Mission03_陽動

 我が家へ帰るために、男は自ら死地へと向かう。

 押し寄せる地虫たちに杭を打ち、向かう兵士の肉を挽く。

 そうして得た勝利は、男をさらなる地獄へといざなう。




 サンタバル共和国陸軍――正規軍の兵士であるジョナサンは夢を見ていた。

 その夢は家族と食事をするという、平和的なものであった。

 エルドラド州、首都サウス・ヘイブンの郊外。そこにジョナサン一家は暮らしている。

 大きな庭の一軒家。庭先にはテーブルとベンチがあり、そこでジョナサンは妻と二人の娘と昼食を取っていた。

 夢の中のジョナサンは物々しい迷彩服などではなく、普通の服をめしていた。戦闘で失ってしまった右目、右足、左腕は存在しており、何だか妙な感覚をジョナサンは味わっているのであった。

 かといって、自分のことばかり気を取られている訳ではなかった。

 ジョナサンは自分の妻を見ていた。

 妻の名前はニーナ。ニーナの容姿は黒髪長髪の褐色肌。

 ジョナサンは彼女の髪が好きだった。好きなものはそれだけではなかったが、ニーナの絹のような長い髪が好きで抱きしめた時にはよくそれを撫でていた。

 ぼんやり見ていたら、


「お父さん」


 次女のナオミに声を掛けられる。


「……お父さん、お父さん!」


 何度も、何度も――。

 ナオミはどことなくジョナサンの顔によく似ている14歳の少女だ。特に眼元がジョナサンにそっくりだった。

 ジョナサンはナオミに顔を向け、頬を緩ませる。

 家に帰るとジョナサンはボーっとしていることが多い。こういうことはよくあった。その度にジョナサンはすっとぼけるか、ヘラヘラしていた。


「あぁ、ごめん――何の話をしてたっけ?」


 長女のキリエに笑われるジョナサン。

 キリエはニーナに似ていた。ニーナは美人だったから、将来は母親そっくりの美人になるとジョナサンはそう思っている。そのことをニーナに話をしたところ、しばらく口を利いてもらえなくなった。そういうことがあった。それを思いだしていた。

 無視されていたことが気に入らなく、ナオミはムッとした。

 頬を膨らませるのをみて、ジョナサンはしまったという顔をする。


「そんな顔しないで、ジョナサン」

「もう一回、聞けばいいじゃない?」


 ニーナとキリエに促され、ジョナサンは困ったように笑った。


「いや、もう一度聞くのはナオミに悪いよ」

「悪いと思うんだったら何で聞いてないの?」


 眉間にしわ寄せナオミは腕を組む。

 ジョナサンはやってしまったと思った後、うつむいた。大きな丸皿に納まっているチキンステーキ、それを見てジョナサンは違和感を覚えた。右手にはナイフ、左手にはフォーク……夢の中の自分が五体満足だからか。


「ごめん……」


 謝った後、ジョナサンはチキンを切る。それから、切れ端を左手にあるフォークで突き刺して、口へ入れ――それを咀嚼する。

 妻の料理はいつものことながら美味しかった。夢の中だからか味は感じられなかったが、ニーナの嬉しそうな表情を見てそうジョナサンは判断した。

 仕事で家をよく空けるジョナサンは妻に声をかける。


「これ、かなりうまいなぁ」


 妻の笑顔を見た後、ナオミに申し訳なさそうにジョナサンは話しかける。


「ごめんな、ナオミ――」


 ジョナサンは、ナオミへ何の話をしていたのかを聞こうとした。

 だがしかし、そこで哀しくも夢は醒めてしまう。




 ジョナサンは医療テントで目覚めてしまう。家族のだんらんが夢であったことに気付いた後、血の臭いで思わず顔をしかめた。夢ならそのまま醒めないで欲しいで欲しいと、切に願うのであった。

 それから、左腕と右足を――あとは穴ぼこになって、ぬめっている右目の辺りを指でなぞり、体の一部が欠けていることに気付かされ、落胆するのであった。

 そんなジョナサンのそばには、メディックがいた。

 緑の手術衣に、大きなマスク。彼女は血がべとべとについた薄いゴム手袋をゴミ箱に放ると、ポケットから新しいものを取り出し、それを付けてジョナサンの方へやって来た。

 ジョナサンの側には、自分と同じように怪我をしている者たちが横たわっている。

 そいつらの死臭というか血の臭いを嗅ぎつけてか、ハエがたくさん集っていた。耳元を行ったり来たりを繰り返す、その羽音を晴らすハエに不快感を覚えるジョナサンであった。煩わしくて、本当にたまらなかった。

