12-1『他国訪問』

≪6月17日 土曜日≫



僕はATに呼ばれ、彼の部屋を訪れていた。

僕は扉をノックし、入れの合図のあと扉をあける。


「入ります」

「うむ…」

「……」

「……」


え、何故いきなり沈黙? なんか悪いことしたっけかな?


「あの…AT?一体何のようなのでしょうか」

「今回君を読んだのはこの件に関してだ」


ATがそう言うと僕の目の前にモニターが浮かび上がり部屋がその光で明るく照らされる。

が、モニターが邪魔で彼の姿は見えなくなった。

浮かび上がるモニターには僕がATに言われ行った例の研究所上空での戦闘の映像が流れ始める。

この件とは戦闘でのことらしい。

音声なしの映像が一通り流れ終わるとモニターの向こうからの声が届く。


「何故、敵を逃がした」


ATはゆっくりとした口調で一言そう言った。


「それは…」


なんと言えばいいのだろうか。

最後に見た彼女の顔を見て…ここはなんと言うべきだろう?

見とれた?……いや違うな。

驚いた?……これも違う。

違う。確かに青い髪の彼女をかわいいとは思ったが決して見とれたのではない。

懐かしいそう感じたのだ。

しかし、なんなんだろう。このモヤモヤとした気持ちは

友人であるATに嘘はつけない。

でも、それを言ってはいけないとも思っている。


「どうした?何を黙っている」


映像のノイズはひどく消せないと星那は言っていた。

なら、嘘はつかず最低限誤魔化せそうなことを言おう。


「あ、えっと……気絶したんです。敵の攻撃にやられました。まさか電気を使ってくるとは思いもよらなかったから痺れて」

「ふむ、成る程そうか」


モニターが消え、奥の人影が頷くのを見て僕は安心し、大きく行きを吐き出す。


「しかし、逃がしたことは事実。これだけの戦いをしたので敵はこちらの戦力をあれだけだと思ってくれてはいるだろうがまた今度いつ襲ってくるのかわからない。だがもし、敵が来た時お前がそこにいなくてはならない。それは分かるな」

「え?」


そういうもんなのかな?

むしろいない方がどこかに潜んでいると思われて多少の注意は引ける気がするけどな。

でも、手慣れた彼がいうのだからもしかしたらそういうもんなのかもしれない。

僕はそう思い「…はい」と頷いた。


「ふむ、もしまた敵が現れた際は連絡する。その時は前回同様にあの場所で私に連絡するといい」

「はい、分かりました」


それから話は1分もたたずに終わり、僕は部屋を出た。


「あいつの話し方、俺にたいして敬語になっていたな……まさかな」


防人が部屋を出、真っ暗で静かな部屋のなかでATは静かに呟いた。



≪6月22日 木曜日≫



あの光牙爆発未遂事件から一週間が経ち、周りの人たちも落ち着きを取り戻し始めた。

それはもうほんとそんなことなんてなかったぐらいに教室で聞こえてくる話はゲームだったりファッションだったりという世間話で事件のことは誰も話していない。

朝のホームルームで話すなと教師に言われているのもあるからかもしれない。

なのに僕の目の前に座る植崎バカは…。


「なぁ、あの警報はお前の奴が原因なんだってな」

「……」


普通に聞いてくる。

しかも大声で、さんざん休みに話してやったのに忘れているのだろうか?


「なぁ、教えてろよぉ。どんな感じだったんだよ」


あぁうっとおしい。朝からずっとこの調子だ。 本当に一体どういうつもりなんだ?


「なぁ、おいってお…」

「その話はするなと今朝がた言ったばかりなはずだがな、まさかそれほどまでに忘れやすいのか? 貴様は」

「ひぃっ…せ、せんせー」

「言うこと1つ覚えられんのなら叩き込んでやろうか?」

「あぁ、いえ、大丈夫です。覚えてますです。すみません」

「ふん、なら構わん。がしかし、次見つけたらただではおかんぞ」

「は、はぃぃ」


悲鳴のような返事、静かに聞こえてくる数人の笑い声、これもこいつがバカやった時のいつも反応だ。

そして智得先生は何事もなかったかのように授業を始めた。



授業を終え、放課後。

僕はいつものように風紀委員室へ向かう。

そしていつものようにサッと扉から後退る。


……?


