Mission05_棺桶

 体……兵士たちは屈強な鉄の体を欲していた。

 何者にも屈しない、鋼鉄の巨躯を。

 裏切った同胞――憎むべき敵を殲滅すべく、一つ目の巨人たちを奪う。そうして、イストタウンの街を解放した。

 力を得た者たちはレジスタンスが占拠する首都サウス・ヘイブンを目指す。




 首都、サウス・ヘイブン。

 その夜、雨が降っていた。

 雨のせいで湿度がかなり高かくなっている。そのせいか、大統領官邸の執務室は非常に暑い。冷房が効かない訳ではない。この部屋の主である反乱軍のリーダー、アルブレヒト・シュタイナーがそれを嫌っていた。

 そのアルブレヒトはというと、檻の中の猛獣のように部屋の中をぐるぐる歩き回っていた。凄まじい形相で。そう、その顔は怒りに満ち溢れていた。


「クソッ! クソッ! クソッ!」


 アルブレヒトは不意に目に入った高級な置物を手の甲で薙いだ。ルネサンス期に作られた高級な壺が棚から落ちて割れてしまう。


「なぜ、我が軍は正規軍を粛清できないのだ! それどころか、最近は完全にやられてしまっている。これはどういうことだ」


 アルブレヒトは何度も何度も、堕ちた壺の破片を踏みつけ、それを砕く。

 獣には幾分もったいないくらい豪華な檻だと、この部屋にいる者は思った。その者――雅な長椅子に座るハンニバルは冷ややかな視線を送っている。地団太を踏む反乱軍のリーダーへ。


「正規軍をなぜ鎮圧できぬのだ! 正規軍はイストウィンチェスター州を完全に奪回してしまった。それと、麻薬カルテル『ペイン・オブ・スカー』のゴッドファーザーの暗殺が……なぜこうもうまくいかないのだ! なぜ3度もデマを掴まされている……」


 麻薬カルテル『ペイン・オブ・スカー』のゴッドファーザーの暗殺がうまく行っていないこと、正規軍にイストウィンチェスター州を完全に奪取されたことを受けて、アルブレヒトは赤鬼になっていた。

 イストウィンチェスター州はサンタバル共和国にあるすべて(全5州)の州の中でも一番、面積の広い州であった。東に位置するこの州はサンタバル共和国の国土の4分の1を奪還されてしまったことも起因している。

 アルブレヒトは思い通りに行かないと激しく激高する男だった。思い通りに行っている時は、常識人であるのだが。


「あいつはどこにいる!?」


 喚き散らす司令官。


「クソッ! クソッ! クソッ!」


 汚い言葉を粉々になった陶器にぶちまけると、すまし顔のハンニバルの方へ向いた。

 怒りの鉾が、ハンニバルへと向けられた。


「貴様! 何をのうのうとしているのだ!?」


 アルブレヒトは、ハンニバルへ怒鳴り散らす。男の口から、汚物が飛散する。唾をまき散らし、鼻水が飛んだ。それがかかり、ハンニバルのグレースーツに。これにハンニバルは眉をひそめた。


「お前らの作戦通りに動いているが、全然うまくいっていないぞ。それとどうして、カルテルのゴットファーザーの暗殺に失敗している? 役立たずめ!」


 ハンニバルはほんの一瞬だけ蔑むような目をアルブレヒトに向けると、すぐにしおらしい顔をした。


「も、申し訳ありません。閣下……」

「これはどういうことだ!?」


 もう一つほど年季の入った置物をひったくると、ハンニバルへ向けてそれを投げた。ハンニバルはとっさにそれを避けた。背中の方で鳴った陶器が割れる音。それを聞いてハンニバルはヒヤッとした。


