいるであろう2機にやってくれ」

「へいよ!」


 リンクス1がミサイルリリースボタンを押す。


「お待ち!」


 途中、制空権を奪う仕事を終えたトルネード・リンクスが応援にやって来た。

 一本のミサイルは、敵のフットボーラーを木端微塵に破壊。

 それからリンクス1は残った方を機銃で、バラバラにしてやった。達磨になったそのフットボーラーは動けなくなった。


「どうよ?」

「最高だよ、あんた……」

「そいつはどーも。引き続き、制空権を奪うお仕事に戻る」

「がんばってくれ」

「まかせな。応援ありがとう!」


 ジョナサンはリンクス1の尾翼を目で追いかける。

 それから、改めてロボット兵器が戦闘機に勝てないことを悟るのであった。




 それから、20分も立たないうちにストーンヘッドの空は静かになった。

 まだ夜は明けていない。

 煙が立ち上り、その空は灰におおわれていた。夜空を照らす、星はなく。ただただ、広がる暗沌。

 まるでこの戦争の行く末を示しているようであった。

 地上の歩兵部隊がストーンヘッドの市庁舎を鎮圧した報を受け、ジョナサンはニコロプンテ基地へと帰っていく。


「悪いんだけど……あんたたちが壊したそれ、持って帰って欲しいってさ」

「誰が言ってた?」

「ガードナー准将から」

「へいへい……」


 ニコロプンテ基地の司令官の名前を聞いたジョナサンはため息をつく。


「おい、スタン。悪いけど、ぶっ壊したよくわからん人型重機を持って帰れとの命令だ。俺は腕が取れちまって……」


 と、奇策に仲間へ声をかけるのだが――。


「ジョナサン……スタンは――」


 だがしかし、スタンはそこにはいない。

 スタンが乗っていたシュバンツの残骸がそこにあるだけだった。

 歯を食いしばり、アルブレヒトへの憎しみを深くしていくジョナサン。スタンのパイルバンカーをひったくると、それを転がっていたフットボーラーに撃ちこんだ。

 何度も、何度も――。

 残った右腕が壊れるまで。

 言いつけられた仕事のことなど、頭になかった。メディックの生死の声を振り切って、この蛮行に明け暮れるのであった。

 曙光はまだ、訪れない。




 場面変わって、首都のサウス・ヘイブン。

 高級ホテルでハンニバルは電話をしていた。

 場所はいつものトイレ、電話の相手は実家。ハンニバル・インタストリー。


「すみません、お父さん。回収した断片的な戦闘データをもとに試作した4機の人型機動兵器のプロトタイプですが、すべて破壊されました」


 歩き回るハンニバルは顔を背けると、


「……申し訳ありません」


 電話向こうの男に謝った。

 そんなハンニバルへ電話向こうの父親はそっと語りかける。


「払った代償は大きい」ハンニバルは神妙な顔をして頷くと、「しかし、そのおかげで貴重なデータが取れました」


 父親は言った。

 その言葉を受け取り、ハンニバルに笑顔が戻る。


「……それには大変喜んでいると? それは良かった! 引き続き支援なさると?」


 ハンニバルは口を押さえて喜んだ。


「ありがとうございます」


 それから礼を述べ、


「では引き続き――はい、すべてはハンニバル・インダストリーの為に」


 父親と野望の続きを話すのであった。

 彼らは人型機動兵器の開発のために、サンタバルの内乱をハンニバルは利用していた。

 それを悟る者はいない。

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