11-12
「はぁ…はぁ…」
息を切らしながら僕は走り、第三整備室の扉を潜る。
すると警告ランプにより赤く染まったその部屋で星那とその父であり学園の教師である『治直(なおすぐ)先生』の二人がモニターを凝視しながら素早くキーボードパネルを叩いていた。
「コアからの生成粒子を吸引しつつ放出の出力を減少」
「減少完了。出力、安定値に到達したよ」
「よし、速やかに全機能を停止だ!」
「うん……光牙こちらからの信号を受信。全機能停止するよ」
「よし、後はこちらがやる」
二人の掛け合いの後、警告音は鳴りやみ、室内で安堵の息を漏らす。
「あ、お前!」
どうやらこちらに気づいたようだ。
星那は大股でこちらに近づいて来ると思いっきりのいいパンチが僕の鳩尾(みぞおち)に深々と突き刺さる。
僕はうめき声を漏らしてその場に膝をつく。
そして星那からの力強い平手打ちが僕の左頬を赤らめさせる。
「お前は何やってんだ!あれほど操作パネルには触んなって言っておいただろうが!」
「え、いや、えっと…一体何が?」
いきなりのことで思考がついていかず、思っている事がそのまま口に出る。
「パネルをお前が勝手にいじったせいで出力の数値やらなんやらがメチャクチャになってたんだよ。そのせいで内容量以上のエネルギーが光牙の中に入っていって臨界点ギリギリまでいってたんだよ。もうちょい対応が遅れてたら核(コア)が爆発しかねなかったんだよ」
「えっと、つまり……」
「つまりだなこの場所にクレーターが簡単に出来上がっちまうようなメチャクチャ危険な状態だったんだよ」
「は、はぁ……それでどうしてそんなことに」
「さっきも言っただろうが!お前がパネルを勝手に」
「ちょっちょっと待って。僕はパネルなんて触ってないよ。全然システムのこととか分からないし、壊したりしたら色々とマズイことも分かってるし」
あの……ちょっと待って。あの…なんでさっきから貴女の親父さん黙ってるの?
見たいけどちょうど彼女が影になっててこっちからじゃ顔見えないんだけど、一体今あの人はどんな表情でこちらを見ているの?
「あぁ!?じゃあ誰が触ったんだよ!」
「いや、そんなこと言われても……」
ちょっと胸ぐら掴むのやめて…これ身体にピッタリフィットなやつだから結構苦しい。
あ、でもお陰であの人の顔は見えるように…
「やったよおまえ…あの子にもやっと対等に喧嘩する相手が出来たよ」
えっ、あれ? なんか泣いてる。ガッツポーズしてる。
えっちょっと待って対等に話し合いなんてしてないんだけどほとんどというか完全に一方的なんだけど
「いつもならあの子に泣かされてそこで関係が終わってしまうからな」
いや、泣かされるというか殺されかねないんだけど。あれ? おかしいなぁ、さっきまでの緊迫した空気は一体どこへ飛んでいってしまったの?
「ここはワシの力でできる限りのことはせにゃあならんな」
親バカだ。あの人ただの親バカだ。
はじめて会ったときは凄く真面目そうでしっかりしていてそうだったのに。
娘にもあんなに厳しく接していたのに……特定のことに過剰に反応するようなタイプの人なのかな?