「これはというのは?」それでも平静を装うハンニバル。

「貴様らの言う通りに進めていたら、一向に戦況が良くならん。むしろ、悪化の一途をたどっている」

「そうですが、信じて下さい。私たちを……これまでに幾度も戦争に介在してきました。その度に味方についた側を勝利へと導いてきた」


 信じてくれとハンニバルが言うと、アルブレヒトの表情がさらに険しくなった。


「そう言いながらも、幾度も失敗してきているだろう!?」


 アルブレヒトがさらに切れ、執務机を乱暴に叩く。

 毛むくじゃらのガタイのいい男が、暴れる様を見てハンニバルは思った。まるで暴れる霊長類のようだと。


「新兵器の実験をしてもかまわない。敵をせん滅してくれ」


 ハンニバルに掴み掛り、銃口を向ける。

 さすがのハンニバルでも、これには肝を冷やす。


「閣下、なにを――」


 ハンニバルが上ずった声で何かを言おうとした時、アルブレヒトは発砲した。

 吠える銃声、何事かと部下やボディガードがぞろぞろやってきた。


「何事ですか!?」


 アルブレヒトは満面の笑みを来訪者に向けた。


「……たいしたことではない。男と男の約束をしようとしているだけだ」


 ハンニバルの胸倉をつかみ、銃口を額に付けているアルブレヒト。その姿を見て、取り巻きたちは絶句した。


「早く出て行け!」


 吠えるゴリラに、あっけにとられる男たち。

 連邦の息がかかった協力者に対し、とんでもないことをしているリーダーに立ち尽くしていた。

 しかし、誰も何もできなかった。死にたくないから、する訳にはいかなかった。怒り心頭のアルブレヒトが何をするかわからない上に、止めようがないのだ。荒ぶるリーダーを止めようとして犠牲になった者も何人もいる。


「出て行け!」


 やって来た部下やボディガードはゾロゾロ出て行く。気が気ではない彼らは、何事もなくハンニバルがこの部屋から出て行くことを祈るのであった。


「約束だ。新兵器を使え、それで正規軍を殲滅しろ」


 その場で約束を取り付けようとするアルブレヒトに、ハンニバルは何とも言えぬ気持ちを抱いた。


「わかりました……」


 ハンニバルはひとまず了承すると、


「現在、軍で研究中の――人間を塩の柱にするソドミー・ウィルスというものがあります」


 たどたどしく説明を行った。


「それはどうなるものだ?」

「意識がありながら、動けなくなり――やがて死ぬ代物です。それを含む食品を含む輸送車を走らせて襲わせる――と言うのはどうでしょうか?」


 アルブレヒトは笑うと、銃をしまった。ホルスターにしっかりと入れると、間を見開いて、ハンニバルの目先で歯をむき出しにした。


「……それでいい。必ず成功させろ」

「しかし、条件が――」

「言え」

「私たちは用意をするだけです。それを使うのはあなただ」

「それでいい」アルブレヒトは顔を離すと、「さっさと用意しろ。正規軍の水道にそいつをブチ込んで皆殺しにしてやる」


 アルブレヒトがにっこり笑う。ハンニバルはその場で上官と連絡を取り、新兵器を使う約束を取り付けるのであった。

 ダメでもともとだったが、あっさりとOKが出た。


「それでいい。期待しているぞ」


 それから、ハンニバルは大統領官邸を出る。無事な姿を見てホッとした様子の取り巻き達を横目で見ながら、黒塗りの車で高級ホテルへと戻る。

 帰ってきてすぐにトイレへ籠ると、ハンニバルは頭を抱えて悩むのであった。

 2時間ほどこうべを垂れて便器に腰を落ち着けていると、妙案が浮かんだらしい。晴れやかな顔が上がった。ハンニバルは衛星携帯電話を取り出すと、正規軍に潜らせている諜報員に連絡を入れるのであった。


「もしもし、私だ。ソドミー・ウィルスの件だが――」


 ここでハンニバルは新兵器を投入した情報をあえて漏らす。

 実験したいことがあった。話に出てくるシュバンツとやらの対生物兵器性能を見極めるために。

 もはや男はサンタバルの戦場を兵器の実験場にしか見ていなかった。

 その手はずを整えるための指示を済ませるとハンニバルはため息をついた。


「たまったものではないな……怒りやすい君主というものは」


 ネクタイを緩め、胸板を晒すハンニバル。その白い首元には赤い痕が残っていた。

 アルブレヒトに付けられたそれはすぐに消えないだろう。

 雨はまだ止んでいない。

 サウス・ヘイブンの路面や屋根を穿ち、都市へ重苦しい雰囲気を投げ打つのであった。




 サース州、ニコロプンテ。

 緑豊かなこの地は農産業が豊かである。この肥えた土地には多くの田畑が存在し、その陰に麻薬カルテルが存在する。普通の畑の中に、ケシやアヘン。標高が高い所で、農家はコカを非合法に栽培していた。

