奇妙な協力者 5
今、萌の目の前にいるのは、前髪の長い痩せた男だった。
すだれのような前髪の隙間から、うつむきがちにこちらを
睨まれているような印象を受けて、受ける心象はすこぶる悪かった。
男が
萌は、恵一を背中をつかって男から遠ざけた。
「えっと……お兄さん、お連れ様は何を?」
店員のお姉さんが不安げに恵一に尋ねる。
「
「へ?」
「いや、何言ってるんだって感じですよね。すみません」
「あんたが茶封筒のストーカー?」
「萌、ちょっと」
小声で恵一が萌の袖を引っ張った。
けれど、ここでやめる気はない。
「どうなんだよ」
目の前の男から返事はない。
ただ、もぞもぞと居心地が悪そうに体を揺らしただけだ。
詰め寄ろうと一歩踏み出した萌だったが、店員の声に足を止められた。
「え、ちょっと待ってストーカー?!」
おろおろした店員が、裏返った声で叫ぶ。
「うちの店長、見た目は確かにストーカーしててもおかしく無いような陰気でヤバめな感じだけど、流石にそれは無いですよ!ああ見えて、いい人なんですから!その幽霊、本当にうちの店長なんですか?バカなこと言うなら特徴を言ってくださいよ、特徴を」
「え、お姉さん、信じるんですか?」
「信じてないから、怒ってるんです!とんだいいがかり」
「嘘はついてないけど。……前髪の長い、陰気な感じの三十前くらいのおじさん。で、黒いTシャツの右胸のとこに、頭に花が咲いたカッパの刺繍がついてます」
店員の眉の角度がわずかに下がった。
「あとは……あ、さっき、『ヨリちゃん、蘭の手入れちゃんとしてくれなくちゃダメだよ』ってボソボソ言ってましたね。ヨリちゃんってあなたですか?」
小さく頷いたヨリちゃんの眉が、ハの字になった。
「て、店長だ……。うちの店長です、それ。……ってことは本当に幽霊なの?お店のエプロンで刺繍が隠れるから好きなTシャツ着ててもバレないって店長笑ってて、だからお客さんが店長の趣味知ってるわけないし、こんなにイケメンのお客さんが来たら私、絶対忘れないし。店長、お客さんの前では私のこと『ヨリちゃん』って言わないし。……店長、死んじゃったの?密かに好きだったのに……」
店員はそのまま顔を覆ってしゃがみこんでしまった。
全身から『絶望』がにじみ出ている。
「……兄さん、この人どうする?」
「えっと、どっちの人の
呆然自失のヨリちゃんと、ヨリちゃんの衝撃発言に明らかに動揺を見せた幽霊(恵一には視えない)との間で途方にくれる恵一に、萌は一つ、ため息をついた。
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