37 特務隊『翔』


 年の頃は二十歳くらいだろうか。

 女性の齢を測るのは苦手なのだけど、雰囲気からして恐らく大学生くらいだと思う。

 化粧っけはないものの、美人と言って差し支えない。

 ああ、正直いって僕の美的感覚が正しいかどうかは分からないから、飽くまでも個人的な感想だ。


 それはそうと、大学生といっても、ファンタジー化の前によく見かけた華やかで軽い大学生のイメージとは、恐ろしくかけ離れているように思う。

 これが過酷な世界を生き抜いた結果なのだろうか。

 もしそうだとしたら、この世界は、彼女にとって優しいものではなかったようだ。

 だって、これまでの苦難がそうさせるのか、まるで死地へとおもむかんばかりに険しい表情を見せている。

 おまけに、右頬に刻まれた大きな切り傷が、より一層現実の過酷さを彩っているように思える。

 そんな女が発した言葉は、一瞬にして保健室を凍り付かせる。


「お前が……炎獄の魔法使い黒鵜与夢か?」


 意図した訳ではないと思うけど、女は僕の呼吸を止めることに成功する。


 どういうこと? どうして僕の名前……いや、二つ名まで知ってるなんて……


 唯でさえ来訪者というだけで驚いているのに、女は知るはずのない僕の名を口にした。それどころか、二つ名まで添えてきた。ここに居合わせた誰もが凍り付くのも当然だろう。いや、一人だけ別の意味で息を止めている者も居る。


「炎獄の魔法使い……黒鵜区長、カッコイイです……」


 静まり返る保健室の中に、女を治療したであろう海老原光えびはらみつるの場違いな声が響き渡る。

 彼は空気も読まずに、キラキラと輝かせた瞳を向けてくる。

 その表情は、憧憬どうけい羨望せんぼう、ときめき、そんな様々な感情を如実にょじつに表している。ただ、今はそれにドン引きしている暇はない。


「どうして僕の名を?」


 二つ名に関しては触れず、まずは名前を知っていることに言及する。

 多分、それで二つ名を知っている理由も分かるはずだ。

 ところが、女はこちらを睨みつけたまま、その問いに答えることなく恨み言を吐きつけてきた。


「お、お前の所為で……責任とれ!」


 保健室に女性とは思えないドスの利いた声が響く。


「えっ、えっ!? ど、どういうこと?」


 あまりに突然の事態におののく。だけど、全く違う反応を見せる者もいる。


「行き成り失礼ね。文句を言う前にきちんと説明するべきじゃない? というか面倒だし、氷漬けにして隅田川に流して終わりにしましょうか」


 氷華が冷めた眼差しを女に向ける。

 まあ、彼女の性格からして黙っていられないのは理解できる。ただ、行き成り殺害はどうかと思う。

 ところがどっこい、この女も負けていない。スカーフェイスを歪ませて怒りを露わにする。


「うるさい! お前も同罪だ」


 いったい何に対して恨みを持ってるんだろうか?

 鬼気迫る表情を見せる女を他所に、腕を組んで自分のやってきたことを振り返る。

 というか、心当たりがあり過ぎて少し整理が必要だったりする。

 もし、彼女がショッピングモールに居たのなら、恨む理由も分からなくもない。というか、恨むのも当然だと思う。

 だけど、僕等の推測では、女は千住方面から来ているはずだ。

 そもそも、ショッピングモールに居たとも思えないし、向こうの状況も知り得るはずもない。なにしろ、向こうに居た者は全員がここに移動したのだ。


 もしかしたら、彼女の家族が居たのかな? ここに来てその死を知ったとか。いや、いくらなんでも飛躍し過ぎか……


「行き成り責任とれと怒鳴られて、誰がはいそうですかって言うんだ? 少し頭を冷やせよな。てか、ウザいし、腹が減ったし、もう叩き出そうか」


 なんてことだ……一凛が真面なことを言ってるよ……雪が、いや、ひょうが降るかも、フシャーーーって。というか、腹が減って機嫌が悪いんだな……


 まあ、一凛の怒りの原因はなんであれ、空腹は予想以上に大きな効果を生んだようだ。僕等を睨みつけていた女が思わず後退りする。それほどまでに腹を空かせた一凛を危険に感じたようだ。