 農家はやむを得なかった。なぜなら、普通の農作物では食いつないではいけないから。普通のものだけでは食いつないでいけないため、そうせざるを得なかった。

 そんな土地で、シュバンツを駆るジョナサン。

 短い夏の雨季が開け、カンカン照りの太陽の下。背の高いトウモロコシの青々とした樹海をかき分けて、とある場所を目指す。トウモロコシよりも頭一つ、シュバンツの方が背が高いが、環境追従迷彩により、一応それは巧みに隠された。

 今、ジョナサンが搭乗しているシュバンツは前のものとは違った。ブースターとスラスターが追加されており、フォルムが若干変わっていた。それでも、12.7㎜機関砲とパイルバンカーといった武器は変わりないが。

 新型シュバンツのコクピットの中にいるジョナサンの手足は機械で補てんされていた。しかし、右目はまだ包帯で覆い隠されている。


「昼から動くのは初めてなんじゃないかな?」

「そうね、ジョナサン」


 メディックとやり取りをするジョナサンは生き生きしていた。義手義足を得て動けるようになったからか。


「で、場所はあってんのか?」

「えぇ、そのまままっすぐ進んで。まっすぐ行ったら、敵の兵器が保管されている場所があるはずだから」

「へいへい、了解っと」


 諜報員がつかんだ情報をもとに敵の兵器が保管されている場所へ向かうジョナサン。

 今回はジョナサンだけの単独任務。正規軍が誇る特殊部隊のレッド・クーガーはサース州コロイド空軍基地を制圧中だ。トルネード・リンクスはというとサース州の地にて、SAMとスティンガーに怯えながら空対地任務を行っている。


「義手と義足の調子はどう?」

「快調、快調……結構いいな。あとは顔のケロイドを治して目ん玉を入れれば完璧だ」

「そうね。それにはしばらく時間がかかるわ」


 しばらく黙って走行するシュバンツ。

 畑から――今、整地されたところに出た。アスファルトが敷かれてあるところではない。茶色の地面だ。人はそこを道路と呼び、車が行き交う場所である。そこに出ると、シュバンツの環境追従迷彩が変化して、元の灰色のボディを取り戻した。

 シュバンツの背には先ほど走っていた畑が一面に広がっており、目の前には背の高い針葉樹が立ち並び、行く手を阻んでいた。

 シュバンツはうっそうとした森へと入る。それから、木々の間を時速50キロで軽やかに走るのであった。

 しばらく走っていると、9時方向に工場らしき建物が現れた。


「そろそろ到着しそうだ」

「そうね」

「で、聞きたいことがあるんだが――」

「何?」

「この新型のことだよ。訓練は一通りしてはいるが、まだ慣れちゃいないんでね。色々と聞きたいことがある」


 と、言いつつもジョナサンはシュバンツを乗りこなしていた。


「へぇ~あなたにしては殊勝ね」

「やかましい」ジョナサンは鼻を鳴らすと、「しかし、何で――こっちに? せいぜい30分ほどしか浮いていられないってのに。それもゆっくりと沈んでいく感じ。ま、地面すれすれを飛ぶのは結構速いが……」

「それはあんたが無反動砲に撃たれまくったせいよ。太平洋で建設中の軌道エレベーターに使われているドワーフにしたのは。ついているブースターやらスラスターは高所からの落下を軽減するためのもの。それを戦闘に利用しているだけだから」


