43/ 死の剣は誰の首に 5

 ――静まり返った大広間に暗澹たる黒が横たわる。雲が空を覆い、星の光もここには届かない。

 非現実的な黄色の炎だけが、この夜においてただ一つの標だ。アンリエッタが強張ったイルフェンの袖を引いた。


「行きましょうか。研究室の方と合流した方が良いでしょう」

「う、こ、この暗闇をか……! し、仕方ない……何者の仕業かは解らないが、ここに居てはまずいことは私でもわかる……」


 この停電が人為的なものであるならば、本番はここからだ。敵が行動を起こす前に動くべきだった。


「待て」


 その時、静かな声でジャックが制止した。首のない男の黄炎を頼りに、隣室へ移動しようとしたアンリエッタたちは足を止める。赤毛の男の眼光が、黄炎の照り返しを受ける。


「――仕掛けてくるぞ」


 ――瞬間、大広間の窓が砕けた。粉々になった窓硝子が絨毯に散らばり、その破片に紛れて、風が部屋に飛び込んだ。それはまるで、荒れ狂う旋毛つむじ風だ。容赦なく部屋を荒らし、家具を砕き、真っ直ぐに突き進む――銀の手甲!


 銀の風は、一瞬で室内の人間へと迫った。その煌めく色を、死を、誰もが感じただろう。――だが、それが止まった。否、止められたのだ。低く唸る、駆動機関エンジン音に。


 鈍く輝く銀色の義手を止めたのは、物々しい音を立て回転する刃。暗闇に火花が散り、ぶつかりあう二人の顔が浮かび上がった。


「――ほう、暗視器具もなしに」


 銀色の仮面から、女の声がした。冷静な口調の奥に憎悪をにじませた声が。フィアの光を纏った拳を突き出すのは、黒衣を纏った義手義足の女。獲物を求めて飛び回る残忍な狩人。名を<屍選のネクロクロウ>。


 対する赤毛の男――ジャックは臆することなく不敵に笑う。


「ハ、暗闇程度に紛れられると思ったのか?」

「低俗な人殺し風情が、増長したものだな?」

「アン? 俺より弱い奴をナメて何が悪い」


 手甲と動力鎖鋸チェーンソーが強く打ち合った。ネクロクロウは舌打ちし、ジャックから距離を取る。ジャックの後ろでイルフェンはか細い悲鳴を上げてソファに隠れた。


「ひ、ひい、出たあ……! あれがネクロクロウとかいう女か……!?」

『イルフェン・ティービー。我が身に寄れ』


 怯えるイルフェンとアンリエッタの方を、女は仮面越しに見た。そしてその横で歪な剣を抜く黄炎も。


「退け、殺人鬼。貴様に興味はない。貴様も私に興味はないだろうよ」

「アン? 呑気な奴だな。何で殺せる奴をみすみす逃す必要があるんだ?」

「チッ、クズの狂人め――」


 ネクロクロウが舌打ちし、再び薄黄の輝きをその手に纏わせた時――その体を何かが横から襲った。ジャックではない。巨大な質量を持った何者かが、ネクロクロウに飛び掛かった。


「チ――ッ!!」


 ネクロクロウの小柄な体が壁際の棚に叩きつけられた。その目前に立つのは――機械だ。金属製の脚部が、床を踏んだ。日々磨かれている木板の床が悲鳴を上げる。


「――自駆機械オートマタ……!」


 ネクロクロウが唸った。

 その異様は、例えるなら異形の獣か。爪に似たものが備わった四脚を踏みしめ、本体から凶暴な機械腕メカアームが伸びている。――その背に跨るのは、アンリエッタ・アダムスだ。


 この芸術趣味に溢れた大広間の、一体どこからこんなものが現れたのか。その答えは暗闇に目を凝らせばおのずと理解できた。震えるイルフェンの前からソファが消えうせ、代わりに植物と小鳥の柄のファブリックと、内部のクッションが転がっているからだ。


