第60話 00 

 合格発表の結果が張り出された。


 前回とは違い、合格者の名前だけが書かれ、特待生には印がついていた。そして、最初にその名前があったので、目についた。


◎ソロモン ◎リーン  ◎00-MKⅡ


 特待生の3人の名前の中にリーンの名前があった。後の2人のうち1人の名前が00-MKⅡと数字と記号になっていった。受験番号か何かと間違っているようだった。


 俺は自分の名前を探した。俺の名前はすぐに見つけることができた。4列に10人ずつ名前が書かれていたのだが、1列目で見つけることができた。特待生ではなかったが、今の俺はお金の心配をすることはないのでどうでもよかった。


 俺はカイン達の名前も探してみた。どうやら、2人とも受かっているようだった。

しばらくすると、3人が俺のところへとやって来た。


「特待生に受かってたわ。それにしてもアギラは1日目の試験が悪かったのによく受かったわね。」


「実技試験で挽回できて良かったよ。」


「えっ。アギラって魔法も得意なの?」


「それなりに使えるよ。」


「でも、2日目が満点でも受からないと思ってたから・・・もしかして、試験官を力でねじ伏せちゃったの?」

リーンは俺が魔法を使ったのを見たことがないので、俺が魔法を得意な事を信じてないようだった。


「アギラは隷属の首輪を破壊できるほどの力を持ってますからにゃ。」

ミネットが同意した。


「えげつねぇな。」

カインが呟いた。


いやいや、そんな事しませんよ。

「それよりも聞いた?なんか、全属性を使った受験生がいたって噂が流れてるんだけど。誰かは分からないらしいのよね。」

それは、たぶん俺の事だ。そういえば、昨日の試験で名前を呼ばれる前に、試験を始めた気がするな。自分で言うのは嫌だったが、いい機会だ。話の流れ的に俺が全属性を使えると言っても自慢話のようには聞こえないだろう。


「アタシも聞いたにゃ。何か中二病をこじらせたようなダサイ詠唱にもかかわらず、次々と魔法を使ったらしいにゃ。」

・・・・・俺は、黒歴史を封印する事にした。


「へー、そいつは凄いな。でも、その詠唱には興味があるな。」

俺は、相槌をうった。


「えげつねぇな。」

は?何が?流行ってんのか、それ?言いたいだけだろ。俺はカインの呟きに心の中で突っ込んだ。


 その後、合格したものは、今後の説明を受けた。

 魔導士学園には、付属の寮があるので、遠方から来ている者は利用できるらしい。

そして、授業は基本的に午前中だけで、昼からはそれぞれが興味ある研究を集まってするという事だった。


 古代魔術研究部や召喚研究会、新魔法研究会などいろいろな集まりがあり、魔導士学園のOBや先生などと一緒に研究するそうだ。特別クラスは昼から、そのいずれかで研究に携わってもらいたいとの事だった。1つでもいいし、4つまでなら、かけもちしてもいいらしかった。


 俺はひとまず付属の寮を利用する事にした。リーンとカインとミネットも寮を利用するようだった。


 一週間後、初回の授業が始まる事になった。

 俺は授業が始まる30分前に教室に到着した。ちらほらと生徒が席に座っていた。教室には2人掛けの椅子にそれより少し長い机のセットが横に4列、縦に7列あった。席は毎回どこに座っても良いようだった。


 俺は窓際の一番後ろの席に座ることにした。

しばらくすると、リーンが教室へ入ってきた。


「隣、座ってもいい?」


「いいよ。」

リーンは俺の隣に座った。その後、カインとミネットもやってきて、俺の前にカイン、リーンの前にミネットが座った。教室を見回すと、鳥人や天狗族、蜥蜴人リザードマンなど一目で人間と違うとわかる種族が何人かいた。


 教室の中は、人の姿をするものが大半を占めていた。だがその全てが人族というわけではない。小人族や吸血鬼ヴァンパイアなどは外見からでは人族と区別ができないし、人魚族等は魔法で自分の尾を人間の足に変える事ができると聞いたことがあるからだ。


 教室を見回しながら、今いる人数をパッと数えたところ俺を含めて39人しかいなかった。

 そろそろ授業が始まろうとする時に、扉が開き最後の1人が入ってきて、ミネットの前に座った。


 俺はその最後の1人を見て驚いた。

その最後の1人はロボットだったからだ。全身を覆っている素材の質感は鉄ではなく陶器のような質感を感じさせた。そして、目の部分は光が不規則に点滅を繰り返していた。

ミネットの前に座った瞬間にミネットが声をあげた。


「初めて見たにゃ。ゴーレムにゃ。」


「そうだな。」カインが同意する。


「そ、そうね。ゴーレムね。」リーンも同意する。


『いや、どう見てもロボだろ。』俺は心の中で反論する。


 肘や膝、首の部分から何本か配線が見えているのである。ゴーレムとは泥や土が魔力の力によって自我を持ち、産まれ落ちた土地の守護者となるとルード皇国時代に習った。体全てが土や泥でできているはずなので、配線が見えているのはおかしいはずなのである。