 ひと月前に襲撃したイストタウンの工場だが、軌道エレベーター建設に使われている人型重機を生産する工場であった。

 これは偶然という訳ではない。

 度重なる戦闘で蓄積されたデータを読み取り、機動力に欠けていると判断した大統領はそれをどうやって早急に補うかを考えた。与えられた時間の中で何とか、頭を捻る。そして、軌道エレベーター建設で使用されている推進器を持った人型重機なら機動力不足を補えると考え、大統領はそこを襲わせた。

 推進器が使用できる時間は少ないが、軌道エレベーター建設用人型重機は最大時速300kmで地表を移動することができる。なおかつ、推進器の出力制御を少しいじることで瞬間的にブーストすることが可能となった。そのおかげで、被弾率はかなり下がった。

 おまけに、急な事故などで落下した時に自動的に対処するために、人工頭脳が搭載されていた。その人工頭脳を改編し、大統領が開発した新型のBMIを乗せてみた所、負荷が80パーセント以上も下げられた。戦闘モードになる度、パイロットが悶絶したり、後遺症に苦しめられたりすることは無くなった。


「……俺の仕事は工場を守っている連中の殲滅でいいか?」

「それでいいわ、ジョナサン」メディックは鼻をすすると、「行ったら、敵をみーんな殲滅して、さっさと終わらせて」

「了解した。最後に――」

「何?」

「戦闘モードのことだ。新しいBMIについてだが――」

「あぁ、それね。かしこまらないで頂戴。前と同じくらいの反応速度を出せるわよ。なおかつ、負荷は前よりもかなり減ったはずよ」

「人工知能ってやつのおかげか」

「細かいことは知らないけど、そうらしいわ」


 大きな工場を守っているPMCの兵士たちを発見するジョナサン。レーダーにはっきりと赤い点が映っていた。レーダーに関しては、軌道エレベーター建設用もそうでないものとも性能は変わりない。


「それじゃ、ちょっとやってくる」

「気を付けてね。何かあったら、言って頂戴」

「はいよ」


 ジョナサンは戦闘モードを起動し、シュバンツのブースターをふかす。足と腰についている孔から火が噴き出し、機体が宙に浮いた。それから、ホバリングした状態でシュバンツは工場へと突っ込んでいった。


「……結構クルな、Gとかいうやつが」


 まずは門にいる敵を一掃する。12.7㎜機関砲を構え、引き金を引くと2人の門番がミンチになる。


「さて、これで騒がしくなるかな?」


 門を軽々飛び越すと、工場内をうろついていた連中が一斉にシュバンツの方を向いた。それから一生懸命に豆鉄砲を撃ってきた。


「トラックだけは撃たないでよ、ジョナサン」

「何があるかわからないからか?」

「そ、生物兵器の可能性があるからね」

「なるほど、善処する」


 メディックとの会話をしながら、ジョナサンは着々と敵を排除して行く。射撃ソフトウェアに手伝ってもらいつつ、的確に一人一人弾丸を撃ちこんでいく。


「反応は全部で13、無反動砲やRPGに気を付けて」

「わかった」ジョナサンは息を吐くと、「弾食らって脱糞するのはもう嫌だからな」

「それについては安心して、もうそういうことは起こらないから」

「そーかい」


 まずは工場の大きな建屋の角から出てきた3人を対処。

 続いて、シュバンツの背後から無反動砲を向けてきた兵士がいた。ジョナサンはそれに気づくと、すかさず後ろを向いて飛んでくるロケット弾を打ち落とすという芸当を見せる。それから、間髪入れることなくHEAT弾を撃ち逃げようとしたその兵士を排除。

 続いて、9時方向に工場のキャットウォークから撃っている4人の兵士。内、二人がスナイパーだったが造作もない。

 その4人を始末した時、宙を舞うシュバンツに12.7㎜機銃で対抗する兵士が1人。

 その兵士がいる土嚢の中から、アサルトライフルを必死に撃って来る兵士3人。これもシュバンツの敵ではなかった。プラスチック爆弾で無理やりつくったハンドグレネードを中に投げて、終わらせた。