「人のお家に訪問しておいて、何の歓迎もないとでも思ったの? ネクロクロウさん」

「家具の中に自駆機械オートマタを隠して――いや、そのソファ自体がそういう設計の代物だな……!」


 自動二輪オートバイクのように、アンリエッタは自駆機械オートマタに前のめりに跨っている。


「ティービー社とアダムス家が出資。共同開発中の防犯機械トロイカ・トロイよ。まだ半自動駆動セミオートなのだけどね」

「退けッ、女!」


 ネクロクロウが手甲を振るった。トロイカ・トロイの機械腕メカニカルアームがそれと真っ向からぶつかった。アンリエッタは振り向かずに言った。


「行って。彼女は私が止めます」

「アンリエッタ、馬鹿な! 危ないだろう!」


 首ない男に縋ったイルフェンが動揺した。確固たる表情で、アンリエッタはネクロクロウを睨んだ。


「恐らく、仕掛けてきているのは彼女だけじゃないわ。だから三人とも、スラーをお願い」


 銀の手甲が機械腕を殴り飛ばした。トロイカは後ろに下がる。ネクロクロウの拳がそれを追い、秘術<フィア>を纏わせる――!


壊せ<レスァープ>)


 短縮式は自駆機械オートマタに当たるはずだった。だが、ネクロクロウは銀の仮面の奥で忌々し気な顔を浮かべる。


 ――輝く拳を止めたのは、回転する刃の一閃だった。

 無数の刃がフィアの光に浮かび上がる。鮮やかな赤毛が自駆機械オートマタの前に立つ。


「ハ、聞けねえ話だな」


 片腕で唸る動力鎖鋸チェーンソーを構えた男の前で、秘術<フィア>が霧散する。ジャックは自駆機械オートマタを見上げた。


「助けろって言ったのはお前らだろ。例え依頼人だろうと、俺の仕事を邪魔出来ると思うなよ」


 アンリエッタは驚いた顔でジャックを見下ろした。


「俺は有能で売ってんだよ。ここでお前に傷がつけば、俺の評価にも傷がつくだろうが」


 ジャックはアンリエッタと並び、ネクロクロウと対峙する。動力鎖鋸チェーンソーが、ネクロクロウへと突き付けられる。


「二対一だ。その方が早く終わるしな」

「――ありがとう。ええ、頼もしいわ」


 アンリエッタは操作機械を握りなおした。ジャックは首のない男とイルフェンを振り返った。


「首なし、お前は科学野郎の所に行け。俺とお前じゃ過剰戦力だろ」

『――理解した』

「お、俺は、こっちに残るっ! 二人いるほうが安心だ!」


 首のない男は了承すると、ふつりと姿を消した。対称的に、イルフェンは慌てて家具の後ろに隠れた。すかさずジャックの動力鎖鋸チェーンソーがネクロクロウを追撃する。


「――守れ<レフェド>


 手甲が薄黄色の光を帯びる。薄くフィアを纏わせ、ネクロクロウは唸る刃を右手で弾く。そのまま浅く踏み込み、左手を振るおうとした時、ジャックが跳躍した。その後ろから、トロイカが機械腕メカニカルアームを突き刺した。ネクロクロウは左腕を咄嗟に守りに切り替え、それを受け止めた。火花が散る。大広間に小さな火が点々と落ちて、消える。


 ネクロクロウの金属の義手と秘術<フィア>は厄介だ。生身でない手足は痛みを恐れることなく敵の攻撃を防ぎ、秘術<フィア>はそれを補強する。ジャックはトロイカの肩に着地した。ネクロクロウは睨んだ。ジャックを、アンリエッタを、イルフェンを。


