60 王都潜入
月がなくなった所為か、この世界の夜空は暗くて心もとない。
満天の星々は煌めいているのだけど、なにか物足りなさを感じてしまう。
「ごめんなさい。毎日、同じ物で......」
焚火がパチパチと音を立てる中、炎の明かりを頼りに夕食をとっているのだけど、料理を作った優里奈が申し訳なさそうにしている。
その様子は、まるで塩をかけられたナメクジのようだ。
でも、紳士たるもの、ちゃんとフォローは忘れない。それが社交辞令であったとしてもだ。
「いえ、おいしいですよ? 僕も決まった料理しかできませんし」
「そうです。とても美味しいです」
恐縮する彼女に、僕と愛菜が首を横に振って見せる。
まあ、食べなれたと言えば聞こえはよいが、定番――というよりも毎晩と言った方が適切な焼肉丼を食べいるのだ。
彼女が申し訳ないと思うのも無理はないだろう。
なにしろ、ヒューリアンの王都へ向かって一ヶ月近くなるのだけど、その間に彼女が作った料理はこの焼肉丼だけなのだ。
ただ、そんなことでシュンとしてしまう彼女は可愛いと思う。
だって、うちの女性陣なんて、料理が作れないことをなんとも思っていない。いや、それどころか、料理は全て僕の役目だと思っているに違いない。世の中、狂ってるよね。ああ、うちの女性陣が狂ってるだけか......
「ボクも大丈夫だよ。美味しいし。この料理、好きだよ」
「て、輝人。ありがとう」
輝人の慰めを聞いて、優里奈が暗くしていた顔をパッと明るくする。
まるで、料理がではなく、自分が好きだよと言われたかのように頬を染めている。そう、周囲が暗くとも僕の目は誤魔化せないのだ。
それにしても、僕の慰めだと何の効果もなかった訳だけど、どうやら輝人の言葉ならイチコロみたいだ。
こうまで極端に差が出ると、僕としても一人の男として少しばかり悲しい。
ただ、それでも僕はマシな部類のようだ。そう、どこにも空気を読まない者は居るみたいだね。
「まあ、黒鵜が持ってきてくれたサバ缶やシーチキンもあるし、全然、問題ないぞ」
「か、快!」
「そ、それはどういうことなの? もしかして、缶詰の方がいいって言いたいのね」
輝人が慌てて軽率な発言を止めさせようとする。しかし、それはどうやら無駄な努力だったようだ。
般若と化した優里奈が立ち上がると、快に向けて指を突きつけた。そして、その指を空に向ける。
途端に、快が持っていたどんぶりが、まるでロケット発射のように空に撃ちあがる。
「あっ! オレの飯! こらっ! やめろ! どこまで飛ばしてんだよ! ペットボトルロケットじゃね~んだ! いい加減にしろ!」
「あなたは食べなくていいです。缶詰でも――いえ、黒鵜くん、獣に餌をあげちゃダメよ」
「そ、そんな~。す、すまん。オレが悪かった」
UFOのように宙を舞うドンブリに視線を向けていた快だったが、自分の発言が拙かったと悟ったのだろう、物凄い速度で土下座した。
その勢いは、まさにジャンピング土下座だった。
すご~~~~い。実際にやってる人なんて初めて見たよ。
まあ、快のジャンピング土下座はよいとして、優里奈は僕から浮遊や飛翔の魔法を学び、氷華から氷の魔法を教えてもらい、愛菜から再生魔法の手ほどきを受けているのだ。
いまだ、どれも精度はイマイチだけど、少しずつ上達しているのも確かだ。
「優里奈さん、飛翔の魔法、かなり上手くなったね」
「えっ!? そ、そう? えへへへ」
僕から褒められたことが嬉しかったのだろう。彼女の気が抜けてしまう。すると、空を飛び回っていたドンブリが突如として垂直落下してきた。
「うわうわうわ! こらっ! 危ないだろ」
快は慌てて落下地点を予測し、見事にドンブリを受け止める。この暗い夜空の下で大したものだ。
まあ、快の気持ちも分からなくもないよね。どれだけ美味しくとも、さすがに毎日は飽きるし......そういや、インスタントラーメンを作ってあげた時は、涙を流しながら食べてたよね。
ドンブリをナイスキャッチして安堵する快を眺めつつ、僕は彼等にインスタントラーメンを進呈した時のことを思い出していた。
恐らく、この世界に来て地球の食べ物を口にできるとは思ってもみなかったのだろう。
快のみならず、輝人や優里奈も涙を零しながら食べていた。
それはそうと、こんな感じで騒がしい夕食だけど、いまだに夏乃子は復帰していない。その所為で愛菜も落ち込んだままだ。
そう、夏乃子が復帰しないのは、自分の力不足だと思い込んでいるのだ。
今も食べかけのドンブリに視線を落としたまま、何かを思い悩んでいる様子だ。
「どうしたの? 食欲がないの?」
「あっ、ごめんなさい。いえ、少し再生魔法について考えていて......
