ルニアの歌

愛守

ルニアの歌

 汽車の窓から見える海は、サファイアのきらめきをたたえていた。容易に想像できる。その澄んだ青が、近くに寄ってすくえばどこまでも透明であることを。

 世間一般の子供たちにとっては夏休みも終わりに近く、人気ひとけはない。時間帯のせいもあってか、あるいはもともと静かな村であるからか。いずれにしても、たださざなみの音だけが満ちていた。

 気を緩めればこのまま微睡まどろんでしまいそうなその甘美の中、降りる駅を逃しかけ、慌てて下車した。何かを車内へ忘れてきたような気がして、遠ざかる汽車を見送る。

 ふと振り返ると、無人駅が異界への入り口をぽかんと開けてたたずんでいた。

 通り抜ければ青、一面に広がる広大な景色に心を奪われる。

 が、遊びに来たわけじゃない。すぐさま民家を回り、取材をしてゆく。しかし、やはり結果は思った通りのものだった。


「ルニアの歌、というものについて知っていることを教えてください」


 何軒なんけんもそう言って回ったにも関わらず、結果は同じだった。


「さあてねえ……。どこかで聞いたことがあるけど……」


 決まってそんな答えが返ってくる。

 同じ質問をし、やっとの思いで手がかりをつかんで訪れたのがここであるにもかかわらず、だ。


 そもそも、そんなものが存在しているのかどうかすら怪しい。一種の都市伝説ではないかと思えてくるのだが、編集長が取材してこいと言って聞かないのだ。

 誰に質問しても、聞いたことがあるという答えが返ってくる。それなのに、肝心の内容を知る者は誰一人としていない。

 途方に暮れた私は、海へと足を運んだ。

 砂浜に打ち寄せる波は、やはりどこまでも澄んでいる。

 遠くからは海鳴りが聞こえてきて、その時、ふと何とも形容しがたいものが聴覚を刺激した気がした。何か聞こえるわけでもなく、それを音と表現していいのかすらわからない。だが、確かにそれを感じ取った私は、あえてそれを透明な音だとメモへ書き残した。

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ルニアの歌 愛守 @ishe

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