「フン、クズどもが。本当に無様で、苛立たしい。何も理解出来ない癖に、調子づいたものだ」

「鏡見た方が良いぜ、調子にのってるのは手前もだろ」

「……さて、どうかな?」


 ネクロクロウはほくそ笑み、一つのものを取り出した。小さな石の一欠片。だがその輝きは薄黄ではなく――完全なる緑色りょくしょく


「これが分かるか?」

「フライブレス――」


 それが何であるか、ジャックにも分かった。これまで何度も見たモノ。暗闇にて緑の輝きを放ち、秘術<フィア>を齎す力、その真なる精製色。


「そう、セジウィークらが研究し、作り上げた、フィアの完成品だとも! 未熟な黄ではなく、この緑色りょくしょくこそ極めて純粋なフィア! 隠す間もなかったのだろう、置き捨てられていたこれらを、セジウィーク邸から回収した」


 ネクロクロウが緑色のフィア精製石を握った。ジャックが反射的に飛び出した。


「させるか!」

守れ<レフェド>!」


 言葉と共に、ネクロクロウを守るように秘術<フィア>が展開した。振り下ろされる動力鎖鋸チェーンソー。だが緑色の障壁が、刃を通さない。


「貴様らの未熟な術式など笑止。これの使い方を一つ、見せてやろう!」


 ネクロクロウは銀の仮面の奥から高らかに笑い、フィア精製石に力を込める。


繋げ、改遺変式<レウクイプド・オルト>


 フィア精製石を握る拳から――力があふれた。ドクン。鼓動が跳ね、ネクロクロウの手から緑に輝く力が、周囲に線状に広がった。


 ――ドクン、ドクン。放射状に伸びたフィア光の線の一つ一つが脈打ち、何かが、零れ落ちる。フィア光から滴る雫は塊となり、形を成す。


 一つ、更に一つ。フィアから生まれたものが蠢き、腕を、脚を生やす。やがてそれは、怪物の形を取った。それは、闇から形を成した影のように。無数の不可解な異形の化け物が、床の上に、棚の上に、大理石のテーブルに現れ――大広間を埋め尽くす。


「二対一? そうは見えんがな?」


 ネクロクロウが残忍に笑った。警戒するように、トロイカ・トロイの姿勢が高くあがる。広間を埋める影の怪物たちは不気味に蠢いている。アンリエッタはちらりとジャックに視線をやる。じり、と影の怪物が距離を狭める。


「この数、切り抜けられるかしら?」

「そうだな――」


 ジャックは思案した。


「美女の口づけでもあれば、出来るだろうな」


 ジャックは悠々とした表情で目くばせした。アンリエッタもつられて微笑んだ。


「それじゃ――元気づけてあげる」


 するり、とトロイカの上からアンリエッタの細い手が伸びた。指先がジャックの頬に触れ、やわらかな唇が重なった。アンリエッタのアクセサリーが揺れた。女はショートヘアを悪戯っぽくかき上げ、乗り出した身をトロイカの操縦席シートに戻した。


「頑張ってね、紳士様?」


 舌先が熱の残る唇を舐める。ジャックは機嫌よく笑った。


「おっと、こりゃ旦那に妬かれるな」

「まあ、安心して。口づけ一つに、愛は込められないわ」


 アンリエッタは操縦機械を握りなおした。強く。


「私の気持ちは融通が効かないの。だから全部、スラーに預けてるのよ」


 影の怪物たちが一斉に飛び掛かった。ジャックとトロイカは走る。


「二手に分かれるぞ、選べよ、箱入り女! クソ女を叩くか、この怪物どもを相手するか!」

「……私の力じゃ、この数を相手にするのは難しいでしょうね。あの女に行くわ。怪物の処理はお願いね」

「任せとけ、一匹たりともそっちにゃ寄せ付けねえからよ、気兼ねなくあいつを叩き潰せ」


 言うと、ジャックは床を蹴った。人間離れした身体能力で高く跳ぶ――影の怪物の群れる中心へ! 着地と同時に、その一体を動力鎖鋸チェーンソーで真っ二つに切り裂く! 断末魔の悲鳴を上げ、怪物は緑の燐光を散らして、霧散する。ジャックは眉を上げる。怪物が消え去るのと同じ光景を見たことがある。二度。


