5ー9
ジルドレは、一歩ずつ。踏みしめるように階段を登った。
あと数分もしないうちに、自分は天に召される。
あの方と同じ、火刑を望んだが聞き入れてもらえなかった。
どうやら今の流行は、
最上階まで上がり、舞台の上から見下ろす。
民衆はこれから起こるであろう狂宴へ期待を寄せ目をぎらつかせている。
この群衆の中に、昨日訪れた男と少女もいるのだろうか。
もう一度、あの美しい銀髪を拝みたいと欲も顔を出したがすぐに萎んだ。
「これから旅立つというのに愚かなことだ」
独りごちた。
処刑執行人に促されるまま、屈伸し首を台に固定される。
頭上には、何でも斬り落とすと言わんばかりの、厚い刃が輝いていることだろう。
執行官が挙げた手を振り下ろす。
その合図と共に、執行人がロープで固定された断頭台の刃を斧で断つ。
軋みと摩擦音をさせながら一瞬にして刃は首めがけて押し迫った。
「パチンッ」
ひとつ、指を鳴らす音が響いたかと思えば、辺りを包んでいた歓声は静止する。
真紅のローブに身を包んだ壮年の女が、目深にかぶった帽子を指で持ち上げ、気持ちいい笑顔を浮かべる。
その時、聞こえるはずのない音がこだました。
それは鐘の音だった。
鐘の音と共に、白馬にまたがった甲冑姿の少女。手には祖国の旗をもち、颯爽と現れた。馬が駆けるたび、そのきらめく銀髪は美しくなびいた。
「ーーっ」
ジルドレは一筋の涙を流した。
もう、叶うまいと思って願って、焦がれた姿を再び目にすることが出来て。
甲冑姿の少女は断頭台そばまで駆け寄り、馬から降りる。
少女はジルドレに語りかけている。
だが音はもれず、虚しく少女の口は無音の言葉を紡いでいた。
だがジルドレには充分だった。それ以上、なにを望むというのだ。
「……ジャンヌ。今もお慕いしている」
ジルドレの言葉に、ジャンヌが一瞬、はにかんだようにみえた。
ジルドレは静かに目を閉じた。
それを見届けたモルガナが手を挙げ、指を鳴らそうとした時、別の場所から音が聞こえた。
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