 メディックは、ジョナサンが意識を取り戻したことに気付くとホッとしたようだった。心停止とまではいかなかったが、結構危険な状態に陥っていた。一時はどうなることかと思われていたのだが、ジョナサンは何とか生き返った。


「ジョナサンさん、気分は?」

「……最悪だ。いい夢を見ていたのに」

「夢というのは?」


 ジョナサンは長い息を吐いた。残された眼は焦点が絞れておらず、やや黄ばんだ白目の中で黒目がわずかにわなないていた。


「サウス・ヘイブンに家があってね。家族で、庭で昼食をとっている夢を見ていた。とても楽しい夢だったよ」


 こう言ったジョナサンの表情は虚ろであった。


「……そうですか」


 メディックは何とも言えない顔をした。

 サウス・ヘイブン――ジョナサンと同じようにメディックの家族もそこにいた。恋人もいる。

 しかし、それは昔の話だ。

 恋人は存在するが、メディックの家族はもういない。反乱軍の弾丸によって永遠に会うことはままならない。恋人については――どうなっているか、わからない状況にあった。

 気まずい感じになり、沈黙する二人。

 その間、深く傷ついた兵士のうめき声が生々しく耳についた。


「あぁ、よかった……ジョナサン君」


 テントに180センチ、褐色肌のモヒカンの男がやって来た。この壮年の男は反乱軍に追われているサンタバル共和国の大統領。


「一時はどうなることかと思ったけど……目覚めはどうだい?」

「ま、まだ少し頭が痛みます」

「そうかい」


 その男が公務の合間を縫って、ジョナサンの見舞いにやって来た。

 メディックとジョナサンは慌てふためく。


「起きたばかりで申し訳ないけど。君に改めて聞きたいことがある。いいかな?」


 大統領は時間がシビアな状況に陥っている。すぐにジョナサンへ本題を切り出した。


「はい、構いません」

「副大統領を守ってくれてありがとう。君のおかげで、外側からのパイプは何とかなりそうだ。副大統領には、合衆国に猜疑心を抱いている周辺諸国から支援を取り付けてもらいたいものだ」

「いえ……」

 

謙遜するジョナサン。

 笑うのだが、顔右半分が酷い状態になっているからか、とても無気味であった。


「君はどうしてここに来たのか、それはさっき聞いたからいいか。首都にいる家族のもとに帰るため、でいいかな?」


 ぎこちない笑顔を浮かべ、大統領は質問した。一国の大統領と親しげに話をしているジョナサンに目を丸くしているメディックへ、顔を向ける。


「メディック、彼はどれくらい休まなければいけない?」

「そうですね、1週間以上は必要かと。そもそも戦うためには義肢義足が必要です。また、顔の孔がかなり酷い……顔の一部がただれ、ケロイドを発症しています。バイオニック・アイを入れるのであれば早急に手当てをした方がいいかと……」


 ここでふと、メディックは気になった。歩くこともままならない状態のジョナサンがどうやってここにやって来たのか。


「あなた、どうやってここまで?」

「副大統領からもらったシュバンツを使った」

「シュバンツ?」

「歩くテクニカルだよ。人型重機に、12.7㎜機関砲と岩盤破砕用パイルバンカーを持たせたもんだ」


 首をかしげるメディックにジョナサンは説明した。水橋重工で作られている人型重機に武器を持たせたものだと。


「外で野ざらしになっているのは水橋重工のドワーフでは? あれに対空機銃を持たせただけではないのですか?」


 しかし、それでは伝わらなかった。

 このキャンプに置いてある4機の人型重機は水橋重工のドワーフにしか見えない。


「日本の人型重機ドワーフを戦闘用に改造したものだ。突貫で私がやった」


 代わりに簡潔に大統領が説明をすると、メディックは納得した――と、思いきや、冗談だと思った。大統領が人型重機を改造するなどと、思っていなかったから。


「大統領が? 信じられません」


 肩をすくめるメディックに大統領は難色を示す。メディックの目が冗談でしょう? と訴えていたから。

 確かに大統領は公務で忙しいが、空いた時間を利用してBMIの研究を行っている。

 これが、大統領のささやかな趣味。

 なぜこんなことができるのか? なぜなら、大統領は――。


「こう見えて、日本でロボット工学を学んだことがあってね。ロボットが大好きなんだ。特に日本のロボットがね……」


 大統領は元々孤児であったが、12歳の時にリゾート関係の仕事をしている裕福な家庭に引き取られた。サンタバル共和国の高校を卒業した後、マサチューセッツ工科大学に入学し、人工知能について学んでいた。また、卒業後には日本の東京大学に入学し、ロボット工学を専攻していた。