 ただ、ルード皇国は1000年以上も外界との接触を断っていたので、その間にゴーレムが進化したという事も考えられた。


「アタシはミネットにゃ。よろしくにゃ。喋れるのかにゃ?」

ゴーレム(?)は首だけを180°回転させて、顔をミネットの方に向けた。


「ワ・タ・シ・ハ00-MKⅡゼロゼロー・マークツート・イ・イ・マ・ス。ヨ・ロ・シ・ク・オ・ネ・ガ・イ・シ・マ・ス。」


いやいや、マークツーとかやっぱりロボだろ・・・・


「にゃ、にゃ、にゃ。喋ったにゃ~。ゼロゼロ・マークツーは呼びにくいから、ゼロでもいいかにゃ?」


「カ・シ・コ・マ・リ・マ・シ・タ。<ゼロ>・デ・ニ・ン・シ・キ・カ・ノ・ウ・ニ・シ・マ・ス。」

目の部分が不規則に点滅を繰り返す。そして、授業の始まりのチャイムが鳴ると、また首を180°回転させて、前を向いた。


 ミネットは、右に左に机に身を乗り上げて、ゼロの背中を見ていた。その目は爛々と輝いていた。


「では、初回の授業は特別講師に来てもらいました。この学園の卒業生でもあり、大魔導士の称号を国王から授かったティーエ先生です。では、どうぞ。」

その紹介で、前の扉が開いた。そこから、パレードの時に馬車の上に乗っていた1人の女の子が入って来た。みんなの前に立つと、その女の子は自己紹介を始めた。


「私の名前はティーエといいます。よろしくお願いします。私は4年前はここの生徒でした。そして、ジーク達と一緒に北の大陸へ『奇跡の水』を求めて旅に出ることになりました。私はそこで自分の無力さを痛感させられたのです。私は魔法の才に秀でていると思っていましたが、そんな事はありません。世界は広いのです。まだまだ、私たちの知らない魔道の道が存在しています。私はこれから、教える立場という、今までとは逆の立場になりましたが、魔道の道を究めるために今まで以上に頑張っていこうと思います。あなた達も自分の力に驕らず、魔道の研鑽に励んで欲しいです。・・・」


 みんながティーエ先生の話を聞き入っている中、俺は別の事を考えていた。パレードの時も感じたのだが、ティーエ先生とはどこかで会った事があるはずだった。だけど、思い出せないのである。思い出そうとすると、何故かパンツが頭の中にイメージされるのである。ティーエ先生・・・パンツ・・・・ティーエ先生・・・パンツ・・・パンツ・・・パンツ・・・・


 俺はその時、2年前に洞窟で起きた出来事を思い出した。あの時は酔っぱらっていたので、記憶が微妙に曖昧ではるが、ティーエ先生にした事は、はっきりと思い出した。


『やばい。』

俺は机に頭をつけ、寝たふりをした。顔を隠すためである。俺は寝たふりをしながら考えた。


『てことは・・・もしかして、『奇跡の水』って師匠の薬の事か・・・・』


 俺はこれまでに聞いた情報のパズルが、全て組み合わさった気がした。

 ジークやティーエ達は師匠の薬を求めて、北の大陸を縦断したという事だろう。


 という事は、俺があの時やった事は・・・・


 俺はティーエ先生とは顔を合わさないでおこうと決めた。恨まれている可能性すらあるのだから。

俺の思考は授業が終わるまで続いた。


「それでは、今日の授業はこれまでにします。では、また。」

そう言った後、教室を出て行くかと思ったら、俺の方にティーエ先生が近づいてきた。


『もしかして、洞窟にいたのが俺だとばれたか?』

どんどんとこちらの方へとやって来る。


『まずい。まずい。謝って許してもらうしかないか・・・』

俺の心臓の鼓動が早くなる。


ティーエ先生は俺の机の横、つまりリーンの座っている横までやって来た。

『土下座だ。土下座で、許しを請えば許してくれるだろう。』

ティーエ先生は口を開いた。


「あなたは、リーンさんですね。ご家族の方から伝言を預かっています。」


・・・・・どうやら俺の事ではないらしい。




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