第12話 自称女神!? どうしてアクアはいいのですぅ

 自分達の体の何倍も体積もある岩を背負いながらペーシア王国から近い山をかける少年少女の姿があった。


 ホーラから与えられた、お仕置きを実行中のアリア達であった。


 自分の倍の大きさの岩を抱えるダンテは前方でダンテより大きな岩を抱えて走るレイアに声をかける。


 ちなみに、体力馬鹿のレイアとミュウは3倍のサイズの岩を担いで走っている。


「これ、しんどいけど、想定してたお仕置きから考えたら軽く済んで良かったよね?」

「ああ、アタシは死んだ方が楽かもしれないと覚悟を決めたしな!」

「待って……僕は既に想定をとっくに超えてるんだけど……」


 汗を掻きながらではあるが笑顔で話すダンテとレイアにヒースが「冗談だよね?」と引き攣り笑いを浮かべる。


 そんなヒースに残酷な事実を告げる少女が2人いた。


「ホーラさんはそんな甘い存在じゃないの! 私は最悪、この岩に括りつけられて海に蹴り落とされるぐらいは覚悟してたの!」

「それでも昔に比べたら加減されてる。昔はシホーヌやアクアがいたから、最悪なんとかなると思ってたみたいだから」

「名前は良く聞くけど、会った事ないね。そんなに凄い人達なの?」


 アリアとスゥに告げられた事実の大半をまだ処理しきれないヒースはとりあえずどうでも良い辺りを口にする。


「良い意味でも悪い意味でも凄い人だったの」

「ん、自称女神と四大精霊の一柱の残念な水の精霊だったから」


 アクアはダンテを通して、他の精霊や四大精霊獣などを加味して断腸の想いで水の精霊とアリア達に認識されているが、シホーヌに関して回復魔法が凄い人ぐらいである。


 アリアとレイアは、他の子達と違って『自称女神』ではなく『多分、女神』というどれほど差があるかアヤシイ認識であった。


 特にアリアなど『さとり』としての能力を制限かけた相手で、いなくなった今もそれは継続させる相手である事を含めてもその認識に揺るぎはないらしい。


 また処理しきれない情報を放り投げられたヒースは遠い目をして言う。


「そんな酷い目を遭ってきても、そのお仕置きを恐れずに好き勝手するみんなって凄いよね?」


 4人の少年少女はヒースと違う方向を見つめて遠い目をする。


 若さがいけないらしい。


 分かってても止まれない、止められない事があるようだ。


 負けると分かっていても行ってしまうパチンコに行く大人と大差はないのかもしれない。


 そんな中、馬鹿話をするヒース達に関わらず、黙々と先頭を走るミュウの姿があった。


 みんなの視線が自然にミュウの後ろ姿に集まると難しい表情で顔を見合わせる。


「ミュウ、少し雰囲気が変わったよな……」


 そう呟いたレイアの言葉に皆が頷くとカラシルに逃亡された後の事を思い出し始める。





 悔しいのか悲しいのか分からずに顔を俯かせるホーラに顔を向けるが目を伏せるテツが、足下が覚束ない感じでアリア達の下へとやってくる。


「ダンテ、ミュウの様子をしばらく見ててあげて気を失ってるだけのようだから」

「え? あ、はい」


 テツにそう言われると思ってなかったダンテはドモり気味に答える。


 こういう時のテツであれば気を失うミュウを抱えて外に出ようとすると思ってた為である。


 戸惑い気味のダンテを置いて、心配そうにミュウを見るアリア達にテツは話しかける。


「アリア達は俺に着いて来て」

「テツ兄、ミュウを放っておくのは……」


 レイアがそう反応するがテツの静かな瞳に黙らされる。


 レイア以外も言葉にしないテツの想いに何も言えなくなり立ち上がる。


 それを見たテツはゆっくりとこの部屋から出て行く。


 部屋を出て少し歩きながらテツは語り始める。


「俺も今回のアリア達の行動は軽率だったと思う」

「だから、今回の事は前回と違って事情が……」


 アリアが先程言いかけた言葉をもう一度、口にしようとするがテツは静かに被り振る。


「そんな小さい事じゃないんだ。これは君達にしっかり伝えられなかった俺達のミスでもあり、君達に優し過ぎたユウイチさんのミスでもある……」


 雄一のミスと告げる時のテツは凄く悲しそうにする。


 テツは雄一の想いを理解するがそれが裏目に出ている事をアリア達に告げる必要性と辛さに耐える。


「どういう事なの?」

「そうだね、特にスゥはもっと早くに知るべきだったかもしれない。理屈ではミレーヌさんや兄であるゼクス君の事を理解してても『少しぐらい助けてくれても』と思った事があるんじゃないかな?」


