31 めざすは


 あの石はどこから生まれたのだろうか。

 突如として空から降って湧いた石を眺めつつ、この世界の不思議について考える。

 なにしろ、アレはメテオという呼び名ではあるものの、本当の隕石などではなく、魔法によって生み出された石なのだ。

 不思議なことに、それは地に落ちると消えて無くなるのだけど、その前に己が役目を果たすべく、飛竜の頭にコツンとぶつかる。

 ただ、その石の大きさは人の頭ほどでしかなく、威力もたかが知れていた。だから、飛竜も然して気にすることなく、こちらに向かってくる。


「んーーーー!」


 どうやら、たいして気にしていない飛竜の態度が気に入らないらしい。ココアを抱いた葵香あいかが不満そうな表情で中指を立てた。


「こら! 葵香、その癖をやめなさい!」


 まるで母親の如く、氷華ひょうかが葵香の頭を叩きながら叱りつける。

 確かに、可愛い顔をした八歳の少女が、舌を出しながら中指を立てる仕草はイケてない。

 ところが、頭を叩かれた葵香は、叱ってくる氷華にも不満があるようだ。


「んーーーー!」


 今度は、器用にココアを抱いたまま、己が両胸を抑えて舌を出した。


「ムキーーーー! なによ! あなただって大きくなる保証はないんだから、いつか泣きを見るわよ」


「おいおい、氷華、図星を指されたからって、子供に当たるなよ」


一凛いちかだって大して変わらない癖に、なに他人事みたいな顔してるのよ」


「な、なんだと!」


 こうして氷華と一凛による恒例のバトルが始まる。美静が現れてからというもの、やたらと胸をキーワードとする話に過敏になっている。

 ただ、いい加減にそのパターンにも慣れてきた。

 口喧嘩し始める二人を他所に、飛竜に向かって魔法を放つ。


「吹き飛べ! 爆裂!」


 その一撃は、猛烈な勢いで空を舞う飛竜に襲い掛かると、あっという間に三匹をズタズタにした。

 魔法を放った僕自身が、どうやって爆発が起きているのかすら理解できないのだけど、三匹の飛竜は力無く地面に急降下する。


 ガス爆破ではないだろうし、混合爆発でもなければ、水蒸気爆発でもないだろう。してや核爆発なんて絶対に在り得ない。でも、なんでもいっか。ちゃんと破裂してくれてるのだから……