どっぷりと落ち込んだ愛菜に声をかけてみると、やはり夏乃子を治せないことで沈んでいるみたいだった。
完全に自分が悪いと思い込んでるね。これは何とかしないと......
彼女はとても頑張っているし、僕としてはこんな風に落ち込んで欲しくない。やはり、彼女には笑顔が似合うのだ。
「愛菜はとても頑張ってると思うよ。それに、今なら愛菜の方が優れてるかもしれないよ?」
「いえ、私は全然だめです......」
「そんなことはないよ。大丈夫。僕もついてるからね。あまり無理しちゃダメだよ」
「はっ、はいっ!」
首を横に振る愛菜を励ますと、彼女はキラキラした瞳を僕に向けてきた。
その途端に、優里奈が快に見習えと騒ぎ始める。
「彼を見て学びなさい。これが慰める、励ますってことよ。年下の黒鵜くんの方がとてもしっかりしてるわ」
「うい~す。つ~か、この場合、黒鵜だからだろ?」
「まあ、それはあるでしょうけど」
「えっ!? あの......」
鋭い視線を向ける優里奈に、快が渋々といった様子で返事をすると、その言葉に反応した愛菜が顔を赤くして俯かせる。
恐らく、落ち込んでいた自分を見られたのが恥ずかしくなったのだろう。
彼女はドンブリを脚の上に乗せたまま、両指をくねくねと絡ませていた。
ただ、そこで氷華が僕の頭の上に降り立つ。
「それよりも、明日からについて話し合いましょ」
なにが気に入らないのか、彼女は僕の頭を何度も踏みつけながら、これからについて話し始めたのだった。
というか、禿げたらどうするのさ! やめてよね!
移動に費やした一ヶ月近くの間に、僕等は様々な情報を交換した。
僕等からは地球の出来事を伝え、輝人達からはこの世界について教えてもらった。
当然ではあるのだけど、彼等は地球のことを聞いて目を剥くほどに驚いていた。ただ、暫くすると直ぐに納得したようだった。
というのも、彼等は彼等で、この世界にやってきた頃に、魔物が異様に減ったという話を聞いたらしいのだ。
逆に、僕等が驚かされたことは、思った以上に地球人がこちらに転移していたことだ。
なにしろ、勇者と呼ばれる人間――地球からの転移者は、数えきれないほど居ると言うのだ。
それを聞いた時には、もしかしたら、うちの両親も生きてるんじゃないかと思ったほどだ。
「さて、明日は王都に到着します。恐らく、あの嘘つき女よりも早く到着できるので、妹さん――萌ちゃんを救出するのは、それほど難しくないと思うのだけど、どういう作戦にしますか?」
議題に関しては問題ないのだけど、なぜか氷華が偉そうに仕切っているところに違和感を覚える。
オマケに、萌ちゃんなんて言っているのだけど、確か年齢的には僕等と同じはずだ。
しかし、誰も氷華にツッコミを入れようとしない。
もしかして、精霊の姿ってお得なのかな?
「堂々と診療院に入って連れてくるじゃダメなのか? うっ......な、なんだよ。その顔......」
僕のどうでも良い疑問を他所に、快が己が考えを口にしたのだけど、その途端に、氷華から如何にも「あんたバカ?」って言わんばかりの視線を向けられる。
どうやら、快もその眼差しの意味するところに気付いたのだろう。顔を引き攣らせながら口籠った。
そんな快に向けて、氷華は溜息を吐くと、思いっきりダメ出しを始めた。
「はぁ~。本当に頭の弱い人と一緒に居るのは疲れるわ。あのね。あなた達は最前線に出てるんでしょ? だったら、出兵した者達が戻ってないのに、勇者だけが戻るのはおかしいでしょ?」
「うぐっ......」
やばっ......これまで以上にキレッキレだ。何が彼女をここまで掻き立てるのかな? 僕もかなりやられたけど、ここまで酷くはなかったと思う......思ってるだけかも? そういや、氷の魔法を浴びせかけられたような気が......