 ちなみに日本のロボットが好きな理由としては、孤児院で見ていた日本のロボットアニメが大好きだったからである。


「えっ? ウソ……」


 その過去を話すと、メディックは口を手で隠した。元々、大きなマスクで隠されていたのだが。


「ウソじゃない。本当のことさ。失敬だなぁ」

「す、すみません」


 ばつ悪そうにしているメディックに、大統領はニコッとする。それを見て、メディックは少しほっとした。


「改造したとは言っても、アレに射撃補正のソフトウェアを付け加えただけだよ。もっとも――あれには……」


 言いよどむ大統領。

 研究の末に、自分が開発したBMIについては言わなかった。ジョナサンが乗っていたシュバンツに自分が趣味で作成したソフトウェアを追加していることについては。


「話を戻そう。ジョナサン、君には休暇が必要だ。けれども、今は君を休ませるわけにはいかない。早急に手を打たなければならない」

「ですが――」


 ジョナサンには休養が必要だった。

 それをメディックが伝えようとした時、ジョナサンが口を開いた。


「なにをすればよろしいので?」

「カロライナー空軍基地を奪取するその手伝いをしてもらいたい。作戦は1時間後に、ブリーフィングで詳しく。ここではざっと言おう。君は特殊部隊の支援をしてもらいたい」

「支援? それはどんなものですか?」


 ジョナサンと大統領は淡々とやりとりをしていく。

 それにメディックはついて行けなかった。


「陽動だ」

「何の陽動を? 何をするために?」


 この質問をした後、ジョナサンは手の甲で額を拭う。 


「基地の奪取だ。我々は早急にカロライナー基地を奪取する必要がある」

「なぜ?」

「我々は兵站を確保しないといけない。あそこの基地の倉庫にはたんまりと食料と弾薬がある。また、カロライナー空軍基地にはSu-27が16機配備されている。それを操ることができるパイロットたちに、飛行機を割り当てたい」


 Su-27、西側の高性能戦闘機と聞いて、ジョナサンはサンタバル共和国空軍が誇る、とあるエリート航空部隊のエンブレムを思い出した。嵐を呼ぶ山猫のエンブレム、共和国空軍第101戦術戦闘飛行隊――。


「トルネード・リンクスですか?」

「そのとおりだ。ジョナサン」大統領は聡明なジョナサンに微笑みを讃えると、「私は忙しい、そろそろ行かねば……起きている君に会えて良かったよ」


 大統領は忙しい、早歩きでテントから去らなければいけなかった。

 その前に、メディックに大統領は向き直る。唇をかみしめると、小さく二度ほど頷いてみせた。


「メディック。彼を頼む」


 それだけ言うと、大統領は二人に――いや、ここに居る兵士たちに背を向けた。そこに居た傷ついた兵士たちがちらほら大統領に手を伸ばす動作を行う。それを察知してか、大統領の足取りは安定していなかった。

 大統領を見送った後、メディックはジョナサンの様子がおかしいことに気付いた。顔に玉のような汗が流れていることに気付いて。


「肩で息をしているようですが、大丈夫ですか?」

「ちょっとね……コカはないかい?」

「モルヒネなら」


 ジョナサンがそれをもの欲しそうに見ると、メディックの目が険しくなった。


「ダメですよ、あれを使うと頭がボーっとするわ。1時間後にブリーフィングがあるのでしょう? ちょっと我慢なさい」


 ジョナサン唸る。


「ものすごく痛いんだよ。少しだけでいい。君は医者だろ、1時間だけ痛みを引くようにできないのか?」

「私は麻酔医じゃありません。外科医です。そっちは専門外、門外漢」

「門外漢? あんたは男なのか?」


 軽口をたたくと、メディックは無理やりジョナサンを寝かせた。


「見ての通り、女よ。失礼な人ね」

「……ヤクをくれないんならどっか行け、アバズレ」


 メディックに顔を背け、暴言を吐き捨てるジョナサン。


「そうしたいところだけど、生憎、大統領にあなたのことを頼まれたのよ。そういう訳にはいかないわ」

「……そうかい、好きにしてくれ」

 医者は強かった。

 それから40分後、ジョナサンは這ってブリーフィングに行こうとしたのだが、メディックにそれを発見され、車いす乗せられてジョナサンは何とも言えない顔をしてカロライナー空軍基地を奪取するブリーフィングへ参加することに。

