浜昼顔

「ふ……あ……ふ」


 夢が褪せて。頬に当てがっていた手を下ろし、ゆっくり砂の上に座り直す。


 わたしの夢は、いつも潮騒でざらざらに削られている。だから、夢には色も形もない。それじゃあ、いつまでたっても彼が現れない。でもわたしがここから離れたら、かすかに砂を鳴らしながら近付いてくる彼の足音が聞き取れなくなっちゃう。


 砂浜にうつ伏せになって、浜昼顔の耳にそっと囁く。


「ねえ、わたしはどっちで彼に逢ったらいい? 夢で? うつつで?」


 もちろん、彼女がそれに答えてくれることはない。何を言おうとしているのか、何を聞こうとしているのか。わたしには分からない。誰を待っているのか……分からない。


 それでも待つわ。わたしと彼女とで。彼をずっと。夢現のはざまで。


 体を起こし、膝を抱えて汀線を眺める。ああ、またまぶたが落ちてきちゃった。


「まだ、夢の中の方が待てる……かな」


 ざざああん……。



【 了 】



+++++++++



【三題噺】海、眠り、恋人。ただし、文中でその言葉を使わないこと。


見出し:ねえ、わたしはどっちで待てばいい?


紹介文:午睡から覚めて、再び夢に落ちるまでのわずかな現(うつつ)。傍(かたわら)にある浜昼顔とともに。



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