ヤツの証言

 はい。

 そうです、刑事さん。ぜんぶ正直に言います。

 僕がどうやって、あの違法ドラッグを手に入れたのか。


 あの日、僕は六本木のライブハウスにでかけました。知り合いのDJがイベントをやるんで、ついでに女でも引っかけようって、出かけたんですよ。

 そこで、あいつに会ったんです。

 その男は、全身ピアスと入れ墨だらけで、何人もの女をはべらしていました。たいして顔もよくないのに、ね。

 名前? 名前は知りません。

 ただ、『D』と呼ばれていました。


 Dは僕に言いました。「もっと楽しもうぜ。最高の遊びを教えてやるよ」。そして、ドラッグを分けてくれたんです。

 最高でした。

 気分が高揚して、世界で最強になった感じ。俺はもう、たまんなかったっスね。

 すぐにDに、「もっとくれ」と言いました。

 だけど彼は、「もう無いぜ」と。

 「でも、売ってくれる人のことは知っているぜ。連れて行ってやるよ」。

 ありったけの金を引き出して。

 僕は、彼の車に乗りました。


 高速道路を4時間ほど走り、下りたところは長野県の山の中。それから曲がりくねった道を30分か40分くらいでしょうか。どこをどう行ったのかは、もう思い出せません。

 ふと気がつくと、目の前に古い神社のような奇妙な建物があったのです。

 Dに連れられ、僕は中に入っていきました。


 そこにいたのは、まっ白な髪と髭の、まるで仙人みたいな老人です。白い、着物みたいな服を着ていました。

 「D。誰じゃ、こいつは」。

 「ヘイ、ブラザー。こいつは俺のダチだぜ。ヤクをわけてやってくれよ」。

 「お前の頼みならしょうがないわい」。

 僕はドラッグをもらいました。

 すぐに使いました。

 だけどちょっと量が多かったのか、意識を失ってしまったんです。気がつくと、六本木に帰ってきていました。

 ライブハウス近くの公園のベンチに寝かされて。

 ポケットからは財布が無くなっていて、かわりにドラッグが入っていました。


   ※   ※


「ヤツの証言は、これで全部か?」

「ええ、そうです。どうやらドラッグを流通させる闇のネットワークがあるようですね。まずは聞き込みをして、Dという男を捜しましょう。そして長野県警にも協力を依頼して……」

「お前はアホか」

「は?」

「ウソに決まってるだろ。こんなもん」

「ええ!」

「ドラッグの販売ルートなんて警察に漏らしたら、殺されるに決まってる。本当の事を言うわけがない」

「じゃあ……」

「Dなんて男はいない。謎の老人もな。長野に行ったのもウソだ」

「そんな!」

「だいたい、喋り方が芝居がかって不自然だろ。あきらかに作り話だよ」

「すると手がかりゼロ?」

「あのなあ。もう一度言うぞ。お前はアホか」

「……は?」

「ちゃんと『ウソ』っていう手がかりがあるだろ」

「!!」

「ウソをつくとき。人間は無意識に本当のことから遠ざかろうとする。真実と逆のことを言おうとするんだよ」

「ということは」

「ああ」

「容疑者は、『ライブハウス』で会った『知らない男』に紹介された謎の『老人』に、『長野県』で薬を渡された、と言っていました」

「なら、容疑者の周辺から『音楽関係じゃない』『知人』をピックアップしろ。おそらくは『若い女』だ。……そうだな、東京からみて長野の真逆……『千葉』方面に捜査範囲を絞れ」

「わかりました」

「アテにならないものってのはな。アテにならないことが分かってりゃ、逆に使い道があるもんさ」

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