 シュバンツは、大きな工場を守っているPMCの兵士たちをせん滅。

 それも、あっという間にだ。


「メディック、そういえば――生体反応が13って言っていたよな?」

「えぇ、そうよ」

「機動力が高くなったおかげか、あっという間に12人を仕留められた。あとは、工場内にいる1人をとっちめてやるだけだ」


 息を吐くジョナサン。


「そう。やるじゃない?」メディックは鼻をすする音をさせると、「気を付けてよ、ジョナサン」

「狭い所だからか?」

「狭い所、だからよ」


 理由としては狭い所ではブースターを使用できない。壁にぶつかって、フレームが歪んでしまうとパイロットは自力でシュバンツから降りれなくなるためである。

 生体反応がある工場の建屋へと向かうジョナサン。

 ひとまず、外側から12.7㎜弾をぶつけてみるも、反応がなかった。


「堅い壁だな。中に入らないとダメか?」


 シュバンツ、工場内へ。

 大きなシャッターを開け、工場の中に入る。

 工場だと聞いていたのだが、そこにはコンテナが一つ。広い空間に長い赤茶色の箱が転がっているだけであった。


「ジョナサン、どうしたの?」


 閑散としている。気味が悪い。

 工場よりも倉庫だと、ジョナサンは思ったが――。


「どうもしない。ただ、嫌な臭いがプンプンしやがる」

「あなたを道ずれにしようと敵が考えているかもしれないわね。こちらで捜査して宇宙でも動けるモードに移行するわ」


 メディックの声のトーンがいつもよりも少し落ちていた。

 そのコンテナからジョナサンは目を離せなくなったが、無理やり引きはがして周囲を確認する。固いつばを飲み込むジョナサンの顔は緊張で引き締められていた。


「なんだそりゃ?」

「空気が無くても大丈夫な状態にするってこと」


 二分後に、モードが切り替わる。

 ジョナサンが見ているモニターの左上にウィンドウが表示された。その中には3本のバーがあり、何かの残量を示していた。


「これでよしっと」

「何だこれ? 変なウィンドウが出てきたぞ?」

「一応、これで宇宙空間でも空気が無くて困ることはないわ」

「宇宙空間?」

「詳しくは知らないけど、これ、宇宙飛行士とかが使っているんですって。あなたが乗っているのはそれなの」


 軌道エレベーターの建設だけに使われている訳ではない。宇宙ステーションの建造にもこの人型重機の需要はあった。ゆえにこのモードが搭載されていた。


「宇宙専用のやつを地球の上で使っていると言うことか」

「そういうこと」

「予備機はあるのか?」

「今って、先進国が軌道エレベーターを造るのに躍起になっているでしょ? だから、たくさんある訳よ。ついでに言えば、前に襲った工場がまさにそれだったのよ。宇宙仕様のドワーフを大量生産していたの」