「こいつ――」

「そう、それは遺変<オルト>から千切れたる形の雫。――断変<フラッグ>


 断変<フラッグ>。それは破片であり、千切れたるもの。小さき断章にしてかつては真なる空想と同一であったもの。


「確かに遺変<オルト>そのものを操ることは難しい。だが、今回顕現した遺変<オルト>は既に第四段階間近――こその満ち満ちた力を私の手元で引用し、形を為す。それが断変<フラッグ>だ!」


 ネクロクロウが吠え、それに応えるように断変<フラッグ>と呼称されし影の雫が飛び掛かった。だが、アンリエッタは迷わずネクロクロウへと自駆機械オートマタトロイカを駆った。彼女が見据えるのは銀の仮面。その他の一切は構わない。構う必要はない!


 断変<フラッグ>がトロイカに爪を伸ばす――しかし、それを阻む轟音がする。誰の手が届かなくとも。誰の手にも不可能でも。その無数の刃だけはそれを成す。


 ――ギャルルルル! 回転する駆動機関エンジン音が、アンリエッタに立ちふさがる敵を、粉みじんに切り裂く。アンリエッタの視界の端に長い赤毛が見えた。だが振り返らない。彼女の駆るトロイカはネクロクロウの前に躍り出た。


切れ<レポーク>――」


 ネクロクロウの手甲が秘術<フィア>を纏う。その輝きは完成されし緑の光。だが、同時にアンリエッタもトロイカを操作した。


「外部補助システム秘術<フィア>。起動」


 トロイカの後部装備から、熱が迸った。機械腕メカニカルアームが加速し、ネクロクロウのわざを相殺する! 砕けた力が燐光となって散り、闇に消える。



 トロイカがフィアの蒸気を吐いた。冷ややかな視線が眼鏡越しにネクロクロウを刺す。


「その力を我がもの顔でお使いになるけれど、貴方、彼らの研究に何か一つでも寄与して?」

「いいや? 何一つ。私はただ、命じた。恐怖させた!」


 臆面もなくネクロクロウは笑う。当然だと思っているからだ。弱者をいたぶり、略取するのは力ある者に許された行為だ。


「部外者の貴方は、ご存じないかも知れないけれど――このプロジェクトの出資者は私よ。その私のものに手を出そうなんて、腹立たしいことこの上ないわね」

「ハッ、なら貴様の怒りの程、見せるがいいさ!」


 銀の仮面は嗤い、トロイカ・トロイに狙いを定めた。




 ――切り裂く。切り裂く。切り裂く。

 得物を振るえば肉は裂け、命は零れる。

 力の影も、非現実の怪物も、その点は人と変わりない。


 圧倒的な暴力を前に、存在は打ち砕かれる。


「おらおら! 何だぁ? 怪物みたいな形して、人殺しが下手だな手前ら!」


 一体を切り裂いた勢いに乗せて、ジャックは体を捻った。年代物の椅子に爪痕を残し、背後から飛び掛かった断変<フラッグ>動力鎖鋸チェーンソーの一撃が屠った。


 動力鎖鋸チェーンソーのけたたましい唸りが、暗澹たる闇に軌跡を残す。――人を殺す怪異も、人を殺す殺人鬼に及ばず。


 職人の手で作られたメープル材の家具をジャックは駆け上った。靴跡が、というイルフェンの悲鳴が聞こえたが意に介さない。ぐるり、と空中に躍り出る。眼下に、断変<フラッグ>の群れ。落ちてくるジャックを引き裂かんと、影が笑う。破壊されたクッションから羽毛が舞っている。


 舞い散る家具の残骸の中、ジャックは動力鎖鋸チェーンソーを振り下ろした。



 アンリエッタとネクロクロウの交戦もまた、佳境だった。秘術<フィア>で加速したトロイカの機械腕メカニカルアームが、銀の手甲に罅を入れる!


