第35話 最終章後編 本当のアンドロイド
2046年9月4日、釈は最後のときを迎えていた。
HOT社が提供した映像システムは、羽田空港でのネルとの別れのシーンだった。
妻が釈の手を握りしめていた。
看護師の奈々未さんと主治医の西村先生が様子を見に来た。
ベッドの横には、かけつけた友人の高木シュウと新婚ほやほやの友梨奈さんがいた。
妻の友人・冬優花さんもいた。
みんなが固唾を飲んで見守っていた。
一人娘の優佳も授業が終わってかけつけた。
妻に似て、成績優秀の自慢の娘だ。
「コウちゃん」
妻が呼びかけた。
釈はゆっくりと目を開けた。
声にならない声で、釈は最後の一言を言おうとしていた。
「あ・り・が・と・う」
みんながいっせいに呼びかけた。
「コウちゃん!」
「コウ!」
「コウさん!」
「お父さん!」
釈は静かにうなずいて、息を引き取った。
主治医が脈をとりながら、モニターを見ている。
瞳孔を確認して、「ご臨終です」と告げた。
ニシムラ「いかがですか?」
ねる「これだけ、完璧に人間の意識のまま最後を迎えるなんて、すごいですね!本当にありがとうございます」
ニシムラ「やっぱり、アンドロイドにも心がありますから、電源を切ってハイ処分しましょうっていうのは、可哀想ですからね」
ねる「私の楽しかった思い出は、応援団のときのコウちゃんといつまでも夕日をながめていたことなんです。それが、アンドロイドのコウさんに同じ思い出を共有するようにセッティングしてくださって、すごい技術ですね」
優佳「お母さん、長崎の映像は?」
ねる「なつかしかったったい。もう一度帰りたかぁ思うばってん、なかなか帰られんとよ」
優佳「お母さんの長崎弁はじめて聞いた」
ねる「そうだったかしら?コウさん、ありがと」
アンドロイド・ネル 釈履行 @syakuriko
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