第51話 貶められたのですぅ! 何が?……えーと

 ドーンという爆発音を王の間の玉座で聞く雄一は目だけをそちらに向ける。


 傍に控えていたグラ―ス国王を始め、側近達が慌てふためく。


 その慌てぶりは「何事だ!」や「て、敵襲ぅ!!」などと繰り返し右往左往する体たらくであった。


 それらに嘆息する雄一は落ち着くように手を翳し、告げる。


「慌てるな、この爆発自体は運ぶ最中の事故で偶然の産物だ」

「こ、この大事に兵達は何をしている!」


 雄一に言われた内容にホッとすると急に強気になったグラ―ス国王が吐き捨てるように言うが額に人差し指を当てる雄一の次の言葉で顔を青くする。


「確かに爆発は偶発的なものだが、侵入者はいる」

「ユウイチ様、それは本当でしょうか? 本当ならそんなに落ち着いては!」


 側近の代表的な存在の老人が反応を見せると次々に不安を口にし出すのを眉を顰める雄一が舌打ちをする。


 座ったままの雄一が足裏を床に叩きつけるようにすると激しい震動が起き、その場にいる者達の身を震わせ、黙らせる。


 黙ったのを見た雄一が肘かけで肘を吐いて頬を載せる。


「慌てるな、と俺は言ったはずだ。デングラが生きてる可能性がある限り、侵入者の可能性は最初の段階で伝えておいたはず、現れた時のお前達の行動は?」

「……兵を連れてリアナ王女を人身御供にする祭壇への道を守る、です」

「そうだ、既に侵入されてるケースは出られないように阻止するだ、分かっているなら行け!」


 行け、と手を突き付けられた側近達は雄一を恐れて我先とばかりに王の間から出ていく。


 最後に出ていこうとするグラ―ス国王が振り返り、ビクつきながら雄一に質問をする。


「本当にこれで良いのでしょうか? 娘を人身御供にするところまでは分かりますが、その後、休眠状態に入る魔物を私達で狩れるというのは事実でしょうか? 危険を冒さずにおとなしくしていてくれるなら関わらない方が……」