 テツに言われて、まったくない、と言えないスゥは沈黙する。


 責めてる訳じゃないとばかりに静かに被り振るテツは続ける。


「ミレーヌさん、ゼクス君、そして、ポプリさんが戦っているモノの一端を見せてあげるよ」


 まだ葛藤と戦っている様子のテツが辛そうにそう言い、アリア達を連れて研究所の奥へと足を進めた。



 しばらく歩いたテツはある扉の前に来ると振り返る。


「まずは、この部屋の中に入って一周してきてごらん。もうダンテは見たよ」


 中には敵は居らず、安全だ、と告げるテツに頷いたアリア達は頷くと扉を開いて中に足を踏み入れる。


 踏み入れた先は研究員達のデスクが沢山あり、そこにはテツ達に殺されたと思われる研究員達の姿があった。


 一瞬、それに顔を顰めるアリア達であったが、レイアが誰となく問う。


「これを見ろ、って事か? 気持ちの良いもんじゃないけど……テツ兄は何を伝えようとしてるんだ?」

「分からない。心の色も悲しさで一杯になってただけで……テツ兄さんが自分で斬り殺した相手に心を痛めてるとして私達にわざわざ見せるとは思えない」


 辺りをキョロキョロしていたヒースが言ってくる。


「待って、まだ奥があるみたい」

「本当なの。死体に目がいってたから気付かなかったの」


 アリア達がいる入口から死角になっていた場所に先に続く扉があった。


 死体を避けながら歩くアリア達はテツの言葉に従い、一周する為に奥の扉を開けて入って行った。


 中に入ると透明なガラスの大きな筒状のモノが沢山あり、淡い光にあてられていた。


 それを覗き込むレイアは首を傾げる。


「なんだ、こりゃ? 内臓っぽいけど?」


 普段から解体などをしてるレイア達はそういう物を目にする機会は多く、嫌悪感もなく見つめられる。


 だが、それをわざわざ保存するようにしてるのが不思議とばかりに前に進む。


 すると内臓から徐々に解体前に逆再生するように保存するガラスの筒が並んでいる事にアリア達は気付く。


 その形がどんどん見覚えがあるものへと変わっていくのに顔色を悪くしていく。


「嘘……」


 と呟くスゥは顔色を真っ青にして口許に手をあてる。


 顔を青くするのはスゥだけでなく全員であった。


 最後のガラスの筒に保存されていたのは、生まれたてと思われる赤ん坊であった。


「何なんだよっ!!」


 処理しきれない思いを爆発させるようにレイアは地面を踏み抜き、地面に亀裂を入れる。


 同じ思いを共有するアリア達であったが、目の前に奥へと続く扉がまだあった。


 この奥を見たくないという気持ちと気になる気持ちがせめぎ合うが、テツに一周して来いという言葉が後押しになってアリア達は奥への扉を押し開いた。





 テツが待つ、部屋の外へとアリア達は真っ青な顔をして駆けて帰ってくる。


 自分達の視界にテツがいる事に安堵した瞬間、4人は蹲り、その場で嘔吐する。


 嘔吐する子供達の背を優しく撫でて行くテツがアリア達に聞く。


「奥まで見てきたかい?」

「……はい、手術室、いえ、解体室まで……」


 気合いで吐き気を飲み込んだヒースが掠れ気味の声であったがテツに返事すると悲しそうにするテツが「そうか……」と告げる。


 吐くだけ吐いたレイアが口許を拭い、涙目でテツを睨むように叫ぶ。


「何なんだよ! アレは!」

「あれがユウイチさんがレイア達に知られないように、そして、俺やホーラ姉さんにも極力関わらせないようにしてた人の闇の部分だ。ユウイチさんはずっとこういうモノと戦い続けていたんだ」


 告げるテツの言葉にアリア達は固まるが、ヒースは少し立ち直るのが早かった。


「爺に聞いた事があります。ザガンでも昔に横行したらしいようで、人が物の価値より低かった時代があったって」


 その残酷さを10歳にもならない少年に聞かせる老人は酷いと当時、ヒースは思ったが、こういう事に遭遇した時の事を想定して心を鬼にして話してくれたのだろうと今になって理解する。


 ヒースに頷いてみせたテツがスゥに目を向ける。


「ユウイチさんがいた時であれば、こういう相手も減っていった。抑止力になっていた。だが、今はそうじゃない」


 まだ青い顔をするスゥを追い詰めるような事を言う事を自覚するテツは悲しそうする。


「国を荒らす者、そして、こういう人の命をモノにしか見えない者達を阻止する為に国は動かないといけない。敵となる存在は至る所に居る。どこから現れるかも分からない。そんな状態で国は一般の国民を敵にする訳にいかない。分かるね?」


