第126話開戦前1

「みんな、食いながらでええで聞いてくれ」


 美奈が拵えてくれた夕餉に舌鼓を打ちながら、俺は都で行うランチキ騒ぎについて、大まかな説明をした。とは言っても、各個人にはそれぞれ通達済みなので、確認の意味が大きい。


 まずは治療班。これはヨシヒロとハクト、そして桃子に請け負ってもらう。足掛かりとしては、三谷の友達や高桑のカノジョを一つの宿屋に集めて、中毒症状の改善を図る。それと同時にスパイスの中毒に苦しんでいる者への治療が行われている事を、口コミで広げる。その中で、カナビスの存在をチラつかせ、スパイスの株を大暴落させる。


 次に襲撃班。これはひーとん、緑、イナリにやってもらう。主に遂行させるのは、スパイスの生産場所を特定し、それを無力化する事だ。具体的な方法は彼らに任せるが、スパイスの供給源である『もくもく亭』の店員は、明らかに雇われだったので、チョイと脅しをかければフルオートみたいにベラベラ喋るだろう。

 問題は、その先に二一組の連中が、確実に絡んでくる事だ。ソイツらはコウヘイくんの仇でもある為、ひーとんたちが私怨に支配され、目的を失ってしまう恐れもある。その辺は、本人たちに気を付けてもらうしかない。


 そして撹乱班。これは俺とあんず、そして高桑が受け持つ。『もくもく亭』とズブズブな関係を持つ賭場を、メチャクチャにしてやる。その前にすべき事は、成瀬兄弟に引導を渡す事だ。俺にとっては、それが最優先事項だ。スパイスの根絶は、そのついでと言っていい。しかし、あの兄弟を潰す事は、賭場を俺たちの土俵にまんまと上げるいい釣り針になるはずだ。

 高桑と再会した雀荘のシステムを逆手に取れば、賭場の財産と免状を分捕れる。相当な額の貝が舞い込んでくる事になるが、それは別にどーでもいい。賭場の営業許可証さえ手に入れば、もくもく亭とのパイプを断絶する事ができる。


「大体こんなカンジだわ。何か質問ある人おる??」


「んだよー。拓也だけ遊びに行くようなもんじゃねーか。お前ももっと働け」


 俺は質問があるかないかを聞いたのに、この刺青ジャンキーは俺に対する愚痴をこぼしやがった。お前、俺にそんな態度取ってええんか?ヨシヒロとの仲グッチャグチャにしたんぞ?

 俺の言葉にちゃんと答えてくれたのは、その緑が密かに想いを寄せ始めたヨシヒロだけだった。彼は、都に持っていく分のカナビスをどれだけ用意すればいいのか、把握し切れていない様子だった。


「一応、家を出る前に畑全部に種を蒔いてきたから、丁度明日くらいに収穫できるんだけど、それだけで足りるのかなぁ…」


「だったら種も持っていこまい。聞いた話だと、都で消費される食い物を育てる畑が近くにあるみたいだで、そこにこっそり植えたろうぜッ!確か2~3日で収穫できるんだったっけ?」


 そう提案すると、ヨシヒロは賛成してくれた。自分で言っておいて何だけど、できれば植えた種を収穫する前には都を出たいのだが、襲撃班と撹乱班はいいとして、治療班にはそれなりの時間が必要になるかも知れない。暫く都に留まる覚悟はしておいた方がいいかな。

 カナビスの件については解決したが、新たな問題をひーとんが遅ればせながら提示した。移動についてだ。


「おい、今ちゃん。都までどーやって行く?助手席にはあんま乗らねーから、コンテナに乗るスペース作ろっか??」


「そうしてまえるなら助かるけど、全部乗るかなぁ…」


 俺が危惧しているのは、貝を運ぶのにもひーとんのトラックをアテにしていたからだ。ただ貝を都に持ち入れるだけならカード化してしまえばいいのだが、俺には一つ考えがあった。それは、ある程度の額を現ナマで持っていく事だ。俺としては、100万くらい持って行きたい。

 何故なら、門の所で貝の運搬を買って出る連中に、『俺が大量の貝を持ってきた』事を見せ付けたいからだ。そうすれば、イヤでも俺の噂が流れる。成瀬兄弟を誘き寄せるには充分なエサになるだろう。それに、タネ銭は多い方が、向こうを熱くさせられる。レートを引き上げるには、大枚をチラつかせるのが一番だ。

 しかし、100万の貝となると、袋の塊で50袋だ。それをトラックに積んでもらったら、人が乗るスペースを確保できるのか。問題はそこだ。


「あのぅ…、ちょっといいですか…??」


 トラックにどうやって荷物と人を乗せるか考えていると、ミコト同士の話にはあまり入ってこないあんずが、珍しく自己主張をしてきた。しかも何やら恥ずかしそうにしている。一体どんな要望を要求するのだろう。


「アタシ、たくちゃんとゼッちゃんで行きたいですッ」


 『ゼッちゃん』とは、いつの間にかあんずが付けていたZ2のあだ名だ。どうやら彼女は、あのバイクをかわいいと思っているらしく、ちゃん付で呼ぶようになったのだ。俺からしたら、その感性の方が何億倍もかわいいのだが…。

 とにかくあんずのご所望により、俺たちはタンデムで都に向かう事になった。これでトラックに乗る定員が二人減った。それだけでも、スペースを節約するには充分だ。俺が半日がかりのロングライドを熟せるかどうかは、あんまり自信ないんだけど…。


「あ、僕とハクトはコンテナでいいよ。助手席は女の子に譲らないとね」


「じゃあ、私とイナリもコンテナに乗るわ。助手席には桃子が座りなよ」


 ヨシヒロと緑がコンテナ乗車を買って出てくれたお陰で、必然的に桃子が助手席に乗る事になった。緑のヤツも、一応はひーとんの恋を応援している様だ。いや、待てよ。コイツ、ただヨシヒロと一緒に居たいだけじゃねーか?怖いからヨシヒロには貞操帯着けさせとこ。


「貝の袋50コと四人かぁ…。しゃあねぇ、も一個コンテナ繋げてフルトレにするか」


 何だよ。そんな事できるなら最初から心配いらなかったじゃん。っていうか、そんな長くしてあの山道走っていけるのか?内輪差とかエグい事になりそうだけど。まぁ、運転するのは俺じゃないから別にいっか。

 大よその問題点を洗い出し、解決策が見つかった所で、俺たちは食卓に並べられた食い物を全て平らげた。明日の朝、ヨシヒロん家経由で都に向かう事を決め、出発までを束の間の自由時間にした。俺はZ2を取りに、あんずを連れて多々良場に戻るとするか。桃子は緑にLSD刺青を施してもらうみたいだし、ひーとんとヨシヒロもカナビス晩酌を楽しむらしい。


「ほんじゃー、みんなまた明日なーッ!」


「おやすみなさーいッ!」


 そうして俺とあんずは手を繋ぎ、多々良場への帰路に着いた。

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