閑話05 旅・深夜の一幕
これは、スイト達がクロヴェイツを出発した後の話。
カレーの一件があった、その日の出来事である。
深夜。
スイトがいつもより早い時間に眠った後。
女子が眠る馬車に、何人かの男性がお呼ばれしていた。
決していかがわしい事などは無い。それは、いつの間に作られた木の看板が証明している。
曰く。
「この笑顔を守り隊。オーケー?」
「「「オーケー」」」
野宿のため、いつもと違う環境だが、遮音結界を張ったため、誰かに聞かれる心配は無い。
その中で万が一の事を考え、声を潜める彼等は、この笑顔を守り隊。全員何かしらで顔を隠した、ほんの少しだけ怪しい一行である。
明かりは魔法で出した光の玉。
オレンジ色の光が、ふよふよと周囲を漂っていた。
「諸君、由々しき事態の発生である。今夜、スイト君のカレーを食べ、スイト君の意外と傷付きやすいハートを傷付けた裏切り者が……出現した」
白いローブのフードを目深に被った少女が、告げる。
「裏切り者は、この中に、いる」
「隊長なら、すぐにわかると思うぞー?」
「うん。実を言うと、犯人はもうわかっているの。その人に、どうしても言いたい事があって、緊急招集をかけたの」
語尾を延ばす少女に、隊長である少女はそう返した。
「えっと、スイト君はミリーさんのおかわりで、何回か席を離れたよね。その時に?」
「そうなるね。スイト君が目を離すのなんて、その時くらいしか無いもの」
「……んっ、私は、むり」
「それはわかっているので大丈夫です」
影の薄い少年に答えると、今度は背の小さな少女が弁明をした。しかし、彼女の小食加減は今夜の一件で知れ渡ったため、誰も疑ってはいない。
「あ、わ、私でもないですよ? 美味しい事は認めますが、2人分はちょっと」
「あーうん。それは誰も疑っていないから」
「ほっ」
真っ白な髪をした少女が、あからさまにホッとした。ただ、彼女は見た目通りの心根を持ち、見た目相応の量しか食べないので、そもそも誰も疑えない。
その横に控えるウサミミの少年だってそうだ。
彼はスイトをかなり慕っており、冗談でも彼を落ち込ませようとは思わないはず。そして彼が落ち込みそうな要因を、この中にいる誰よりも理解しているはずなのだ。
彼も、ありえない。
と、いうわけで。
「犯人は、貴方よね。ミリー」
「ぎくり」
「擬音は自分でいうものじゃないぞー」
今宵ここにいる者達は、何らかの形で顔を隠している。まぁ、声や背丈なんかで正体は見破られてしまうが、雰囲気って大事だよね。というノリである。
そんな中白ローブ少女の正面にいた少女が、無表情のままギクッ、となった。普段着に、左目しか覆わない仮面を着けただけの彼女は、無表情ながら汗をだらだら流している。
ある意味器用だ。
「ミリー。認めてくれるわよね?」
「……。ええ。美味しいものだから、つい」
「気持ちはわかるわ。痛いほどに。けど、スイト君をしょんぼりさせた罪は重いわ……!」
「分かっているわ。何でもしていい。煮られても焼かれても、再生できるから」
「じゃあ、言わせてもらうわね。……みんな」
隊長、もといハルカが、全員を立たせる。
ミリーを全員で見下ろす形となった。
物々しい雰囲気を放ちながら、ハルカは――
「「「―― ごちそうさまでしたっ!」」」
「……んっ?」
スライディング土下座の要領で、ミリー以外の全員がミリーに頭を垂れた。
急な出来事に、ミリーは唖然とする。
というか、それ以外のリアクションが思いつかない。
思わず、こてん、と首をかしげた。
「いやー、スイト君って、普段感情を表に出さないじゃない? カレーを前にして、あんなにコロコロと、面白いくらいに変わるとは……しかも、普段なら物凄くレアな落ち込み顔でしょ?」
「あれはレアだなー」
「笑顔はね、たまに見せてくれる。ルディ君には特にね。けど影の薄い僕はともかく、みんなの前で落ち込んだり、泣いたりする事はめったに無い。逆はあるけど」
「レアな一面が見られて、とても嬉しいのですよ。罪悪感がありましたが」
「非正規の隊員がまさか、素の状態であの表情を引き出せるとは。驚きました」
次々に語られる本音に、ミリーは困惑してしまう。
「……? …………?」
どうやらみんな怒っていないという事は理解したものの、何が起こったのかは全くさっぱり欠片も微塵も分かっていなかった。
しばらく考えて、彼女が出した結論。それは。
「これが、夜のテンション。面白い」
と呟いて、頷くことだった。
ちなみに、夜のテンションではないです。仮面やローブの効果です。
お酒? 未成年は飲めませんから。
夜はこうして更けていく……。
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