のっけからガツンとやられた快は、反論するかと思いきや、そのまま力なく項垂れた。
まさに、白い灰のようだ。それこそ、「燃え尽きちまったぜ」って言いだしそうなほどに、ガックりと肩を落としている。
「それなら、夜中にこっそり連れ出すしかないかな?」
「まあ、そうなるでしょうね。でも、輝人さん。イリルーアとの約束をどうやって果たすつもりですか?」
「うっ......」
イリルーアとの約束と言われて、輝人も撃沈した。
人族軍が退却し始めたあと、魔王を倒した輝人達はイリルーアに土下座で謝った。
なにしろ、人族に騙されていたとはいえ、彼女の父親を葬ってしまったのだ。ひたすら謝るしかないのも道理だろう。
そんな勇者達――輝人達を前にしたイリルーアの態度は、さすがとしか言いようがなかった。
というのも、自分の父親が討たれたのだ。本来であれば、恨み言の一つでも口にしたいはずだ。それなのに、彼女は罵声を浴びせかけることなく、この世界の平穏を願ったのだ。
そう、彼女は静かに告げた――
「私に謝ってもらう必要はないです。でも、あなた達が申し訳ないと思っているのなら、人族の暴走を止めることに尽力してください」
――と。
その言葉を聞いた時、僕は自分の心がいかに狭いかを思い知らされた。
そんな僕と同様に、輝人達も感銘を受けたようだった。そして、彼等は誓ったのだ。必ず人族の暴走を止めると。
氷華はその時のことを告げているのだ。
「そうなんだけど、まだどうすればいいのか分からなくて......」
押し黙っていた輝人は、おずおずと正直な考えを口にするのだけど、氷華の圧力に負けて再び沈黙する。
彼の気持ちは分からなくもない。確かに約束をしたけど、人族の暴走を止めると言っても途方もない話なのだ。
「いっそ、人族の国を乗っ取るくらいじゃないと無理なんじゃないかしら? だって、既にパワーバランスが崩壊してるわ。輝人さん達が離脱しても、あの嘘つき女達が戦いを止めるとは思えないもの」
確かに、地球の人間がこの世界に転移させられて様々な物を作り、完全に力関係が崩れている。銃なんてその典型だし、大砲や戦車を作り上げるのも時間の問題だろう。そうなると、もうお手上げだ。
ただ、氷華の発想があまりに突飛で、僕は思わず否定の声をあげた。
「いや、それこそ無理なんじゃない? どうやって国を乗っ取るのさ。いうのは簡単だけど、可能だとは思えないよ?」
人族の王家を崩壊させる程度なら、大変だけど可能性はある。最悪は僕がぶっ放せば、それでジ・エンドだ。
しかし、国を乗っ取るとなると話が違ってくる。だって、国を、国民を取りまとめなければならないのだ。どう考えても魔法をぶっ放して終わりには思えない。
ところが、誰もが僕の意見に頷く中、珍しく一凛が氷華の側についた。
「こりゃ、氷華の考えに一理あるな。方法はさて置き、戦いを止めさせるための結論はそれしないだろ」
「それは分かるけどよ~。その方法が問題なんじゃね?」
彼女達の考えは分かるのだけど、快の切り替えしが尤もだと思う。
国を乗っ取るとか途方もない話で、その方法なんて想像もつかない。仮に僕が力づくで王座に就いたとしても、国民が納得してくれるとは思えない。
僕以外も同じ感想なのだろう。誰一人として「閃いた!」とは言わなかった。
ただ、僕から言わせれば、今この時点で、その結論を出さなければならないのかも疑問だ。
恐らく優里奈もそう考えたのだろう。おずおずと己が考えを口にする。
「氷華ちゃんの考えは分かるけど、それを明日に実行する必要はないんじゃない?」
「じゃあ、いつするの? そのうちやるは、明日から頑張るというのと同じだと思うわ」
「はう......」
恐ろしいツッコミ......優里奈さんが地縛霊になったよ?
