世間話
とある住宅街。
春を告げる風が暖かさを運んでくる昼下がり、2人の中年女性が、小ぶりな一軒家の前で世間話をしていた。
「暖かくなりましたわねえ」
「そうですねぇ」
「見ました? この前のオリンピック。感動してしまいましたわ。特にマイナーな競技に無名な選手が挑むってシチュエーションが、わたくし、大好きなんですの。ボブスレーとか、バイアスロンとか……」
「ああ……。ちょっと、そういうのは。フィギュアとかカーリングとかなら見たんだけど」
「そうですの……そういった競技なら、わたくしも子供と一緒に見てましたわ」
「お子さん、確か4歳でしたっけ」
「ええ。山中さんのお宅は?」
「6歳です。やんちゃな盛りで」
「ウチのもですわ。でも、テレビを見てるときだけは静かなんですよねぇ。ほら、あの子供番組」
「うちの子は、DVDでヒーロー戦隊ばっかり見てますよ」
「! ウチのもですわ。まったく、なんで男の子ってああいうちょっと野蛮なものが好きなんでしょうかねぇ。わたくしの夫も、お相撲が好きで好きで」
「ウチの旦那はサッカーですね。ネット放送でスペインやらイタリアやら……海外のリーグのファンらしいんですよ」
「そうですか……」
「……」
「……」
「あら、いけない。もう2時じゃない。ごめんなさい、おしゃべりが楽しくって、つい時間を忘れてしまったわ。はやく病院に行かなくちゃ」
「え? どこか悪いんですか?」
「検査ですの。人間ドックで、血圧が高くってねぇ。糖尿病の疑いがあるそうで」
「そうですか……」
「奥様が羨ましいわ、2つ年上なのに、お若くって」
「いえいえ。私も体調が不安定なんですよ」
「まあ! 大変ですわね、お互い。わたくし、睡眠障害もありまして、毎晩眠れないんですの。でも、仕方ないですわよねぇ……年齢には勝てませんし……はあ」
「……」
「はあぁ。糖尿病なんて……。塩分カットで味気ない食事になるのかと思うと、いまから憂鬱ですわ……」
「……睡眠薬がいいらしいですわよ」
「え?」
「睡眠薬を使って、質のいい睡眠をとると、血糖値が下がって糖尿病を改善できるそうです。昨日テレビでやってたんです」
「本当ですの?」
「ええ、本当に睡眠薬で……」
「本当にテレビでご覧になったのね!」
「は?」
「オーホッホ、ホホホホホ! 語るに落ちたわね! その睡眠薬の情報は、昨日NHKの『情報サプライズ』でやっていたもの! ということは! あなたはNHKを視聴しているいうことですわ !」
「なんですって! それじゃ、あなたは!」
「そう!」
「まさか……」
「わたくしは、NHKの集金係! 奥様は、別の者のときに何度も『ウチはNHK見てません』と断っていらっしゃいましたわね。でも、これでウソだと判明しました! 先ほどの発言は録音させていただきましたわよ!」
「しまった……油断した……」
「受信料を払っていただきますわ!」
「ぐうっ、私のへそくりが!」
「ホホホホホ! これで10件目、ボーナスゲット! 今夜は焼き肉ですわぁ!」
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