探偵たちのメリーじゃないクリスマス 5
ウォルトン新聞社屋上での出来事の後――全ては緩やかに解決した。
集められた三つの神秘品はグリフィンが
黒衣の集団は目にしたものが信じられなかったのか、呆然とした様子で帰っていった。恐らく彼らも邪悪な集まりではなく、苦しみを信仰に託した平凡な人々だったのだろう。
新聞社の屋上に顕れた巨人のことは、世間ではユニークなクリスマスの出し物だということになっていた。あれだけ騒いだというのに、シャノたちがあの場に居たことはウォルトン新聞社にすら知られなかった。コネリーが情報を弄ったことは間違いない。
そして今――とある倉庫では、一人の男が追い詰められていた。
埃っぽい書棚に背を寄せ、怯えた表情を見せるのは、チョコレート会社の社員を名乗った男である。そして彼は、ウォルトン新聞社の臨時職員でもある。
品のいい靴音を立て、仮面の男が彼に詰め寄った。
「あ、あんた、何で俺のことを!」
「うむ。ツテがあってな」
グリフィンは鷹揚に頷いた。その後ろには場馴れしている風な若者と、獲物を見定める目をした赤毛の男が居た。
「さて。お前からの依頼通り、チョコレートは配り終えた。約束通り――報酬を支払って貰おう」
男は腰を抜かし、へなへなと床へ座り込むと、涙を浮かべながら財布を取り出した。
◆ ◆ ◆
数日後、クリスマス当日。
その日は朝から白い雪がイルミネーションの間を舞っていた。
暗黒祭壇と化していたアパルトメントの一室は、真摯な謝罪とシャノ自身の手で片付けをするという約束によってようやく決着した。季節外れのカボチャやガイ・フォークスは外され、今は安っぽいクリスマスリースがおざなりに部屋を彩っていた。
クリスマスを祝うには盛り上がりに欠ける飾り付けだったが、チョコレート配りの報酬のお陰でテーブルの上は豪勢と言えた。
クリスマスケーキは結局のところ、買うことはなかった。ウル・コネリーから<トリャ・ミリャ>騒ぎの報酬の一つとして、今朝方差し入れられたからだ。当然、聞き漏らしてはいないとばかりに二段構えのものが。
暖かなワイン。柔らかなマッシュバーニスップに、香ばしいミンスパイやクリスマスプディングが卓上に並ぶ。
メインをガチョウにするか七面鳥にするか一悶着あって、最後は多数決で七面鳥になった。
「――結局、あれはあいつらの言うカミサマだったのか? それとも別の怪物か?」
パイをフォークで刺しながら、ジャックが尋ねた。ワインを口にするシャノは曖昧に答えた。
「さあね。でも――彼、何だか答えを待っているようだった。そんなに悪い奴じゃなかったのかもね」
「答えか。望まれるのを待っていたのかも知れんな」
願いを叶える神として望まれたもの。それの望むものが何だったのかは今となっては解らない。ジャックは送られてきた二段ケーキを指した。
「ふーん? じゃ、これも<トリャ・ミリャ>の加護か?」
「さてな。彼の力でウル・コネリーが二段ケーキを送りつける気になった――そういうこともあるかも知れん。ともあれ、十分なディナーが用意できたのは良いことだ」
「うん、美味しい――折角だから言っておく?」
シャノの提案に、二人は渋い顔をした。
「良いじゃない、美味しいご飯を祝して――」
『メリークリスマス!』
--------------------------------------探偵たちのメリーじゃないクリスマス (了)
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