 ふむ、ここは天の恵みと思って、腹ペコ一凛の言葉に便乗するのが良さそうだ。

 二進にっち三進さっちもいかない状況に、渡りに船とばかりに便乗する。


「そうだよ。あなたが僕等を恨むのは構わないけど、責任をとれというのなら、その理由くらいは説明すべきだよね」


「くっ……」


 ぴしゃりと正論を叩きつけると、女は悔しそうに歯噛みする。

 ただ、こうやって睨み合っていても始まらないと考えたみたいだ。


「ちっ、お前等、飛竜を撃退しただろ」


 女が口にした言葉は、想像すらしていなかったものだった。


「えっ!? 確かに駆逐くちくしたけど? それが?」


 実際は、駆逐というよりも狩りと言えるかもしれない。どこかの原住民みたいだけど、奴等は大切なタンパク源なのだ。

 もちろん、そんなことは口にしない。素直に答えて返事を待つことにした。

 ところが、返事をもらう前に、まるで研ぎ澄まされた刃で相手を切り裂くかのような声が放たれる。


「まさかと思うけど、私達が飛竜を撃退したから、そっちに逃げてきて困ってるなんて言わないわよね? もし、それで私達を恨んでいるのならお門違いよ。弱いあなた達に問題があると思うわ。出直してちょうだい。というか、さっさと出て行かないと叩き出すわよ」


 氷華は烈火とも言えそうな勢いで捲し立てる。

 まさに、相手を完膚かんぷなきまで叩きのめすかのような口振りだ。

 そして、彼女の読みは図星だったようだ。ムキになった女が、己が気持ちを吐き出す。


「くっ……な、なんだと! それじゃ、弱い者は死ねというのか!」


「そうね。弱い者は死ぬしかないかもね。死にたくないなら強くなるしかないわ」


「な、なんだと……」


 女は絶句し、ワナワナと震えだす。


 少なからず、女の気持ちは理解できる。

 氷華の言う、強くなればいいというのは、強者の意見だ。それは弱者の弱さを何も理解していない。

 だから、女を庇うつもりではないのだけど、少しばかり口を挟む。


「氷華。それは言い過ぎだよ。頑張っても強くなれない人も居るんだよ」


「それは甘えだわ。ハッキリ言うけど、黒鵜君って強かったの? そうではないわよね? 理由はどうあれ、必要だから強さを身につけたのよね?」


 おずおずと意見をしてみたのだけど、それは物の見事に切って捨てられた。


「確かに……そうだけどさ……」


「私だってそうよ。初めは逃げ回ったわ。命乞いもしたし、神頼みもした。でも、誰も助けてくれなかったわ。いえ、黒鵜君だけが助けてくれた。だから、私も黒鵜君の力になりたい、大切な仲間を守りたい、そう思って強くなろうとしたのよ。弱いから助けてもらおうだなんて虫が良すぎるわ。この世界は自分達で何とかしないと生き残れない世界になったのよ。それを理解すべきだわ」


 完全に論破されてしまったのだけど、そのことよりも氷華の気持ちを知ることができて胸が熱くなってしまった。

 だけど、女は違ったのだろう。頬の傷を更に歪ませて毒を吐きつけてきた。


「そう簡単に強くなれるなら、誰も苦労しないんだよ! 所詮は強者の弁じゃね~か」


 確かに強者の弁だ。でも、氷華の言葉を聞いて、少しだけ違うことに気付いた。

 だから、前言を覆すようだけど、自分の考えを投げかける。


「でも、みんなスタート地点は同じだよね? それに僕等が楽してこの力を得たと思ってるのかな? 確かに氷華の物言いはキツイけど、言ってることは間違ってないと思うよ。あと、僕等が撃退した飛竜がそちらに行ったということは、僕等より後に飛竜と出くわしたんでしょ? それまで何をしていたの?」


 そう、力をつけてきてからは、割と順調に進んだ。ただ、それまでは死に物狂いで戦ってきた。そして、この力はその恐怖を乗り越えて得たものだ。

 だって、僕なんて、元々は勉強もできなきゃ、運動も苦手な空想好きなモヤシだよ?


