第13話 初恋の少女・ねるとの別れ

ねるは、高校2年生の夏にアメリカに留学した。

留学を聞かされた釈は、一抹の不安を覚えた。

旅立ちのとき、釈は「帰ってきたら、お祝いをしようね」と言った。

バイトで貯めたお金で、ねるの誕生日9月4日に合わせて9月の誕生石・サファイヤのネックレスを買った。ねるが帰ってきたら、渡そうと思った。


ニューヨークの名門私立高校に短期留学をしたねるは、ホームステイ先の夫婦に大変可愛がられた。

高校に送り迎えをする人や自動車に無差別に銃弾が浴びせらた。

事件はわずか数分間の出来事だった。事件を知った地元警察官によって犯人は射殺された。ISを信奉するイスラム系アメリカ人の犯行だった。

ねるは、16年と11カ月の生涯を閉じた。


釈は、アメリカの事件をニュースで知った。

そのときの衝撃は言葉に言い表せなかった。

両親を心配させまいと、近くの川へ全速力で走った。

釈は何度も何度も叫んだ。

「なんでだよ!!どうして、ねるなんだよう!!」

一生分の涙がとめどなくあふれた。

アメリカの銃社会が憎いと思った。

ISが憎いと思った。


ねるの喜怒哀楽の顔を一つ一つ思い出していた。

ねるの言葉を思い出していた。負けず嫌いな性格で前向きで絶対に弱音を吐かない、そんなねるが心からいとおしかった。


もう、ねるはいない。

ねるが、この世にいない。

そう思うと、自然と涙があふれた。


事件の3日後、ねるは無言の帰宅をした。

お葬式の参列者のすすり泣く声が会場にあふれた。

ねるの両親が声をかけてくれた。

「娘と仲良くしてくれて、ありがとうね」

釈は、両親に一言もお悔やみの言葉をかけることができなかった。


釈は、サファイヤのネックレスを渡せないまま29年の歳月が流れた。

(続く)

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