 因みに、現在の力なら飛竜を木っ端微塵に砕くこともできるけど、そうすると食料としての価値がなくなってしまう。

 よって、威力を落とした爆裂を使用している。


 ボロボロになった飛竜を眺めながら、今更ながらに魔法の不思議について考えるのだけど、すぐさま後ろから声が聞こえてきた。


「ちょ、何してるのよ、黒鵜君」


「お前は手を出すなって言ってるだろ」


 空中で起こった爆発音にさえぎられたのだと思う。言い争いを止めた氷華と一凛が苦言を漏した。

 ただ、これについても日常茶飯事となっている。だから、いつもの言葉で応じる。


「二人が戦わないからだよね? さっさとやらないなら、僕が全部倒すからね」


「あぅ……取り敢えず、今は戦闘に集中しましょ」


「くっ……そうだな。隙を見せたら、全部、黒鵜にやられちまうからな」


 二人はまるで僕が悪いかのように苦言を漏らすと、頷き合って戦闘を再開する。


「喰らいなさい! 槍!」


 最近は、ワードが面倒だと言い始めた氷華が、空を飛ぶ飛竜に右手を向けて単語を叫ぶ。

 次の瞬間、これまたどこから湧いたのか、一メートルくらいの氷の槍が現れて、見事に飛竜の羽を突き破る。

 その数も一本や二本ではない。それこそ雨のように降り注ぐ。


「もういいだろ! 氷華も打ち止めだ!」


 ぼたぼたと落下する飛竜を目にした途端、一凛がすかさず釘を刺し、すぐさま地に落ちた飛竜へと向かおうとする。

 ところが、氷華から待ったの声が掛かる。


「あっ、ちょっとまって、まだ飛んでるのが居るのよ! それはいいわよね?」


「ちっ、しゃ~ね~、地に落ちたら手を出すなよ。おら~~~~~~ぁ!」


「分かったわ」


 結局は、空は氷華、地は一凛で話がついたようだ。

 返事を聞くのもそこそこに、一凛は物凄い勢いで地に落ちた飛竜に向かっていった。

 ただ、注意すべき問題は他にあると思うんだ。

 そもそも、彼女達は最も危険な存在を忘れているような気がしてならない。

 不安を抱きつつも、少し離れた場所へと視線を向ける。


「おらおらおら! 死にさらせ! 今夜のオカズになれ!」


 そこでは、いやいや君こそ僕のオカズになってよ。と言いたくなるほどの爆乳女――美静みすずが暴言を吐きながら、自衛隊でハチヨンと呼ばれる携行可能な無反動砲をぶっ放している。


 腕を振るう以外に、大きな胸もさぶっている美静は、既に人格が変わっているので完全に放置だ。

 そう、触らぬ神に祟りなしというじゃないか。

 実際、それは心情的な話しであり、距離を置いているのには他の理由がある。

 なんたって、ハチヨンの後方爆風バックブラストが危険極まりないのだ。

 だから、彼女には離れた場所で戦ってもらっている。


 ん~、一凛が後弾うしろだまを喰らわなきゃいいけど……


 景気よくハチヨンをぶっ放している美静を眺めていると、かなりヤバイんじゃないかと思えてくる。


 なにしろ――


「おらっ! 掛かってこい! てめ~ら、ピーーついてんのか? ピーー!」


 そんなに連呼することないよね……そんなに好きなの? それなら僕が……いや、切り落とされそうな気がするから止めておくかな。いや、それよりも、やたらめったらと撃ち捲り過ぎだよね。周りなんて全然見てないでしょ?


 ――なんて状態なのだ。


 そもそも、彼女は放送禁止用語の使用頻度が高過ぎる。

 葵香の教育的にも良くないので、近くに来て欲しくない。というか、葵香に中指立てを教えたのも二重人格者であるミューズみすずだ。


 ああ、彼女からミューズと呼べと言われたので、ジキルの時は美静と呼び、ハイドの時はミューズと呼ぶことになっている。

 なにやら石鹸みたいな印象があるのだけど、怖くてそれを口にできない。

 氷華から聞いた話では、ミューズとはギリシャ神話に出てくる文芸を司る神々達らしい。でも、どう見ても文芸とは程遠いように思う。というか、対極と述べても偽りではないだろう。


 それはそうと、全員が戦闘に集中したところで、葵香の教育を始める。


「葵香、中指なんて立てたら、男の子にモテなくなるよ?」


「ん……」


 さりげないとげで、ココアを抱いた彼女が一気に萎れた。

 こんなご時世でも男の子にモテたいようだ。

 というか、八歳にして男の子にモテたいと考える女の子ってどうなんだろうか。

 八歳の男なんて遊びたい盛りで、女の子のことなんて気にしてなかったように思う。ただ、女の子にとっては普通なんだろう。そう自分に言い聞かせる。


「葵香は可愛いんだから、そんな仕草をしなけりゃ、めちゃめちゃモテるようになるよ。てか、人生の半分以上がモテ期になるんじゃないか?」


 落ち込む彼女にフォローを入れると、瞬時に笑顔となる。

 その辺りが子供特有の立ち直りの早さという奴だろう。

 でも、フォローのためとはいえ、モテ期なんて言葉を出したのが拙かった。

 というのも、僕自身が落ち込んでしまう。なにしろ、未だにモテ期なんて到来していないし、こらからも見込みがないからだ。


 葵香の教育をしていた筈なのだけど、気が付けば地縛霊のように地面に座り込んでいた。そして、彼女はそんな僕の頭を撫でてくれる。


 う~ん、いい子じゃないか……なんか、この子が他の男と、なんて考えられんな……娘を持った父親の気分ってこんな感じかな?