「勿論、大丈夫だ。それに最悪の場合、俺が後詰をする。何も問題はないな」


 そう言う雄一の言葉に踏ん切りが付かない様子のグラ―ス国王に嘆息する雄一が告げる。


「王族の権威を取り戻すのだろう? 他に良い手があるなら思うようにしてみろ」

「――ッ!」


 グラ―ス国王は苦虫を噛み締めるように顔を顰めた後、黙って王の間、自分の領域である場所から追い出されるように出口へと歩を進める。


 苦悩する表情を浮かべるグラ―ス国王は唇を震わせながら心の内から溢れる言葉を洩らす。


「本当にこれが最良なのか……権力に目が眩んで最悪の選択肢を選んでしまったのでは……」


 その可能性を考え始めるが、既に状況は動き始め、変更出来る段階ではなくなっていた。


「もう、方向転換は出来ん。これが正しいと信じるしか……!」


 方向転換は出来ないが、止まる事は出来るという事実から目を逸らすグラ―ス国王は奥歯を噛み締め、王の間を後にした。




 出ていくグラ―ス国王を胸糞悪そうに見送った雄一は疲れたと言わんばかりに溜息を吐く。


 その後方から女の声で話しかけられる。


「権力の魔力に囚われた者達は本当に愚か。でも、それゆえに御しやすいわね?」

「ああ、その通りだな」


 突然、声をかけられたのにも関わらず、驚いた様子を見せない雄一は前を見据えたまま「その分、俺が疲れる」と肩を竦める。


「まあ、頑張りなさい。あの子達の配置は済ませたから私は次の場所へ行くわ。一応、聞くけど貴方がやるべき事は分かってる?」

「ああ、今回の事でゼグラシア王国を半壊させ、絶望させる。そして……」


 前を見据える雄一が口の端を上げ、獰猛な笑みを浮かべる。


「北川 雄一の名を貶める」

「上々よ。きっちりやってみせなさい。うふふ、カラシルは良い仕事をするわ」


 そう言うと女は雄一を残してその場から気配を消した。





 ミュウのやらかしで侵入がばれたアリア達は逃げているのか奥へと進んでいるのか分からなくなるような移動を繰り返していたが、何度も通り過ぎていた場所で足が止まる。


「がぅ、デンの国の兵士、優秀。ほとんどの道、塞いでいる」


 キリリ、と眉を上げるミュウがウンウン、と頷き、兵の練度は素晴らしいと称えるがダンテが呆れた表情で見つめる。


「もしかして、自分のやらかしをなかった事にしようとしてる? ミュウが我慢してたら既に祭壇に着いてる予定なんだよ?」


 ダンテの視線を嫌うミュウは明後日に顔を向ける。


 その様子から言っても無駄、そして問答してる時間はないと判断したダンテはデングラに話しかける。


「デングラ、都合良い事を言うようだけど秘密の通路とかないの?」

「うむぅ、なくはないが……ミュウが通れるかどうか……」


 確認するようにミュウを舐めるように見るデングラは真面目、ではなく少しスケベそうな笑みを浮かべながら見つめるのを見るアリア達は言い知れない不安に駆られた。


「色々、不安は残るけど、とりあえず、確かめるしかないの。通れる、通れないはその時に」


 スゥがそう言うとアリア達は頷き、ダンテはデングラにその場所に案内してくれるように頼み、アリア達は移動を開始した。




 案内された場所を見上げるアリア達は見て、デングラの言っている意味を理解した。


 ミュウも難しそうな表情をして見つめる先には通気口があった。


 アリア達であれば、問題なく通れそうだが、デングラが言うように確かにミュウではどうだろう? と思わされる。


「ここ以外はないのかよ?」

「俺様が知る限りではな」


 デングラに代案を求めるレイアであったが、あっさりとないと否定され、眉を寄せる。


「大丈夫、ミュウ、頑張る」

「良し、俺様も後ろからバックアップするぞ!」


 頑張ろうと言い合うのを見たアリア達も他に手がなさそうなのでチャレンジする事を決めたようだ。


 見上げるスゥが通気口を見て、自分の格好を見直すと首を横に振る。


「このままでは私も通れなさそうなの。剣は抱えれそうだけど盾は無理そう。アリア、お願いできる?」


 スゥに盾を差し出されたアリアは頷き、受け取るとよじ登り通気口に盾を抱えて入ろうとするが入口でつっかえて不機嫌な顔をして降りてくるとレイアに盾を差し出しながら言う。


「私では無理だった。レイア、お願い」

「アリアで無理だったらアタシでも大差ないと思うけど……」


 一応、受け取ったレイアが通気口に登り、盾を抱えて入ろうとすると抵抗なくあっさり入れる。


 短い静寂が生まれ、通気口を見上げるアリア達の耳にレイアの歯を食い縛りながら呟く声を拾う。


「アタシは……アリアより体を動かすからスマートだっただけ……きっとそう」

「ん、今日は私も否定しない」


 優しい目をしたアリアが通気口から出ている可愛らしいお尻を見せるレイアを見つめながら頷く。


 続いてスゥも無事に通れる事が分かり、アリアも続き、ミュウが登る時になった。


 気合いを入れるように「ガゥ!」と呟くミュウにデングラが男前な顔をして言う。


「さっきも言ったが俺様が付いている。秘策アリだ!」


 サムズアップするデングラに頷いて見せるミュウは通気口に窮屈そうに入る。


 それに続くデングラ、最後尾にダンテが続く。


 しばらく進むとミュウの進みが止まり、足をジタバタさせ始める。


「ひっ、ひっかかった……」


 ダンテは、デングラの体の隙間から見えるミュウのお尻の辺りで引っ掛かっているらしい事を知るが、一瞬、どこが引っ掛かってるか分からなかった。


 良く見ると短パンから飛び出すミュウの可愛らしい尻尾が邪魔してる事に気付く。


「良し! 俺様の出番だな、任せろ!」


 そう言うデングラが手をワナワナさせ、口許からだらしなく涎を垂らしながら手を前に突き出してミュウのお尻に近づけていく。


 すぐにデングラの思惑に気付いたダンテがデングラを止めようと足を掴む。


「駄目だよ、デングラ!」

「勘違いするな、これは救助活動だ!」


 どうやら秘策というのは言い訳の秘策だったようだ。


 唖然とするダンテの手を振り払い、ミュウに近づき、お尻に触れようとした瞬間、ジタバタさせていた足裏がデングラの顔に当たり、クキッという音をさせたと同時にミュウの体が前へと進む。


「がぅ! 前に進めた。デン、有難う」

「ど、どういたしまして、狙い通りにいって良かった!」


 デングラの顔を足場にして前に進む事に成功させたミュウは鼻歌を歌うようにして前に進み始める。


 首が変な方向に曲がるデングラはなんとかダンテを見つめて聞く。


「アリアに回復魔法お願いするの手伝ってくれない?」

「駄目だと思うよ?」


 なんとなく予想が付いてたらしいデングラは項垂れ、進み難そうにして通気口の中を這い続け、アリア達は兵士達の裏を掻くように祭壇の場所の目前に迫った。

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