「うるさい、うるさい、うるさい! 全部、お前等が悪いんだ!」


 ダメだこりゃ……


 狂ったようにわめき始めた女を見て、思わず肩を竦めてしまう。

 そう、女はただただ駄々を捏ねているのと同じなのだ。それを納得させる方法なんて皆目見当もつかない。

 なにしろ、魔法は上達したものの女性スキルなんて皆無だ。


さて、どうしたものか……氷華や一凛が言うように叩き出すしかないのかな……


 本当に叩き出す訳にもいかず、女の対処に悩まされる。

 すると、氷華が勝ち誇ったかのような表情で荒れる女に提案した。


「いいわよ? 責任ってあげるわ。飛竜を退治すればいいのね? まさか、死んだ人を生き返らせろとは言わないわよね?」


「えっ!?」


「氷華?」


「おいっ!」


 氷華の言葉で、枕カバーを引き千切らんばかりに悔しがっていた女が驚く。

 いやいや、女ばかりか、僕と一凛も声を上げてしまう。

 ところが、彼女は驚く面々を他所に、気にすることなく自分の要求を提示する。


「その代り、倒した魔物は私達がもらうわよ」


 ああ、なるほど、そういうことか。


「それならOKだ!」


 氷華は食料確保のために頷いたのだ。

 それを理解して、一凛が風見鶏の如く賛成する。

 なんて都合のいい女だ。きっと、一凛にとって、全ては食べ物が基準になっているのだろう。

 まあ一凛は置いておくとして、氷華の機転に舌を巻く。


 いやはや、転んでもタダでは起きない女だね……仲間としては頼もしいけど、敵にしたら嫌な女だな……


 結局、ドヤ顔の氷華に感心と呆れの混じった感想を抱きつつ、何度もカクカクと頷く女を見やり、なんとか収まりがついたことにホッと胸を撫でおろしたのだった。









 来訪者――スカーフェイス女と交渉を終わらせて一夜が明けた。

 現在は朝の五時を少し回ったところだ。

 ぶっちゃけ、夏休みのラジオ体操をするのにも、さすがに少しばかり早い時間だ。

 ただ、夏ということもあって、すっかり明るくなっている。


 さて、現在はというと、汐入中学の北側にやって来ている。

 目の前には隅田川があるのだけど、あまり清々しい雰囲気ではない。

 なにしろ、そこにはあまり目にしたくない者も流れていたりするからだ。

 そんな光景を見やり、スカーフェイス女――成瀬生織なるせいおりは渋い表情を作っている。


「ここから渡るの? まあ、この川幅なら浮遊魔法でみんなを運ぶこともできそうだけど」


 渋面を作る成瀬を他所に、これからについて隣にいる氷華へと声を掛けた。


「ん~、それでもいいけど、ここは橋でも造りましょうか」


 彼女は少しだけ悩む素振りをするのだけど、すぐさまひとつの案を提示してきた。

 その様子からして、事前に考えていたのだろう。


「それで、誰が橋を作るの? みつるは来てないよ?」


 後ろに並ぶ面子に目をむけつつ問い掛ける。

 そこには、連絡係と運転手買って出た和理。その横に特務隊『翔』のメンバーである陽向ひなたあかね麗奈れなの三人が立っている。

 可哀想だけど、残りの面子はお留守番だ。

 人選に漏れた者からは不平が山ほど出たのだけど、取り敢えず我慢してもらうことにした。

 特にブーたれていたのは、一凛と葵香だった。葵香なんて『ブーイング』ならぬ『んーイング』をいつまでも続けていた。

 ただ、さすがに全員が留守にするのは拙いので、必死に頼み込んで残ってもらうことにした。

 まあ、空手の授業もあるので、彼女も渋々ながら承知した。ただ、ご機嫌を取るために、飛竜の焼肉をたんまりと食べさせたのは、言わずと知れたことだ。


「何言ってるのよ。ここに橋を造れるのなんて、私しかいないじゃない」


 呆れたと言わんばかりに、氷華は肩を竦める。

 どうやら、自分の凄いところを見せつけたいみたいだ。

 まあ、彼女の力ならそれほど難しいことでもないだろう。

 ただ、ここは自ら労働を買って出た彼女をヨイショすべきかな。


「ああ、氷の橋だね。さすが氷華だ」


「ふふふ。さあ、やるわよ。氷よ、橋となれ!」


 昨日はとても不機嫌だったのだけど、今日は気分を入れ替えのか、はたまたヨイショが効いたのか、やたらと機嫌よく魔法のワードを唱えた。

 すると、川の水が盛り上がり、みるみるうちに凍っていく。しかも、川の水はせき止めないように気を配っているようで、まずは土台となる橋下駄が出来上がり、その上に分厚い氷の道が作り上げられた。


