5ー8

 大きな歓声に包まれる広場。

 娯楽の少ない街ならどこでも同じような光景だ。

 今日は、大量殺人を行った極悪人を処刑する日。

 その瞬間を見ようと、広場には街の殆どの住人が集まっている。


 中央の高台に設置されているのは、断頭台。

 首を斬り落とすための処刑器具。

 唯一、男が過去に製作した処刑器具だった。


 当時の国王に依頼され、一発で首と胴を別つ器具を作って欲しいと言われ、考案したものだ。

 そのあとも幾度も使用されたのだろう。

 刃には洗っても拭いきれない血の跡が染み込んでいるように思えた。

 これから始まる狂宴に白熱する民衆の中、男とルニアは固唾を飲んでいる。

「ご主人様、大丈夫でしょうか?」

 ルニアは不安げな声を男に投げかける。

 男はルニアの手を握り小さく微笑んだ。だがすぐにその笑みを消す。

「師が、全て取り計らってくれる」

 男も一抹の不安はあった。


 モルガナが去った夜、泊まる宿に手紙が届いていた。

『ご機嫌麗しゅうございます。今宵はブラドさまにお願いがあり筆をとりました。明日、執行される処刑ですが、何もされませんこと。重ね重ね、お願いする所存です』

 文末には、エリザベスの署名があった。

 エリザベスが今回のことでどんな風に関わっているのかはわからない。

 男はなにも処刑を辞めさせたい訳ではない。

 ただ執行される時に処刑人の願いをひとつ叶えてやるだけだ。


 そうこうしている時、一層の熱気が辺りに湧き上がった。

 馬車が引く檻にジルドレの姿を見たからだ。

 民衆から降り注ぐ、罵詈雑言の数々。それを黙してただ受け止めているジルドレ。

 処刑執行人に手錠に繋がれた鎖を引っ張られて歩く。

 ジルドレは真っ直ぐに広場中央にある断頭台から視線を外さないでいた。

 その姿を見守るのは男とルニアだけではない。

 木陰から、睨め付ける視線があった。

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