「外部補助システム秘術<フィア>、出力上昇!」


 後部機構から、更に激しくフィアが燃焼する。緑の燐光の力がネクロクロウの義手の罅に大きな亀裂を生む。


「舐めるなよ……未熟だと言っただろう! 強めよ<レヤーテ>!」


 力ある言葉と共に、手甲の罅が秘術<フィア>によって覆われる。


壊せ<レスァープ>ッ!!!!」


 握ったフィア精製石の力全てを注ぎ込んだ短縮術式。ネクロクロウの拳がトロイカの機械腕メカニカルアームにめり込んだ。トロイカの金属装甲がメキメキと歪んだ音を立てて捻じれる。


「くっ……!」


 アンリエッタが怯んだ隙を見逃さず、ネクロクロウは自駆機械オートマタの機体を駆けあがった。銀の拳が騎乗するアンリエッタを容赦なく殴りつけた。小さな悲鳴をあげ、彼女は操縦機械に倒れ込む。


 見下ろすネクロクロウの手甲がフィアを帯びて輝く。破壊を齎すために。フィアの光が、ぐったりしたアンリエッタの顔を照らした。


「――死ね」


 ――その時、アンリエッタを助けるべくジャックも身を翻していた。驚異的な身体能力で、数メートルの距離を一瞬で詰める。ジャックは己の得物が間に合うのを理解していた。


 ――だが、それより早く、死の狭間に飛び込む者がいた。

 黒い人影はしなやかに身を投じ、ネクロクロウの体に回転蹴りを入れた。


「ぐ――ッ!!?」


 あまりにも不意のことだった。予想だにせぬ第三者の介入に、ネクロクロウは驚愕しながら自駆機械オートマタから落下し、床に転がった。


 目を丸くするアンリエッタの横にそれは立つ。

 黒いスーツに、黒く長い髪。黒豹を思わすしなやかな体躯。

 女は目を細め、にやりと笑った。


「よしよし、間に合ったぁ、これでスラーに泣かれずに済むよ」

「サーシャ……? どうしてここに……」

「勿論、弟の危機を聞きつけて? あはは、嘘だけど。ま、それは後でね」


 突然現れた婚約者の姉に、アンリエッタは目を白黒させている。サーシャはトロイカ・トロイの操縦機械におもむろに触れると、成程、と頷く。


「行きなよぉ、義姉さんが任されてあげる」


 サーシャは相変わらず飄々としていたが、その言葉は本気だった。


「あの女をこてんぱんにすれば良いんでしょ?」

「ええ……でも、操縦は分かるの?」

「まーかせて、私の方が駆動機械オートマタの扱いは慣れてるからね」


 駆け寄ったジャックが胡乱なものを見る目でサーシャを見た。燃殻通りで交戦したばかりの新聞記者を。


「何だお前、知り合いか」

「そうなんだよね、あ、探偵さんとはもう挨拶してるから」

「チッ、じゃあ切り刻めねえじゃねえか」


 うわあ、おっかない、とおどけるサーシャ。疲弊したアンリエッタをジャックが座席から抱き上げた。


「おい記者女、引き受けたからには逃がすなよ」

「トーゼン、ウォルトンは狙った相手を逃がさないよ? いや、まあそういうこともあるけど。燃殻通りの件とか」

「その件は、俺も満足してねえからな。片付いたらもう一度やり直そうぜ」

「え、ヤダヤダ。おっかないもん」


 軽口を叩くサーシャを残し、ジャックはアンリエッタを抱えて自駆機械オートマタから飛び降りた。


「行くぞ。セジウィークが心配なんだろ」

「……私、あいつをぶん殴れなかったわ」

「残念だったな、ここがお前の限界だ。次の機会を狙うんだな」

「……そうね、ごめんなさい。行きましょう」


 彼らが走り去る背後で、ネクロクロウが再び拳を構える気配がした。


「下水道のドブネズミ記者か……」

「おっ、ウォルトン新聞社の悪名をご存じ? 光栄だなあ。ま、そっちも良いとこハゲタカってかんじだけどね」


 ネクロクロウを鼻で笑い、サーシャは破損したトロイカ・トロイを再起動した。

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