 それはそうと、今更ながらに現在の状況はというと、美静や葵香を保護すると決めて、魔法を教え始めたのは昨日のことだ。だけど、結局は美静に教えても無意味だということが判明し、飛竜の駆除を再開することにしたのだ。


 因みに、住家としているパン屋からここまでは、美静所有のメガクルーザーに便乗させてもらったのだけど、あの車が動くのも彼女の能力だった。

 なにしろ、燃料の残量を示す針は『E』の文字を指していた。そう、エンプティーからなのだ。本来なら動くはずがない。

 そのことを知って、彼女に様々な器具を扱わせてみた。すると、燃料がないのに風呂が沸き、コンロに火が点き、照明までも点灯した。

 そう、まさに彼女は人間電池。はたまた人間燃料のような存在だったのだ。


 そんな人間電池が無法な攻撃を続ける中、さすがは素晴らしき野生の勘と言うべきか、一凛は見事なほどに味方の攻撃を避けながら飛竜を駆逐していく。

 風前の灯火の如く、みるみると退治される飛竜を眺め、この戦いもそろそろ終わりが見えてきたと感じるのだった。









 極上とも言える香ばしい匂いが漂う。

 その香ばしい匂いは、すっかりと空っぽになったお腹を刺激する。

 実際、飛竜との戦いはそれほど苦労した訳ではない。それどころか、僕の出番は殆どなかった。

 ただ、その後始末の方が大変なのだ。

 戦闘の四倍の時間を掛けて、屍となった飛竜しょくりょうを全員で倉庫へと運び込む。

 まあ、僕の場合は、この後に解体という作業があるので、彼女達よりも数倍大変なのだけど、誰も手伝ってくれる者は居ない。

 美静は飛竜の血臭で悪阻つわりの如く吐き気を催し、葵香は一切近づこうとしなかった。

 当然ながら、氷華と一凛も都合よく自分の用を思い出したか、そそくさと建物の中へと消えてしまった。なんとも、薄情な奴等だ。食う時になると我先にとやってくる癖に……


 まあ、愚痴はさておき、飛竜の回収を終わらせ、今日の分を氷華特性の冷蔵倉庫にぶち込み、いつものようにパン屋の前で焼き肉を始めていた。

 もちろん、網の上に乗っているのは飛竜の肉だ。

 正直、この肉はどれだけ食べても飽きることがなく、毎日の主食と化している。

 というか、処理を手伝わなかったバツとして、お預けにしてやろうかとも考えた。だけど、そんなことをしようものなら、理不尽な仕打ちを受けるに決まっている。だから、少しだけ不機嫌さを見せつつも黙っておくことにした。

 まあ、彼女達の視線は飛竜の肉に釘付けなので、不機嫌な表情なんて全く見ていないだろうけどね。


 因みに、野外での食事なのだけど、魔法で作り出した光球によって明るさを確保している。そのお陰で夜でも暗いという印象はなく、まるで室内のような感覚で食事を進めている。

 ただ、女性陣からすると、その明るさは弊害を生んでいるようだ。


「ちょっ、黒鵜君、後ろに来ないでよ」


 用意した肉が無くなり、新たに補給しようと丸椅子から立ち上がった途端、食べる手を止めて背を隠した。

 すると、一凛がニヤリと嫌らしい表情を浮かべ、クスクスと笑い声をこぼす。


「くくくっ、別に氷華の貧弱な尻になんて興味ないと思うけどな。きっとターゲットは美静だぞ」


「なんですって! 自分のお尻を鏡で見てから言いなさいよ! というか、そうなの? それはそれで由々しきことだわ」


 一凛に揶揄からかわれ、真に受けた氷華がギロリとこちらをにらんでくる。


「そんな気は無いよ。氷華、一凛に担がれてるんだよ」


「ぬぐっ」


「くくくっ。あはははははは」


 上手く弄られたと知って、氷華は肉もないのに歯噛みし、してやったりと言わんばかりに一凛の笑い声が轟く。

 そんな状況でも肉に集中している美静は気付いていないようだ。


「ん? 自分がどうしたのですか? いえ、そんなことよりも、師匠、肉の補充をお願いします」


「んーーーー!」


 これまでのやり取りに全く関心がなかったのか、はたまた肉に対する執着心が全ての音を遮断しているのかは定かではないけど、肉が無くなった途端に、美静が意識を向けてきた。

 葵香に関しても、肉が足らないのが不服なのか、必死に網へ箸を向けながら肉を焼けとアピールしている。


 はいはい、分かってますよ……てか、食べすぎでしょ。みんな、太るよ?