 ジョナサンはそっと息を吐くと、


「なるほど――しかし、敵は見当たらないようだが?」


 敵を探すが見当たらない。シュバンツは銃を構え、しきりに周囲を警戒しているが敵はどこにもいない。レーダーの方にもその姿は見えない。


「いない? なら、作業をして」

「わかった」


 ひとまず、メディックの言う通り作業を行うことに。コンテナへ向かい、ぐるっと一周回ってみる。

 すると、


「メディック、あったぞ」


 裏側に生物兵器であることを示すあの毒々しいマークが主張していた。ジョナサンは敵の生物兵器が入っているであろうコンテナを発見した。


「まごうことなき、バイオハザードのマークだ」

「どれ、あ~ビンゴね」


 メディックもシュバンツのメインカメラを介して、それを確認する。


「こいつを処分してくれる連中に、連絡を入れてくれ。俺じゃ、どうにもならん」

「了解。そっちに処理班を向かわせるわ」


 生物兵器のコンテナを見つけ、危険物を処理する特殊部隊を呼ぼうとした時だった。

 急に入り口が閉まってしまう。


「メディック、シャッターが閉められた!」

「えっ、何?」


 ジョナサンは閉じ込められてしまった。

 危険を感じたジョナサンはコンテナからブーストして慌てて離れる。壁に空いた手を付けたその瞬間、コンテナが爆ぜた。


「クソッ! 爆発しやがった!?」


 コクピット内にアラートが鳴り響く。

 すぐさまダメージをチェックすると特に問題はなかった。


「ジョナサン、上!」


 一人の兵士がシュバンツにRPGを向ける。そして、それを発射するが、間一髪のところでジョナサンは避けた。

 すぐさま12.7㎜機関砲で応じようとしたのだが、あろうことか弾が詰まってしまう。

 何度も引き金を引いても、うんともすんとも言わなくなってしまった。


「クッソ! ジャムった」


 ジョナサンが叫んだ時、男がキャットウォークを走る。


「この野郎!」


 と、ジョナサンが叫んだ時であった。

 男が倒れ、苦しみ始めた。


「あっ、なんだ? 急に――」

「何!? 何なの?」

「よくわからんが、男が急に苦しみ出した」

「えっ?」


 メディックが驚嘆の声を上げた時、水揚げされた魚のように激しくのた打ち回っていた男がピクリとも動かなくなった。


「あっ、動かなくなった」と、メディック。

「敵はこれで全員やったはずだ。しかし――出れなくなっちまった」頭を抱えるジョナサン。

「待って……じょ……――」


 急にノイズが発生し、無線が通じなくなる。

 ジョナサンは慌てて機器をいじるが、どうにもならない。


「あ~ヤバいな」


 頭をかきあげフケを飛ばすと、ジョナサンはマニュアルを引っ張り出した。それをまじまじと見ていると、仮死薬についての記述があった。

 マニュアルの手順通り、操作を行うジョナサン。操作を行うと、注射器とクスリの入った箱が出てきた。コクピットの壁面からパカッと。

 ジョナサンは箱を開け、注射器を取り出す。

 ピストル型の注射器を神妙な顔をして、まじまじ見る。ジョナサンの顔はこわばっていた。針先に恐怖症を抱いていたからか。


「……仮死薬を使うか」


 それを右腕に刺すと、撃ちこみ、ジョナサンはまどろみに落ちた。

 このシュバンツの元機は元々連邦の航空宇宙局に出荷される手前だった。だから、こんなものが備え付けられていた。




 ジョナサンが目を開けた時、そこは工場の外。

 人――いや、アイドリングしているディーゼルの排気口から出る、むせるような臭いがジョナサンの鼻についた。

 目の前はメディックの顔で覆いかぶされていた。メディックの顔は妻とは違う整った顔をしていた。覗き込む顔は不安にみちていたが、可愛らしい顔をしているなと、まじまじと見てジョナサンは思った。


「ごめんな、メディック。心配かけた」


 ひとまず謝るジョナサン。


「ううん」メディックは頭を振ると、「あなたが無事で良かったわ」


 ジョナサンは体を起こそうとするが、うまく行かなかった。


「……すまん、うごけん」

「そうでしょうね。今、蘇生薬を打って起こしたばっかりだから」


 ジョナサンが申し訳なさそうに笑うと、メディックは口の端を緩ませた。


「ところで今は――」

「あなたが閉じ込められてから、4日経ったわ。今は堅いアスファルトの上よ」

「そんなにか?」ジョナサンは目を見開くと、「で、苦しんでいた男はどうなった?」


 メディックが顔を背ける。

 視界の端に、白い空が広がっていた。サウス・ヘイブンに繋がっているであろう、薄い雲で一面覆われた空が。

 ジョナサンは郷愁に駆られた。


「あなたはシュバンツの中に居たから問題ないとは思う。けど、あの人は塩の柱になっていた」

「はぁ?」

「体の組織が全て塩素になっていた。あのバイオハザードマークのついたコンテナにね。爆発させて、それを拡散するものみたいよ。で、さっき調べた所――減衰したみたいね。もうその影響はないわ」

「……そうか」ジョナサンははにかみ、肩をすくめると、「それでも心配だな」

「大丈夫よ、簡易検査の結果ではあなたは陰性」

「それでも心配だ。帰ったらでっかいやつで調べてくれ」

「了解」


 それから、二人は病院へと向かった。

 正規軍の手に取り戻したサース州で一番大きき病院で検査を受けるも、ジョナサンは特に問題はなかった。

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