どうしたことだろうか、いつもならば向かいの壁を突き破らんがごとく勢いよく飛び込んで来るはずの僕の天敵であるめだかさんがこない。


「一体中で何が?」


僕は警戒心を持ちながらゆっくりと扉を覗くとめだかさんは素早い手つきでキーボードを叩いていた。

どうやら僕が来たことにも気づいていないようだ。


「あの…一体何をしてるんですか?」


僕は奥に腰掛ける竜華さんに声をかける。


「あぁ、彼女ね。ほら、この前の未遂事件に慧くんが関わってると知ったらね。いきなり風紀委員を掛け持ちするって言い始めて。犯人捜索は打ち切りと言ったのに聞かないのよ」

「あぁ、成る程」

「慧くんずいぶん彼女に好かれたわね。ここまでしてくれるなんて」

「好かれるならもっと別の好かれ方をしたかったですよ」

「まぁ、そうね。それは察するわ」

「あれ?どこかに行くんですか?」

「放課後の見回り。犯人はいないと言われても私だって出来る限りのことはしたいしね」

「それなら僕が代わりに行きますよ。竜華さんは三日間ずっと探し回っていたんですからここでお茶でも飲んでのんびりしていてください」

「駄目よ」

「いや、そんなこと言わずに」

「私は何も言ってないわよ」

「え?」


この部屋に今千夏さん、白石はいない。

ということは…


「行っちゃ駄目よ。防(さき)ちゃんあなたは狙われてるんだから」


めだかさん、気づいてたんですね。


「狙われてるって大袈裟な。あれは単なる事故ですよ」


この人に犯人は学園内にいるなんて言った片っ端から手をかけていきそうだ。


「それでも駄目。どうしてもというのならぁ見た目を変えていきなさい」

「へ?見た目を変えるって」

「決まってるでしょ」



「…だよね。そうだよね。うんわかってたよ。言われた瞬間、そんなことだろうと思ったよ」


女性ものの服を着た、着させられた僕はめだかさんとともに今現在学園内三階を徘徊している。

ここは音楽室や美術室など部活動の部屋が多く、放課後の今は生徒がけっこう集まっている。

だが皆部活動中なので廊下には人はいない。


「んふふ、防ちゃん。私全然会えなくて寂しかったんだから」

「あの、あんまりくっつかないで」


彼女の柔らかな感触が腕から伝わってくる。


「大丈夫よ。だぁれも見てないんだからでも誰かいてもバレないわよ。新しく買った変声機をつけてるんだもの」

「でもこのチョッカー型の変声機、旧式の安いやつで声を女の子っぽくするだけで完全に変えることは出来ないじゃないですか」

「駄目よ敬語は。だって私たちは友達なんだから」

「はぁ~……うん。そうだね。めだかさん」

「ちゃん」

「……え?」

「めだか『さん』じゃなくてめだか『ちゃん』って読んで」

「えぇ!? いやですよ。なんでそんな風に呼ばないと…」

「言ってくれなきゃもっとくっついちゃうわよ? ほら、ほらっ」


あぁ、彼女のそこそこにふくよかな胸が僕の腕を挟み上下している。

凄く柔らか……いや、意識したら駄目だ。

意識しちゃ駄目だ。意識しちゃ駄目だ。意識しちゃ駄目だ。意識しちゃ駄目だ。意識しちゃ駄目だ。

……くそぅ意識したら駄目だと思うほど意識してしまうぅ。


「あの、ちょっと、くっつかないで」

「だったら私の名前を呼んでめだかちゃんって」

「分かりました。めだ、めだ、めだか…」


めだかさんに言おうとしたときガラリと音楽室のとびらが開き、中からフルートと楽譜を持った女子たちが数人話ながら出てきた。

どうやら個別練習のために出てきたようだ。

この格好が見られるのがとてつもなく恥ずかしい(しかも女子に)僕は顔が熱くなっていくのを感じながら言う。


「めだかさ――ちゃん…部活動の邪魔になるから他のところを見回ろうか?」

「うん、分かったわ」


めだかさんは頷いて僕の腕により強くしがみついた。


「あの…少し離れて」

「ダーメ。このまま見て回りましょ」

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