 ついでにメディックも。

 そこで、メディックはとんでもないことを司令官に告げられるのであった。




 ブリーフィングから2日後。

 新月の夜闇に包まれるカロライナー高原にて、基地を奪取する作戦は決行される。

 カロライナー空軍基地は標高2000メートルの高地にあり、空気は薄い。乾燥した盆地状の高原は至る所に火山が作った巨石が転がっている。3.2メートルの背丈でずんぐりとしたシュバンツを隠すのにはちょうどいい大きさの岩が遠間隔に転がっていた。

 基地から500m離れた場所。ジョナサンが駆るシュバンツは、大きな岩の影に身を隠して息を潜めている。

 現在時刻は0257であった。


「マップデータの調子は?」

「なかなかいい。かなり正確だ」


 ジョナサンは画面右上のマップを見て、メディックへこう答えた。

 その後、ため息をついた。


「しかし、何で医者のあんたがオペレータをやっている?」

「人手不足らしいわ。よくわかんないけどね」

「なるほど」ジョナサンは苦笑いすると、「そっちは門外漢じゃないのな。医者も不足しているって聞いたぞ、麻酔医やれよ」


 ジョナサンに痛いところを指摘され、メディックは唸る。ジョナサンの言う通り、オペレータは門外漢である。しかし、司令官の一存によりメディックはジョナサンの戦闘のサポートを命じられた。これには逆らえない。自分より適任はいるはずだと訴えたのだが、人員不足だと一蹴された。

 痛い所をジョナサンに突かれた後、メディックは何も言わなくなった。


「ブリーフィングの内容はわかってる?」怒り口調のメディック。

「……もちろん」ジョナサンは肩をすくめた。

「0300になったら、引き金を引いて敵を翻弄して」

「そしたら他の連中が一斉にやってくるんだろう? わかってる」


 しばらく沈黙するジョナサンとメディック。

 作戦開始時間になるまでの3分間は、とてつもなく長く感じられた。なかなか変わらない時刻に目をチラチラとジョナサンはやっていた。

 そうして、やっとその時が訪れた。


「そろそろ時間だ。はじめよう。他の連中に合図を出してくれ」


 ジョナサンは言った。

 これより、作戦が開始される。


「了解」メディックは特殊部隊に無線を入れると、「こっちの準備はいいわよ! レッド・クーガーのあんちゃんたち!」

「こちら、共和国陸軍第501特殊作戦群レッド・クーガー。その隊長だ。……名前は明かせん。とにかく派手にやってくれ。私たちは手早く仕事を済ませる。コールサインはレッド5だ」


 特殊部隊の隊長がメディックの呼びかけに丁寧に答えた。


「こちら――えぇっと、共和国陸軍人型重機特殊戦術戦闘部隊サイクロプス。共和国陸軍人型重機特殊戦術戦闘部隊サイクロプスから、レッド5へ……了解した。こちらのコールサインは……そうだな、シュバンツ1で頼む」