「すっげ~~ぇ、さすがは氷華姉だ」


「こら、陽向、氷華教官でしょ」


「れも、かっこいいれしゅ」


 規格外の魔法を目の当たりにして、陽向が感動の声を上げると、茜が素早くたしなめた。

 ただ、これ程の魔法を見せられたら感動しないではいられないのだろう。麗奈もカミカミになりながら瞳を輝かせている。


 因みに、その三人は、茜が一番年上で十二歳、陽向と麗奈の二人が一つ下の十一歳だ。


 お子様ではあるのだけど、立派に隊員としての能力を持つ三人から羨望せんぼうの眼差しを向けられ、氷華は薄い胸を張る。

 そのドヤ顔が少しばかり鼻に付くので、遠慮なくツッコミを入れることにした。


「あのさ、いつも僕のことばかり言ってるけど、これって立派なご都合主義じゃないの?」


「ひぐっ……な、なに言ってるのよ。これは努力の賜物たまものっていうのよ。ふんっ! さあ、行きましょ」


 どうやら突っ込まれたのが気に入らなかったのだろう。彼女は鼻を鳴らすと透かさず先に歩き出す。

 ただ、成瀬は氷の橋を見て、自身までもが凍り付いたみたいだ。

 きっと、彼女はこれほどの魔法を目にしたことがないのだろう。


「さあ、行きますよ」


「あ、ああ……」


 声をかけると、成瀬は正気に戻って歩き始めた。

 そこでとあるものが目に留まる。

 昨日はバタバタしていて気付かなかったのだけど、氷華が敵視していた理由を理解した。いや、嫌でも理解できた。


 ああ、あれの所為か……美静の時もそうだったもんね……


 そう、大きな胸がゆっさゆっさと揺れているのだ。

 氷華の機嫌の悪さは、間違いなくそれが原因なはずだ。

 僕は女の嫉妬とは恐ろしいものだと、今更ながら胸に刻み込むのだった。









 何事もなく氷の橋を渡り、向こう岸に辿り着いたのだけど、隅田川を渡り終えた途端に魔物の襲撃を受けた。

 別に油断した訳ではないのだけど、完全に囲まれてしまった。


「くそっ……なぜ、なぜだ。どうして急に魔物が増え始めたんだ!? 以前はこれ程じゃないかったのに……」


 僕等を囲むように群れている熊の魔物に視線を向け、成瀬が悲痛な声で疑問を口にした。

 ただ、驚くほどのこともない。確かに囲まれているものの、これまでの経験からすれば、それほど多いという訳でもないからだ。


 う~む、これくらいで驚くとなると、あまり魔物が襲ってこなかったのかな。


 彼女の驚きを見て、北千住はそれほど魔物が多くなかったのだと悟る。

 それよりも、増えた理由が……嫌な予感がするのだけど、今は棚上げすることにしよう。


「凄い数だ」


「こんな沢山の魔物は初めてよ」


「ちょ、ちょっと、緊張してきたれふ」


 周囲の魔物を見やり、陽向、茜、麗奈の三人が顔を引きらせる。

 まあ、それも仕方ないのかも知れない。なにしろ、この子達が魔物と戦うようになった頃には、汐入地区の魔物の数が激減していたからだ。

 だから、四十匹は居そうな魔物の数を目の当たりにしてビビるのも当然だと言える。

 もちろん、激減した理由は簡単だ。僕等や生徒会役員の糧になっただけだ。


「心配しなくてもいいよ。君らの力だけでも十分に戦えるからね」


