5ー7

「ふ、ふふっ……」

 狭く薄暗い牢屋で起こった奇跡をジルドレは思い出していた。

 ーー奇跡。

 久しく忘れていた言葉。

 いや、記憶の奥へと封じ込めていた呪いの言葉だ。自分にとっては……。


 長身の紳士が連れていたのは、どこにでもいる子女だった。

 だが、あの方のように美しい流れるような銀髪をしていた。

 名前は確かーー、

「ルニア」

 生き物の吐息は自分だけで他は闇が全て飲み込んでいる。

 自分が呟くルニアという音だけが響く。

 私は正直に生きた。好きなことをして死ぬ。

 あの方に惹かれ国を救い、あの方を守れず心を病んだ。

 だが神は最期に、奇跡を起こしてくれた。

「神よ、あの方が天に召される時、侮辱した言葉を投げかけたことをお許しください」

 ジルドレは胸の前で十字を切りこうべを垂れた。

 刑が執行されるのは明日、奇しくもジルドレにとってのが召された日と同じだった。

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