 彼女達の背後に視線を向けないように気を付けながらも、溜息を吐きつつ新たな肉を取りに行く。


 ああ、背後に移動した途端に不満を露にした氷華に関してだけど、実は色々と理由がある。

 ぶっちゃけ、それほど難しい話ではない。というのも、彼女達が口にしてるのは飛竜の肉だ。

 そうなると、誰もがご存知の通り、そろそろ尻尾と羽が生えてくる頃なのだ。

 それ故に、以前、素っ裸の姿をガン見された二人は間違っても同じてつは踏まぬと、食事の時だけ特殊な服を着るようになった。

 そう、背中とお尻に穴が開いた服を着ている。そして、それは美静と葵香にも義務づけられた。

 お陰で、葵香は良いとしても、美静の裸体を拝むチャンスを失ったのは、至極残念だと言わざるを得ない。


 まあ、そこまでしても食べたくなるほどに美味しいんだよね……


 偉大なる飛竜の肉について考えつつ、新たな肉を切り分け始める。

 すると、氷華が声を掛けてきた。


「この肉って、とても美味しいんだけど、やっぱり肉だけだと問題があるわよね」


 自分の皿に確保してあった肉を美味しそうに頬張りながらも、完全な肉食系女子になってしまったことを問題視しているみたいだ。

 ところが、その発言に異論があったのだろう。リスのような頬になっている一凛が否定する。


「別に肉だけでもいいじゃね~か。ああ、コメは必要だけどな」


「ナーーーー!」


 一凛の物言いは、食に対する暴言とも呼べそうな発言なのだけど、ココアは彼女に賛成らしい。

 ただ、即座に氷華がそれを一蹴した。


「別に、あなたがどうなろうと構わないわ。たとえ、ブヨブヨの女になろうと、肌の汚い女になろうと、私の知ったことではないのだけど、私は勘弁よ」


「ウンナ~?」


「うっ……」


 まあ、氷華の懸念は、ココアに当てまることはないと思うのだけど、一凛の場合はそういう訳にもいかない。それを理解したのか、彼女は口の中に肉を残したまま呻き声をあげる。