「えっ!?」


 叱咤の言葉を耳にして、子供達ではなく、成瀬が驚きの表情を向けてくる。

 少年少女達はといえば、成瀬など眼中にないようだ。僕の声を聞いた途端に背筋を伸ばした。


「りょうかいです。指示をお願いします」


「はいっ! がんばります」


「区長がそういうのなら、まちがいないれふ。あたし、やりまふ」


 キリっとした顔付きとなった三人に満足し、僕はすぐさま指示を送る。


「良し! じゃ、麗奈、まずは君が周囲に土壁を展開。足らない処は……氷華、フォローして」


「りょうかいれふ。ちへき! どーーーーん!」


「了解よ。盾!」


 麗奈が指示通りに土の壁を作り上げる。

 何がどーーーーんなのかは理解できないけど、きちんと魔法が発動しているので良しとしよう。


 彼女が作り上げた障壁はとても立派なものだ。

 高さ二メートルで厚さ五十センチの硬い土の壁が、僕等を半周ほど囲う形で立ち上がる。

 足りない部分――後方については、氷華が氷の盾で塞いでしまった。

 その立派な土壁をキョロキョロと見回した成瀬が驚きの声を上げる。


「こ、こんな子供が? この子が、これを作り出したのか?」


 やはり、彼女にとって、僕等の使う魔法は異様なのだろう。

 氷華の言った通り、彼女達は必死に訓練なんてしていないのかもしれない。

 まあ、魔物の襲撃が少なかったとしたら、それも仕方ないことだろう。

 ただ、敢えてそれを口にしない。それは傷口に塩を塗るような行為だと感じたからだ。

 ところが、その気遣いを踏みにじるものが居る。


「どうかしら? この子達は訓練を初めて二カ月も経ってないわよ? この子達の前で弱者だという言い訳をしてみる?」


「うぐっ……」


 氷華にやり込められた成瀬が歯噛みする。


 ぐあっ……せっかく僕が黙ってたのに……ひょーーかーーーー! いやいや、それよりも、今は戦闘が先だね。


 心遣いを無駄にした氷華に不満を感じる。だけど、今はそれに言及している場合ではない。すぐさま次の指示を送る。


「麗奈、お立ち台!」


「はいれふ! 高くなれ!」


 麗奈が魔法を発動させると、途端に足元が高くなっていく。

 障壁の向こうの敵が丸見えになったところで、陽向と茜に攻撃させる。


「陽向! エアカッターだ。茜は炎弾をぶちこめ!」


「りょうかいです。エアカッター!」


「はいっ! えんだん!」


「けんざ~ん!」


 陽向が格好良く腕を振るうと、そこから放たれたかのように薄緑の刃が熊太郎――一凛命名を切り裂いていく。

 それに負けじと、茜が腕を縦に下ろす。すると、魔物の頭上に炎の弾が出来上がり、それが次々に襲い掛かる。

 二人に続いて、お立ち台を作り終えた麗奈が魔法を発動させる。

 地面から土の槍が突き出して、熊太郎の群れを串刺しにしていく。


「な、なんだ、この蹂躙劇じゅうりんげきは……これが子供の力なのか?」


 お立ち台の上で力無く膝を突く成瀬は、その後も特務隊『翔』の華麗なる戦闘を黙って鑑賞することになるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る