 シュバンツと聞いてレッド5は鼻で笑った。シュバンツ、その単語が何を意味しているのかを知っていたから。知らぬ者たちは眉をひそめた。


「……ドイツ語でチンコか。卑猥だな」


 レッド5にシュバンツの意味が陰茎と聞かされ、メディックは少し感心していた。


「大統領も下品な所があるのね」


 ジョナサンはというと肩を小刻みに揺らし、はにかんでいた。


「俺は気にいった。シュバンツって名前をな。あんたたちの為にチンコ野郎がラッパを吹いてやる。ようぅく聞いとけ」

「期待している」


 レッド5の言葉を聞いた後、ジョナサンはシュバンツを戦闘モードへ移行した。いつもの耐えがたいような頭痛のち、


「それじゃ、がっぷりよつといこう」


 闇討ちを敢行、0300に作戦行動を開始する。

 空軍基地内に、ジョナサンは12.7㎜機関砲の銃口を向ける。それから、まずは基地内を見回っている兵士を撃つ。その兵士は弾丸を受け、ただの肉塊と化した。

 銃声が響き渡ると、サイレンが基地内にけたたましく響き渡る。


「ジョナサン、レッド5が作戦行動を開始したわ。そのまま続けて!」

「あいよ、メディック。俺一人でどこまでやれるかわからんが、やれるところまでやるさ」

「その意気よ」


 基地が警戒態勢に入りちょっと経ってから、敵が銃声を立てて騒ぎ始めた。

 ちょうどその頃、


「こちらレッド5、基地へ侵入した。これより、チームCがヘリとフランカーを押さえる。Aは基地司令官を始末する。チームBは基地の防衛設備を片付ける」


 特殊部隊3チームが行動を開始した。裏口の扉を壊し、侵入。チームABは基地の司令官の元へ、チームCは格納庫へと向かった。

 外敵から基地を守るため、照明弾が空高く上がる。

 彼らはシュバンツを探していた。こっそり入って来た特殊部隊に気付かず。ジョナサンへと迫撃砲を撃ってきた。


「迫撃砲がやっかいね。何とかならない?」

「ならん」

「そっちはレッド5のチームBが対応するって言っていたろ? 俺は基地をぐるぐる回って、敵さんの迫撃砲や無反動砲を避けるのでいっぱいいっぱいだ」


 ジョナサンは基地防衛隊や迫撃砲へ12.7㎜機関砲を射かける。迫撃砲の弾薬を運ぶ連中を見つけ、そいつらに12.7㎜弾を見舞うと大きな火の手が上がった。


「やりぃ!」

「喜ぶのはまだ早いぞ、メディック」


 こうメディックに忠告すると、ジョナサンは飛んできた無反動砲を間一髪で避ける。

 それからさらに、ジョナサンは続ける。


「ちゃんとレッド5の動きを見とけ。あの陰気な隊長率いる仲間たちを誤って撃って、恨まれたくはない」


 ブリーフィングにいた無精髭の生えた気難しそうな男。それが、レッド5を率いている隊長であった。いつも眉間に縦筋が入っている鬼のような男の顔を思い浮かべるとメディックはぞっとした。


「……そ、それもそうね。不慣れだけど、頑張らせてもらうわ」


 3.2mの巨体が飛んでくるRPGをかわすその姿は基地の守備隊を恐怖させた。

 この隙に、チームCは仕事をする。


「こちら、レッド5。ヘリと戦闘機は抑えた」


 戦闘開始から30分、特殊部隊Cチームはのパイロットを排除。

 その間、特殊部隊Aは管制塔を目指す。

 Bはというと、Cの援護をしつつ、迫撃砲の排除にかかっていた。前よりも迫撃砲を撃ってくる頻度は少なくなる。

 ジョナサンは兵士たちと夜戦を敢行する。

 巨岩から巨岩へと、身を移して迫撃砲や無反動砲の攻撃をかわす。それから12.7㎜機関砲を撃つ――というワンパターン。敵もジョナサンの手の内を読むようになり、的確に撃ってくるようになった。


「うぉ!?」


 1発目を避けた後、銃を持っている右腕にHEAT弾が直撃し、バランスを崩して倒れ込んでしまうシュバンツ。


「ジョナサン!」


 メディックの金切り声。

 頭を強く打って、気を失いかけるが――。


「だぁぁぁぁああああああああああああ!」


 ジョナサンは大統領が開発したBMIによって強制的に起される。このBMIは、従来のものよりも負荷が高い。この理由としては、脳に直接つないでシュバンツを動かしているということが大きい。