 だから、ナイファ国、パラメキ国、ペーシア王国ですら、国としてアリア達の擁護を一切しないのである。


 いくら、大恩ある雄一の愛し子達であったとしてもである。


 その僅かな想いですら、利用されかねない悲しい事実があった。


「ごめんね、俺はこういうのが得意じゃない。上手くみんなを諭してあげれれば良かったのに、と思う。でも、君達の軽率な行動をこれ以上、放置する訳にはいかない。いつまでも子供でいられない。もう君達は世間で一人前とされ、そして、それ以上に君達がこれから進む先は大変なんだ」


 黙るアリア達が今ある情報をどう処理したらいいか、悩んでいる事を理解するテツは優しくみんなの肩を叩いて行く。


「今、ここで答えを出す必要はない。でも早い段階で出さないと後悔を後悔するするよ?」


 まるで謎かけのように言うテツは「戻ろうか」とアリア達に告げると元の部屋へと戻っていった。





 部屋に戻ると意識を取り戻したミュウが三角座りしながら空いた天井の穴から見える空を見つめていた。


「……ミュウ、大丈夫?」


 まだ立ち直ってないアリア達に代わってヒースが問いかける。


 ガゥ、と鳴くミュウが笑みを浮かべてアリア達に顔を見せる。


 だが、その表情を見せられたアリア達の胸は締め付けられる。


 歯を見せて大きな笑みを見せるミュウであったが、そこにあるのは凄く透明で儚さで一杯であった。


「大丈夫、もうミュウ、間違わない。ユーイが教えてくれた事、思い出した」

「えっ?」


 先程まで雄一の話をしてたので、少しビックリしたスゥの口から驚きの声が漏れる。


「ユーイ、言った。力、常に全開ダメ。必要な時に瞬間的に爆発させる。力も感情も自分のモノにするのが大事」


 再び、空を見つめるミュウ。


「ミュウ、ユーイに『忘れるな』と言われた事、忘れたから負けた。もう忘れない。次は絶対に忘れない」


 そう語るミュウの背中がいつも以上に小さく感じられ、壊れてしまいそうに感じたアリア達、少女3人は先程の事で動きが止まっていた感情が爆発する。


 ミュウに駆け寄る3人が抱き着くと3人は声を上げて泣き始める。


 ミュウの傍にいたダンテは、そっとそこから離れてヒースの隣にやってくる。


 やってきたダンテにヒースは短く伝える。


「僕も見てきたよ」

「そう……」


 これだけでお互いの想いを理解し合う2人。


 自分達がいかに幼いかと叩きのめされたダンテ達であった。





 まだ整理がついたとは言えないが、家族の心配ができる程度には復帰したアリア達が大岩を抱えて走るミュウを見つめる。


 どうしたらいいか分からないアリア達であったが、レイアがおそるおそるに声をかける。


「その……ミュウ、大丈夫か?」

「がぅ?」


 レイアの言葉にくぐもった声で返事するミュウが振り返る。


「はあぁぁ!?」


 振り返ったミュウを見たレイアが素っ頓狂な声を上げる。


 何故なら、振り返ったミュウがビーフジャーキーを口に咥えていたからであった。


「静かだな、と思ってたらそれを食べてたから静かだったの!?」


 思わず、キレ気味で怒鳴るスゥに慌てたミュウはビーフジャーキーを咀嚼する。


 ごっくん、と飲み込むと太めの眉をキリリとさせる。


「残念、もうない」

「そういう事を言ってない!」


 珍しく怒気を見せるアリアがミュウに距離を詰めるように速度を上げる。


 続け、とばかりにレイアとスゥも前に出る。


 ビックリした様子のミュウが慌てて逃げ出すので更に加速する3人。


 それを見送る少年2人は溜息を零す。


「女の子は強いね?」

「だね、ウチのは特にね?」


 ダンテとヒースは顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。





 海辺の傍にある家で考え込むホーラと梓の手入れをするテツがいた。


 すると、玄関をノックする音に気付き、気付けば2人が同時に玄関にきて、テツが玄関のドアを開ける。


 開けた先には眼帯を付けたドワーフの老人が一礼してくる。


「いきなりの訪問スマン。こちらにヒースという茶髪の少年はいるか?」

「失礼ですが、どちら様ですか?」

「テツ、いいからガキ共を連れ戻してきな。訳ありそうだけど、悪い爺さんじゃなさそうさ?」


 テツもそう感じていたが一応、聞き返したが、ホーラはそれ以外に何かを感じ取った様子で急げ、とテツを急かす。


「感謝する。ヒース坊っちゃんにはザバダックと伝えれば分かるはず」

「分かりました。すぐに呼んできます」


 そういうとテツは外に飛び出していく。


 残されたホーラとドワーフの老人、ザバダックは顔を見合わせる。


「テツが戻るまで少し話を聞かせて貰ってもいいさ?」

「ああ、ワシが知ってる事であればな」


 そう言うザバダックにホーラは顎をしゃくるようにして「入りな」と告げると奥の部屋へと2人は向かった。




 1章 了

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