 すると、その話を聞いていた美静が追い打ちをかける。


「そういえば、肉食は大腸がんを促進する可能性があるらしいです」


「うぐっ……」


 肉を飲み込んでいる最中だったのか、一凛が苦しそうな表情で目を白黒させる。


「もっとゆっくり食べなさいよ。はいっ!」


 胸を叩く一凛に、氷華は小言を口にしながらも水の入ったコップを渡す。

 それを慌てて受け取ると、一凛は何をさて置き一気に飲み干した。


「ぷっぱ~~~~! 死ぬかと思った……」


 命辛々といった様子で生還した一凛が声を漏らす。

 氷華はそんな彼女に冷たい視線を向けながら話を元に戻した。


「正直、肉の備蓄びちくは私達だけなら一生分くらいあるけど、これからは他の食べ物が不足するわ。特に野菜なんて、今でも全く存在しないもの」


「だったらどうするんだ? 自分達で栽培するか? てか、肉を食べながら話すことじゃないな。それに、そんな顔で食べるのは、肉に失礼だぞ」


 困り顔を作りながらも最後の一切れ食べている氷華に、完全肉食系女子である一凛が透かさずツッコミを入れる。というか、最終的には肉に敬意を払うことを要求した。

 だけど、氷華は渋い表情を見せつつも無視して話を続ける。


「栽培するにしても、上手くいくとは思えないのよね……種もなければ、モミもないし……でも、この先も肉だけという訳にはいかないでしょ?」


「確かに、その通りだね。お米も、今はドラッグストアや米穀店に残ってた分があるけど、いつまでもある訳じゃないからね。さて、如何したものかな」


 氷華の懸念を尤もだと感じ、一緒になって頭を捻る。

 ただ、全くて良案が浮かばない。

 すると、美静がおずおずと話し掛けてきた。


「野菜もそうですけど、師匠はこの先どうするつもりなのですか? ずっと、魔物を始末して回るんですか?」


 少しばかり不安そうな顔をした美静の発言は、僕自身がこのところ悩んでいたことであり、様々な案を考えてはいるのだけど、全く結論に至っていない事柄だった。

 それ故に、全く整理されていない考えをそのまま伝えるほかない。


「そこなんだよね……正直、僕も悩んでるんだ。というのも、当初の目的は、既に果たしてしまったように思う」


「当初の目的?」


「ん?」


 その目的を知らない美静と葵香が首を傾げている。

 そんな二人に教えてやる。自分達の目標がこの世界を生き抜くために、飛竜を簡単に倒せるくらいの力をつけることだったのだと。


「ああ、それなら達成されているように思えますね」


「ん!」


「そうなんだけど、僕等の本当の目的は生き抜くことであって、強くなることじゃない。だから、わざわざ魔物を探して徘徊する気はないんだ」


 納得の表情で頷く美静と葵香に続きを話すと、黙って聞いていた氷華が自分の考えを声にする。


「そうなると、やっぱり町興しなんじゃない?」


「町興し?」


「そう、町興し。復興よ。ここを安心して住めるような環境にするのがいいと思うわ。もちろん、魔物は全て排除しからになるでしょうけど」


 何の話か理解できずに問い返すと、彼女は頷きながら説明を始めた。


 それは、このジャングルと化した汐入地区を開拓し、人の住める環境に戻すという話であり、そこで自給自足ができる環境を整えるという内容だった。


 どうやら、氷華も色々と考えてたみたいで、まるで用意したかのようにスラスラと話を続けた。

 ところが、そこで一凛が茶々を入れる。


「正直、うちに農業なんて無理だぞ?」


「僕も自信が無いな……」


「自分は……恐らく無理です」


「ん……」


 一凛の言葉を皮切りに、誰もが向いていないことを宣言する。


 というか、彼女達の場合は炊事すら真面にできないほどに女子力が欠落している。ほんと、戦い以外に向いていることがあるのなら見せて欲しいところだ。


 日頃の彼女達を思い出して絶望的な心境となる。

 それでも、氷華は顔色一つ変えずに首を横に振った。


「別に私達が農業をする必要なんてないわ」


「じゃ、誰がするのさ」


「そんなの、やりたい人にお願いすればいいのよ」


「ぐはっ、なんつ~わがまま……女王様だな」


「違うわよ! 失礼ね」


 渋い表情を露わにした一凛がダメ出しをする。

 すると、氷華は憤慨しながらも説明を続ける。


「私達は警備や肉の確保担当になればいいでしょ? 戦闘に向かない人も居るんだから、そういう人達に他のことをお願いすればいいのよ。さすがに、何もしないで生きていける世界ではないでしょ? まあ、引き篭もってもやることなんてないんだし……そう、ギブアンドテイクよ。ギブアンドテイク」


 確かに、その考えは一理あると思えた。特に、引き篭もりの話なんて説得力がありすぎて、彼女が引き篭もりだったのではないかと思えるほどだ。

 ただ、彼女の話は理解できても、当面の行動をどうすれば良いのか分からない。それ以前に、働き手の当てすらない。


「目標がそれだとして、これからどうすればいいの? どこかに働いてくれる人が居るの?」


 無い知恵を絞ることを諦め、頭を使う作業を氷華に丸投げした。

 その辺は、ここ最近の役割分担なので、文句も言わずに答えてくれる。


「まずは、拠点の確保と交通手段……といっても、車はあるから、道路が必要かしら? 次に、育てる食物の種とか? あとは、人材の確保。これは~、まあ、ショッピングモールに残ってたくらいだから、他にも生き残りがいるでしょ」


 先程よりは自信がなさそうだけど、彼女の考えは真っ当だと思える。

 納得できたところで、頷きつつ一凛と美静に視線を向ける。


「僕的にはそれで良いと思うけど、みんなはどう思う?」


 その問いに、美静と葵香はすぐさま合意し、一凛は「肉食は止めないけどな」と、一言付け加えつつも頷いてくれた。

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