「おいこら、何黙ってんだ!?」
「いや、だからさっきから言ってるけど僕は一切触ってないんだって」
「じゃあ誰がやったんだよ?」
「だから知らないって……あぁ、そうだ監視カメラの様子は?こういうところはちゃんとそういうので見張っているでしょ?」
「あぁその手があるな」
星那は僕の胸ぐらから手を離し、振り返る。
「ねぇ、パパ監視カメラの記録って今観ることできる?」
「うん?あぁ、そうだなぁ確か教員ナンバーでアクセスかければ可能だったと思うが」
治直は手帳を取り出すと慣れた手付きで操作を始める。
「……おぉあったあった。今日のここの部屋のカメラ記録。見易いようにそこの端末に転送した。モニター開けれるか?」
「うん、大丈夫。映し出すよ」
目の前に大きな映像が浮かび上がると周りがシンっと静まり返り、皆の視線がモニターへと集中する。
僕と星那の会話、食事の映像が流れ、星那が部屋を出ていく。
そしてその数分後僕が部屋を出ていく映像には部屋の装置類や光牙のみが写し出され続ける。
さらに眺めること数十分、突如映像が乱れ始め、中の様子がよくわからなくなる。
そしてその数秒後、乱れていて人なのかすらよくはわからないが何やら黒い影がこの部屋の出入口付近から表れて素早い足取りで動き部屋の中を歩き回っている。
そしてモニターに写る映像が元に戻る時にはその影は消え失せ、部屋全体が光牙から放出される小さな光の粒で満たされ、警告ランプによって赤く染まっていた。
「そしてこれから先は私たちがやってきて問題の沈静化か……これは」
「明らかにあの映像が乱れていたところで何かやられたのだろうな」
「……あんたいつからそこにいたんだ?」
智得先生が入り口付近でそう呟き、星那が嫌そうな顔でそう粒いた。……苦手なのかな?
「そうだな…ちょうど映像でお前が防人に蹴りを入れていた辺りからだな」
「…ビクッ」
星那が僅かに震え、智得先生はゆっくりと彼女へ近づいていき目の前で腰を曲げ、視線を合わせる。
「学園内での闘争、殺傷その他、人の迷惑になる行為は校則により禁じられている。お前も知っているよな?」
「はぃ…知ってます」
「では先程の行為に対し、何か弁解の言葉はあるか?」
「いぇ…なぃです。少し感情的になってしまいました。すみません」
星那は小さな声で言い、頭を深々と下げる。
何だろう?似た光景を少し前にも見た気がする。
「私に謝っても仕方がないだろう?」
先生がそういうと星那はゆっくりとこちらに向かって歩いてくると今度は僅かに頭を下げて口を開いた。
「ごめんなさい」
上目遣いになったその瞳に涙が貯まってはいるがその眼光は鋭い。
『お前のせいで怒られたじゃないか』と訴えかけているかのようでなんか申し訳ない気持ちになる。
「いや、別に、うん、いいよ。こっちにも全く非がないこともないし……なんかごめんね」
だからこっちも謝っておくことにした。
「うん、これで手打ちだ。今後、先の問題行動に対して私は何も言わん。……さて、本題に戻ろうか」
智得先生はパネルに触れ、光牙に関するのモニターを見易くなるように大きく表示しなおす。
いつの間にか先生が仕切っているが、まぁ突っ込まないでおこう。
「さて、今回の問題に関してだが映像記録からして犯人は防人がこの部屋を出ていき少ししてここに入ってきた人物ということになる。残念ながら映像は乱れているために犯人の顔は分からないが少なくともここにいるものは犯人ではないだろう」
「じゃあ誰が犯人なのか目星がついとるのですか?」
治直先生は淡々と智得先生に聞く。
「分からん。だが、ここにいるものは犯人ではないというだけだ。…治直、今すぐにこの二人を寮まで連れていけ。犯人の目的は未知数だ。私は他の教員や生徒会、専用機持ちとも話を通して警戒を強化する」
「分かった」
「あぁそうだ防人、お前はくるなよ。戦闘経験も浅いうえにお前の専用機は現在使えるかどうかの検査もまだだ。もし、戦闘することになりその時に異常がでれば他の者たちに迷惑をかける」
「そうですね。わかりました」
「うん、では先生。二人を部屋へお願いします」
「あぁ、分かった」
治直先生は頷き、僕ら二人は先生に連れられて自分の部屋へ戻った。
その日、学園中の捜査が行われたが結局犯人は見つからなかった。
今夜は教員たちが交代で見張ることにし、捜査は打ち切られた。
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