 被弾により、脳に入れる情報量が増えたためジョナサンは急に苦しむ。

 体をのけぞらせ、目を見開いて叫ぶジョナサン。狭いコクピットでヘッドバンキングを行い、モニタを頭で割った。


「あ~クソ! 気持ちよく眠れると思ったのに」


 涎を垂れ流し、涙がボロボロこぼれた。また小便と大便を一緒に漏らしてしまう。それから、血の混じった鼻水があふれ出す。


「クソッ! クソッ! あ~もう、最悪だ。この野郎!」


 シュバンツの操縦桿を叩きまくる、ジョナサン。すぐさま機体を起そうとした時、またしても無反動砲が直撃する。

 機体がへこみ、両足がぶっ飛んだ。

 脳みそをかち割られる感覚に、ジョナサンは自分を見失う。


「ジョナサン! ジョナサン!」


 必死なメディックの呼びかけに、


「あ――っはっはっはっはっは……」


 ジョナサンは狂ったように笑った。

 もう訳が分からない状態であった。走馬灯が見えていたし、耐えがたい激痛により発狂寸前に追い込まれていた。

 しかし、ジョナサンはなんとか持ち直すのであった。

 家に帰る、家族に会う、という強い意志によって。


「ちょっと! あんた、本当に大丈夫なの!?」

「……死ぬかと思った」


 頭がもうろうとするジョナサンであったが、何とか正気に戻った。

 これ以上、シュバンツにいたぶられたら、危険だと思ったジョナサンは戦闘モードを解除する。


「あんた! 何やってんの、戦闘中でしょ!? 気は確か?」

「はっはっは……気が狂ってねェと戦争なんてできねぇよ!」


 左のハンガーユニットから吊るしていた12.7㎜機関砲を取り出す。


「機関砲は無事そうだな。軸が歪んでいないのが奇跡だ」


 それは無事であった。

 そのまま、基地に向けて12.7㎜機関砲を撃ち続ける。シュバンツがその場から動けなくなっても、ジョナサンは仕事を続けるのであった。基地を奪取するための陽動という、与えられた役割を果たすために。

 しばらくしたら、レッド5から連絡が入る。


「こちらレッド5。敵、司令官を排除した。繰り返す、こちらレッド5。敵、司令官を排除した」


 やっと、Aチームは基地司令官の排除を完了した。


「ジョナサン、喜んで。終わったわよ」

「あぁ……」


 ジョナサンはそのまま眠りについた。正規軍の手に取り戻したカロライナー基地に訪れる朝日を拝むことなく。

 そして、基地を占拠したことをBチームが放送。

 これにより、カロライナー空軍基地は正規軍のものになった。




 場面は変わって、首都サウス・ヘイブンの大統領官邸の一室。

 カロライナー空軍基地が正規軍により奪取されたことを知った反乱軍のリーダーであるアルブレヒト。


「だぁあああああ!」


 アルブレヒトは激高し、高級な花瓶を壊した。それを手始めに、他の花瓶に手を付け始める。それをアルブレヒトの側近たちが一生懸命に止めるのであった。激高した大鬼を止めるべく、部下たちは一丸となる。


「クソッ! はなせぇ!」

「落ち着いてください!」

「ブライアス少将は何をやっている!?」

「ブライアス少将は現在、カロライナー基地を奪還するために動いております!」

「そんなことはいい。私は失態する者が大嫌いだ。ブライアス少将の首を刎ねろ!」

「落ち着いてください! アルブレヒト大佐! 階級はあなたよりもブライアス少将の方が――」

「リーダーは私だ! お前は私に逆らうと言うのか!?」

「そ、それは――しかし、司令は今、冷静を欠いております」

「私はいつだって冷静だ!」


 そう言う男の顔は酔っぱらいのように顔が真っ赤になっていた。この男に会おうとした連邦のエージェントであるハンニバルは反乱軍のリーダーに会おうとしたが、暴れる姿を見てため息をついた。


「まったく……怒りっぽい人だこと。まるで古代中国の項羽のような人だ。怒りっぽいのは困ったことだ」


 ボーっと暴れる姿を目にするハンニバル。

 そんな男の元へ、部下の一人がやって来た。


「あの、ハンニバル様……申し訳ありませんが――」

「そうですね」ハンニバルはにこやかに受け答えをすると、「今日は閣下のご機嫌がよろしくないので帰らせて頂きます」

「……すみません。後日、こちから会談の日程をお知らせします」

「はい、お願い致します」


 部下に今日の訪問は取りやめることを伝えると、この場を去った。

 それから、ハンニバルは大統領官邸を出た。黒塗りの車に乗って高級ホテルに帰った後、広いトイレの中でハンニバルはどこかへ電話するのであった。


「もしもし、僕です。お父さん……」


 その人は上司ではなく、ハンニバルの父であった。軍需複合企業であるハンニバル・インダストリーの最高経営責任者である。


「今、サンタバル共和国にいるのですが、ちょっと面白いことになっておりましてね。どうやら、基地の奪還作戦の際に日本の人型重機が使われたようでして――」


 ハンニバルは笑う。


「はい、はい……」


 父の意見を何度も頷き、慎重に聞くハンニバル。


「そうですね。この国で試すのはいいかもしれませんね。それなりの状況は出そろっている。これを使わない手はありません」


 ハンニバルは片方の口角を釣り上げると、


「どうでしょう? 社長――」


 悪そうな顔をしてこう言った。

それから、ハンニバルの――父でもあり、社長でもあるおとこはハンニバルへ助言を施した。


「……わかりました。そのように動きます」


 ハンニバルが返事をした後、電話が切れる。

 それから、ハンニバルは正規軍の内通者に連絡を入れると、


「人型重機の工場の所在地を敵に流してください、それでこの内戦を戦わせることがあなたの任務です」


 再び悪い笑みを浮かべた。

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