体育座りで影を作る優里奈を励ます気力もなく、答えのない僕等は誰もが沈黙したまま時間が過ぎる。
結局、どれほど考えても結論は出ず、まずは輝人の妹である萌を奪取すること、そして、王都の状況やこの国について情報を得ることを目的としたのだった。
夜も更け、月もない夜空なのだけど、街は煌々とした明かりで照らされていた。
「凄いね。これが地球人が転移してきた影響の一つなんだね」
「そうだよ。この世界にある魔石を利用して灯りを作り出す道具を作ったんだ」
僕が明かるい街並みの感想を述べると、輝人が頷きながらその通りだと頷く。
彼の返事を聞いた僕は、思わずギリシャ神話を思い浮かべる。
「これって、プロメテウスの火を思い出すね」
「ああ、良かれと思って火を与えたけど、予言通りに武器を作って戦争を起こしたって話ね。黒鵜君にしては博識ね」
「ちょ、ちょ~、それはないんじゃない? 僕だって多少の知識はあるよ」
「どうせ、ラノベかなにかで出てきたんでしょ?」
「かはっ......」
僅かながらの知識を口にしたのだけど、物の見事に氷華からやり込められた。
そのツッコミがあまりに正鵠を得ていた所為で、反論する言葉もない。
よし、ここは話を変えよう......
「それじゃ、愛菜、悪いけど確認してもらえる?」
「はい。了解しました」
愛菜はなぜか嬉しそうに頷くと瞼を閉じる。
なにが嬉しいんだろうか? なんか楽しそうだよね......
「凄いよな。彼女の目が見えないなんて信じられね~ぜ。おまけに遠くのことまで分かるんだろ? めっちゃ便利じゃん」
「こらっ! 快!」
「あっ、すまん。別に悪気はないんだ......」
「いえ、大丈夫です。私は目が見えないからこそ、この力を得られたと思ってます。だから、今はとても幸せなんです」
嬉しそうにしている愛菜のことを不思議に感じていると、彼女の力を知った快が感嘆の声を漏らす。ただ、その言葉は全くオブラートに包まれておらず、顔を顰めた輝人から窘められた。
ところが、愛菜は気にしていないどころか、頬を赤らめながら問題ないと告げた。
そんな彼女の片手は僕の腕に回されているのだけど、もはやクレームをあげるのも疲れたのか、氷華と一凛は不機嫌な様子を露わにしつつも、それを声にすることはなかった。
さて、現在の僕等だけど、ヒューリアンの王都メストに到着している。いや、正確に言うなら、王都メストを守る障壁の外側にいる。
時間的には深夜に近く、本来であれば誰もが寝静ます時間帯のはずだ。
しかし、文明の利器が普及し始めた所為か、街を守る障壁の向こうからは、かなりの明るさが漏れ出ている。というか、夜空を明るく感じさせられる。
僕等が王都メストの近くに到着したのは昼間だった。ただ、忍び込むのなら夜の方がいいと判断して、暗くなってから街へと近づいたのだ。
そして、街を守る障壁を越えて侵入するために、見張りの兵から気付かれないようにと、通用門からかなり離れた場所に来ている。
通用門の利用を避けたのは、門兵に見つかると色々と厄介なことになると考えたからだ。
「大丈夫そうです」
再び瞼を閉じて障壁の向こうを確認していた愛菜が、頷きながら問題ないと告げてくる。
それを聞いた僕は、目の前にいる輝人と快に声をかける。
優里奈に関しては、目を覚まさない夏乃子を介抱するために、近くの森に隠したワゴン車に残っている。
「よし、じゃ、やるよ。浮遊!」
輝人と快が頷くのを確認して、僕は即座に浮遊の魔法で彼等を障壁の向こう側へと送り出す。
「すげ~!」
「快! 静かに」
「いけね~すまんすまん」
浮遊の魔法に感動したのか、快が声をあげるのだけど、彼はこれが隠密行動だと理解しているのだろうか。まるで聞いてくださいと言わんばかりに響き渡っている。
案の定、輝人に窘められて頭を掻いて謝るのだけど、その声もかなり大きいところを見ると、全く理解しているとは思えない。
それでも、彼等が問題なく向こう側に到着すると、それを遠見の力で確認していた愛菜が教えてくれる。
「二人とも向こうに着地しました」
「ありがとう。じゃ、僕等もいこうか」
「はっ、はい」
