マーク・チャップマン 6
去年の10月、長谷川には大変な迷惑をかけたのだ。
恵一の運転する営業車が事故を起こしたあのとき、長谷川は助手席に乗っていた。
幸いにも彼に怪我は無かったものの、一時は心肺停止にまで陥った恵一は入院中、一切の仕事に手をつけられず、長谷川と共同で受け持っていたクライアントからの案件はそのまま長谷川の肩にズシンとのし掛かった。
けれど、心優しく優秀な同期は愚痴一つこぼさず、代わりに自分の目の前で大怪我を負った恵一に「助けられなくてごめん」と言い、しきりに見舞いに顔を出しつつも見事に案件をやり遂げたのだ。
もう、感謝しかない。
地面に頭がめり込むほど土下座しても足りないくらいだろう。
研修のはじめに恵一は、自分から長谷川に声をかけに行ったものの、タイミングが合わずに満足には話せなかった。
今、高い身長のお陰で直ぐに見つけることができた彼は、女子に囲まれて何やら照れた様子で大きな身体を縮こめている。
大方、先ほどの恵一と同じ様に、試験の結果が良かったことを変にからかわれているのだろう。
恵一と長谷川は同点の同率1位だったから。
長谷川は少しだけ、困っている様にも見えた。
「悪い。俺、ちょっと向こう行ってくるわ」
「おう」
恵一は喫煙所を出て歩き出した。
近づいて軽く手を挙げると、向こうは直ぐに気がついた様だった。
二言、三言で申し訳無さそうに女子を巻いて、小走りでやって来た。
「いやー、助かった」
もちろん、恵一にしかわからない小声である。
「はは。長谷川、人気者だな」
「お前が言うなよー。一番のモテ男がさあ」
「俺? 俺は同期の子にあんまり話しかけられないぞ」
「それは、いつも石橋の周りを男が取り囲むからだよ。和気
「うーん……だけど昔、気になってた子にさ、『石橋君みたいな顔の人とは絶対に付き合えない』って言われた事ある」
「あー……それは多分、自分より顔の良い男とは並んで歩けないとか、そう言うプライドが関係してるんじゃないか。それより石橋、さっきも思ったけど、お前なんだか、顔色悪いぞ?」
「え?」
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