ショートショート集

困ってる

　私はいま、とても困ってる。

　友達の彼氏を好きになってしまったのだ。

　この春、通い始めた大学で、いちばん最初に友達になった彼女。構内で迷っていた私を助けてくれた事がきっかけだった。

　田舎から出てきた境遇。

　ロック音楽が好きな趣味。

　共通点の多い２人はすぐに仲良くなった。

　一緒に買い物に行って、一緒にテーマパークに行って、初めてのバンドのライブも一緒に行った。

　そのときに、１人の男子を紹介された。

「蓮見聡くん」

「あれ？」

「知ってるの？」　

「うん。同じゼミだよね、確か」

　ビシッと着こなした革ジャン、細身のパンツ。教室では見かけたときは冴えなかった彼が、そのときは見違えてカッコ良く見えた。

「もしかして、つきあってんの？」

「うん。実は……」

「へぇ、おめでとう。素敵な彼じゃない」

　そのとき以来だ。

　私が、彼と連絡を取るようになったのは。

　はじめのうちは３人で遊ぶ予定の打ち合わせや、彼女のサプライズ誕生パーティーの計画なんかをやりとりしていただけだったが、そのうち、彼女とのケンカを仲裁したり、恋愛相談をするようになった。

「あいつ、嫉妬深くて困るんだよ」

「束縛したがる人と付き合うのって辛いよねぇ。でもそれは、あなたのことを好きだからよ。誕生日プレゼントのお返しに、ネックレスもらったでしょ？」

「え？　知らないよ」

「あれ？　じゃあ、あれ、誰にあげたのかしら……一緒に買いに行ったとき、プレゼントだって言ってたから、てっきり……」

　そんなこんなで。

　彼女に内緒の話をすることも増えた。

　内緒で約束したり、内緒で出かけたり。いつからか分からないけど、私は彼を好きになっていたのだ。

　そして、私たちは付き合いだした。

　それが１ヶ月前の話。

　私はいま、とても困ってる。

　だって、友達の彼氏じゃなくなったとたん、私は彼が好きじゃなくなってしまったんだから。

　あ～あ、悪い癖だなあ。