第28話思惑2

「じゃあ、改めて今泉くんのやりたい事、作りたい物を聞かせて貰えるかな?」


 うぜぇ。何でこいつは常に斜に構えた喋り方すんだよ。

 約束通り、氏家は翌日に大量の貝を持参して俺とあんずの住む多々良場に顔を出した。俺の願望を実現させる為だ。それにはこの場所で行う製鉄と、それを加工する技術、人材、必要なものはこの氏家に頼らなくてはならなかった。

 昨日突然現れて、あれよあれよとこいつの立てた道筋に乗ってしまっているこの状況が、俺にはたまらなく不愉快で仕方なかった。


「この多々良場で武器を製造して、『水芭蕉』の奴らに喧嘩を売る…。違ぇな…。『仕返しをする』…だな」


 俺が手水政策を受けてこの世界に飛ばされたその日、右も左も分からない俺を有無を言わせずに襲って来たゲトー共に引導を渡さなければ、俺の気は収まらなかった。しかも、その間にシゲさんにまで手をかけやがった。まぁ、その件はあんずが片付けてはいたのだが、こんな事がまた起る様ならたまったもんじゃない。調子に乗っている彼奴らを、放ってはおけないのだ。


「オーケー。で、君が作りたい武器っていうのは具体的には何なんだい?」


 俺がこの世界で目にした衝撃的な物は、ゲトー共が乗っていたバイク、桃子のミシン、美奈の社、それと氏家が作ったコヨミだ。これらが実存するならと、俺が考える武力を行使出来る物、それは…


「『拳銃』だ」


「け、拳銃ッ!?また難しい物をチョイスしたね…」


 俺の提案は、氏家を驚かせてしまった様だ。昨日初めて会った時こいつは、『作りたい物も決まったみたいだし…』そう言っていた。全てを把握されているのかと思っていたのだが、何を作るかまでは分かっていなかったみたいだ。


「作れんとは言わせんぞ。バイクみてーな複雑なもんが実際この世界にあんだ。拳銃くらい余裕だろ?」


「必要な物が増えてはしまうけど、君が望むなら実現は可能だよ」


 その氏家の言葉が、妙に俺の心に引っかかった。まだ拳銃が作れると決まった訳ではない。しかしこいつは『実現可能』と言い切った。その根拠は何なんだ。


「おめぇも美奈みてーに含んだ言い方すんだな…。俺が言うのもなんだけどよぉ、どーやって拳銃なんか作るんだて?」


「どうやって…か。そうだね、今の内に調べておこうか」


 そう言って氏家は目を瞑り、黙りこくった。何をしているのか分からないまま彼の沈黙は暫らく続き、このまま死んでくんねーかな、なんて思っていると、あんずが何かの異変に気付いた様だった。


「たくちゃん、この人から変な音がしますよ?ウィーンとか、ジーッとか…」


 耳を良くすましたが、俺には聞こえなかった。人間には感知出来ない小さな音を、あんずは聞き取っていた。今更童子の身体能力に驚きはしないのだが、あんずの言う事が確かならそれは機械音だ。

 …え?機械音?ってことは、氏家って……。


「あ、今泉くん。もしあれば好きなピストル教えて。その方が絞りやすいから」


「え…?あ、あぁ。M1911A1だ。コルト45…」


「オーケー。用意する物と、作業手順が分かったよ。まずは……――――」


 俺が問いに答えると、氏家は今ここで調べた事柄を箇条書きの様に述べ連ねた。何かを読んだり、使ったりした形跡は何も無い。こいつはただ目を暫らく閉じていただけだ。それにあんずが耳にした機械音…。これらを総合すると、一つの疑惑が浮き彫りに挙げられてしまう。


「う…氏家…。お前って、もしかしてさぁ…。人間じゃねーの…?」


「失礼なッ!ちゃんとした人間だよッ!」


 確かにこいつにしてみれば今までで一番人間らしい返答だった。しかし、説得力に欠けていた。だって目の前で何もない所から情報を引き出したんだもん。人間業じゃねーよ。


「じゃあ、どーやって調べたんだてぇッ!おめぇただ目ぇ瞑っとっただけだがやぁッ!」


 氏家に釣られて俺も声を荒げてしまった。

 俺の疑問に対して氏家は一息置いてから、諭す様に静かに語り始めた。


「本当に俺は君と同じ人間だよ。でも君と違うのは生まれてきた時代なんだ。俺は君が生まれたよりも、もっともっと後に生まれたんだよ。俺がいた時代は、身体に機械を取り入れるというのは当たり前の事なんだ。君にはすぐに理解出来ないと思うけど…」


 氏家が言うには、彼の身体には人工知能や通信端末などの機械が無数埋められていて、それらを駆使すれば、必要な時に必要な情報を検索出来ると言うのだ。インターネットに繋がったパソコンが頭の中にある感覚なのだろうか。

 なるほど、それならこいつが俺や桃子の過去を知っていた事にも筋が通る。国が行っている手水政策の被行者の情報が管理されていない訳はなく、ちょいと検索をかければ俺たちを丸裸にするなんてのは馬鹿チョンでも出来る事なのだろう。


「ふーん、色々納得がいったわ。お前は俺より未来から来て、俺よりずっと前からここにおるんだな」


 ヨシヒロもそうだったが、政策を施行されるタイミングとこちらに送られるタイミングはイコールではない。そのバラつきには法則や意図があるのだろうか。きっとあるのだろう。でなければ氏家が今ここにいる説明がつかない。それに、今ここに氏家がいるからこそ俺の願望が実現されるのだろう。意味のない事などここには存在しない。

 上手い事作られてるなぁ、この世界は……。


「ちょっと質問なんだけど、『エロ動画 無修正』とか調べたらエッチな動画見れたりすんの??」


「見れるけど、アウトプット出来ないから君には見せられないよ」


 じゃあ意味ないじゃん…ッ!!


「じゃあ意味ないじゃん…ッ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る