「うおっ! よ、よよよ、よし。じゃ、いくよ。飛翔!」
感謝の言葉を口にし、続けて僕等も向こう側へ行くと告げると、彼女は嬉々として僕に抱き着いてきた。
僕は驚きつつも、少しばかり嬉恥ずかし的な心境に陥ってしまう。
なんか、前よりも密着率が上がったような気がするんだよね......いったいどうしたんだろう? いや、今はそれを気にしても仕方ないか。
これまで以上に大胆な行動を執り始めた愛菜に疑問を抱くのだけど、僕はそれを棚上げして宙を舞う。
そう、先に送った二人は浮遊の魔法で運んだのだけど、僕は飛翔の魔法で鳥のように宙を駆け巡る。
「きゃはっ! 凄い!」
どうやら愛菜は飛翔の魔法をお気に召したようだ。きゃっきゃと楽しそうな声をあげる。
しかし、それを快く思わない者もいるみたいだ。
「愛菜! 約束を忘れてないわよね?」
「今回は特別だからな!?」
僕の髪の毛を掴んでいる氷華と一凛が、何やら不穏な声で愛菜に念を押している。
ところが、愛菜は怖がるどころか、笑顔で頷く。
「はい。分かってます。氷華姉さん。一凛姉さん」
姉さん? はっ? どういうこと? 前は、氷華さん、一凛さんって呼んでたような気がするんだけど......いったい何時から?
不思議に思いつつも、先に移動させた輝人と快が居る街はずれの空き地に降り立った。ところが、そこで予想外の事態に見舞われる。
「侵入者はこっちだ! 急げ!」
「こんな時間に侵入者とは! ふざけやがって!」
空き地に佇む僕等の耳に、建物が密集する方向から警備の兵らしき声が聞こえてくる。
「おいっ! なんでバレたんだ?」
「きっと、快の所為だよ」
「マジか!?」
兵の声を耳にした快が呆気に取られていると、その横で輝人が冷たい視線を向けていた。
マジか!? じゃないんだけどね......あれだけ騒いでたら誰かが気付くって......ただ、それにしても、駆け付けるのが早過ぎるような気がするんだけど......てかさ、バレたのが快さんの所為はいいとして、バレてから兵が来るまでの時間が短すぎない? ここって王都の外れだよ? 警備が凄すぎない?
「あっ、誰かこっちに来ました。追われているみたいです」
王都の警備体制に疑問を抱いていると、いまだ僕に抱き着く愛菜が声をあげた。きっと、遠見の力で周囲の確認をしたのだろう。
彼女が声を発して暫くすると、薄汚いテルテル坊主がこちらにやってきた。というか、僕等の十メートル先で倒れた。
薄汚れたフード付きマントは黒とも茶ともいえない色で、どうみても数年は放置していたテルテル坊主としか思えない。それに、この状況からして、どう考えても真面な者ではないように思えた。
「ああ、侵入者って僕等のことじゃないんだ」
「ほらみろ! オレの所為じゃないだろ」
「快、そんなことを言ってる場合じゃないよ!」
胸を張る快に苦言を漏らす輝人の言う通りだ。まずは逃げる方が先決だ。ここで関わるとろくでもないことになるに違いない。
「さあ、いく――ちょ、ちょ~愛菜!」
さっさと逃げ出すことを決断し、それを伝えようとした途端、愛菜は倒れたテルテル坊主のところへ駆け寄る。
彼女はすぐさまテルテル坊主の様子を確認しながら声をかけた。
「大丈夫ですか? うっ、酷い血......怪我ですか?」
その行動は、聖女のようであり、素晴らしい行動だと思うのだけど、僕としては危険極まりないと感じてしまう。
「愛菜! 戻って! 危ないよ」
「あぅ......た、助けてください......たのみます......」
「はい。分かりました。黒鵜さん」
すぐさま愛菜を連れ戻そうとするのだけど、それと同時にテルテル坊主からか細い声が漏れでた。
途端に、愛菜は何を考えたのか、勝手に返事をすると、僕に熱い眼差しを向けてくる。
そう、その瞳は僕にこのテルテル坊主を助けるべきだと告げているのだ。
結局、僕は輝人の妹を助け出すために王都へと潜入したのだけど、その途端に厄介ごとを拾い上げることになってしまったのだった。
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