第59話 生徒会

 「ふぁ〜……」


 今は全校集会の最中。

 ゆりかは生あくびが止まらず、必死で口を何度も押さえる。

毎晩は遅くまで中学の勉強を予習をしていたせいで眠い。


 早く終わらないかしら……。

ああ、でも学校が終わったら、悠希君とジョギングか……。

さっきの貴也君の良い案とはなんだったんだろう?

あの後、すぐにチャイムがになってしまったので、きちんと話しを聞くことができなかった。


 『ゆりかさんの願い叶えてあげる』


 貴也の形が綺麗な赤い唇の端がわずかに上がり、含みをもった笑顔を向けられた。

あの光景を改めて思い出し、ゾッ!としたゆりかは思わず自分の両腕で自分を抱きしめる。


 ……こ、こわい!

思い出しただけで、怖いんですけど!

だってあの貴也君が私の願いを叶えてあげるって……あげるって……絶対ありえないでしょ〜?!

あんなことを言うなんてロクなことを考えていないはず。


 ゆりかが青い顔をしていると、隣に座っていたクラスメートが「ゆりかさん、体調悪いんですか?」と訊いてきた。

ふと気づくと、周囲の視線が集まっている。


 あら、やだ。


 「……コホン。なんでもないわ。大丈夫」

咳払いをすると、笑顔で返事を返す。

母を参考に散々練習した笑顔。

その成果を見せる時とばかりに、花が綻ぶのようにフワリと笑ってみせる。

その美しい姿に周囲はほうっと見惚れて、次々にひそひそ囁き声が聞こえてきた。

「ゆりかさん、相変わらず綺麗ねー」

「御三家の一人と同じクラスになれて良かった」


 こんな風に噂話をされてしまうと先程まで縮こまっていた背筋がピンと伸びる。

欠伸なんてしてる場合じゃないわ!


ゆりかが聞き耳を立てていると、近くのクラスメートばかりか隣のクラスの人まで騒ついていた。

「高円寺様、やっぱり素敵ねー」

「さっき気怠げな表情をもまた美しかったわ」


 はふん。これだけ周囲から見られていては油断も隙もあったもんじゃないわ。


 「あ、ほら、またあくびされた。

お疲れなのかしら?」


 ん?あくび?

私してないわよ。


 「ああ、でもやっぱり素敵。

かっこいいわ、高円寺様」


 かっこいい??


 その時、それまで前でスピーチをしていたツルピカ頭の教頭の話が終わり、生徒たちの脇に座っていた人物が立ち上がる。

その姿を見た生徒たちの騒めきが大きくなっていった。


 「今期の中高の総代表よ!」

「高等部の生徒会長!」


颯爽と壇上に登っていくのは、まぎれもないあの人。


 「高円寺隼人こうえんじ はやと様!」


 兄の高円寺隼人。

今年高三の兄は高校の生徒会長で中学・高校の総代表も務めているのは聞いていた。


 さっきの話はお兄様のことだったのね……。

勘違いだったのか。

なんだか恥ずかしいなり、赤くなって下を向いていると、再び隣りのクラスメートに心配をされた。

だ、大丈夫よ。ほほのほ。

あー、恥ずかしい。


 ……確かに壇上で凛々しくしている兄はかっこいい。

いや、攻略対象者の一人だしさ、ママ似の綺麗な顔に優秀ときたらモテるだろうなとは思ってたけど、なにせ私とは兄妹だし意識したことなかった。

普段はただのツンデレ過保護兄なのにな〜。

家じゃ、あくびもげっぷとおならもしちゃうのにな〜。あ、これ秘密。


 あれ?でも、外でもあくびやら気怠げって……。

あの外面完璧なお兄様が?

考えただけで異常事態だ。

まさか、寝不足気味??


 兄はいつも定時に布団に入る規則正しい生活をしている。

昨晩は何かしていた兄を無理やり捕まえて、勉強を教えてもらったら、完璧主義な兄はゆりかがわかるまでとことん付き合ってくれた。そしてその後、ゆりかはいつも寝る時間にはおやすみなさーいと布団に入ったのだった。


はて?では兄は……?

そして朝もやることがあるからと早々に一人先に出掛けてしまっていた兄…………。


 あれ?もしかして原因は……私?

いつも完璧兄様に欠伸させてしまったのは私?

ああ、ごめんなさい、お兄様……。


でも、お兄様の気怠げな顔を見て喜んでいる女子がいるから、新しい高円寺隼人の魅力の発見ということで……いいよね?えへ、えへへ。


※※※※※


 兄の登場に目が覚めたゆりかは背筋をピンと伸ばし、凛とした花のように席に座る。

その手には配られた冊子があった。

ゆりかは配られた冊子を見ながら、読み上げられた今期の生徒会役員の名前を目でも追っていく。

そしてその中の中等部の役員の中には、よく知った名前が……


 「副会長、江間宗一郎」


 宗一郎はイケメン学園のゲームでの設定で、高校の生徒会長、今の兄のポジションに将来なる予定である。


 宗一郎君の生徒会入り――


 逃げられない宿命がまたひとつゆりかにヒタヒタと歩み寄ってきていた。

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